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会見

「北里さん」


 東雲から声をかけられた。


「どうしたのかね、東雲くん」

「お疲れの様子だったので声を掛けました」

「そうか、ありがとう」

「中々に難しい会見でしたね」


 渡してきたペットボトルには野口凛桜が写っていた。いつの間にスポンサー契約をしたのかと、北里は詰りたくなったが、2時間をかけて釈明を続けた会見の後だと自然と怒る気がしなかった。


「なんせ何もわかっていないのに、会見を開かなければならない辛さよ。どれだけの文言を調査中といったことか」

「本当にお疲れ様です。私が出た方がよかったのではないでしょうか?」

「いや、こういうのは上が出てきて責任をとるものだ。私はPCPJの全責任を背負っているのだから、問題が起こったら釈明をするのはもはや義務だ」


 それをしない国のトップなどいくらでも見てきたのだがなとはさすがに言わないでおいた。治外法権状態とはいえ、PCPJの本部は防衛省の管轄下にいる上、建物も航空自衛隊と同じ階にある。発言には気を付けなければいけないのだが、しかしここでは自然と気が緩んでしまう北里であった。


「そうは言いますが、本来この仕事は防衛省が上についているわけですよね」


 技師の1人、照本がそう口を開いた。休憩中なのだろう。今技師たちはプルクの侵入経路と侵入証拠の解析で追われていて、3日3晩と寝ずに続けていたのだ。


「まあそうなるわけだが」

「それじゃあ防衛省のトップが会見をすべきではないですか?そうじゃなくてもこのプロジェクトの直接管轄部署である航空自衛隊が……」

「ちょ、てるちゃん!」


 名前が照本だからか、東雲はてるちゃんと呼んでいた。


「言いたい気持ちはよくわかる。だがそうはいっても彼らは仕事をしない。前に出ろと言われても、自らの保身しか考えないのが彼らだ。あ、ここでの彼らは省庁内の人間のことではない。上についている省のトップだ。トップはお飾り、これはこの国の歴史ではむしろスタンダードだ」

「ひどい話ですね……」

「ひどくもないさ。君はまだここにきて数か月だから知らないかもしれないけれど、昔の防衛省トップはもっとひどくてな。PCPJなんぞ不要と言って組織自体解体しようとしたことがあるくらいだ。そう言いださないだけマシということだ」

「それ、言葉だけなら私も聞いたことあります!!」


 東雲も会話に参加してきた。


「私もその時そこにいたわけではないよ。ただ話を聞いていただけさ。あまりにも無能なうえに働き者だから、よく愚痴を聞いていてね」

「その頃北里さんは何歳だったんですか?」

「中学生くらいかな?いまのSakuraよりも年下だよ」


 野口凛桜のことをあえてSakuraと呼んだ。北里は最初にそのキャッチフレーズを聞いた時には反吐が出そうになった。今となっては何とも思っていない、というわけではない。北里は今でも少し、いやかなり、野口凛桜について言いたいことが多かった。


「一体、どなたからそんなことを聞かれていたんですか?この業務なんて国家の一流機密事項ですし……」

「照本、休憩終わりだ!!」


 後ろから声が響いた。呼ばれた照本はさっさと出て行った。北里も反省して、そろそろ業務を始めようとしていた。昔話なんてものは、もっと年を取って過去を思い出すことでしか生きていけなくなった老齢期にやればいい。今は目の前の問題に集中するしかない。そう思いつつ、もらったペットボトルをパソコンの隣においてスイッチを入れた。小さなウィンドウには流行のニュースが流れ込んできていた。そこには自分自身の下手な会見に関するニュースももちろんあった。


【安寧な暮らしはもう終わりか!?!?】

【世界崩壊??無能政府のすべてを暴く】

【不安に思う住民の声、責任は何処に!?】


 なんて言葉が躍っているほどだった。


「苦労を知らないというのは幸せなものだな……」


 そう呟いて、北里は部下に連絡を取った。


「こちら北里、PCPJ北里。質問をするので回答をお願いする。資料もエビデンスもいらないから簡潔明瞭に答えろ」

「了解」

「原因はつかめたか?」

「ヒントすらない」

「対策はできそうか?」

「いたちごっこになりますね」

「場当たり的にはいけるのか?」

「侵入経路の人員を増やせば」

「侵入経路はそこだけなのか?」

「……多分他にもある、だからいたちごっこです」


 そうか……北里は黙ってしまった。追加の指示を出すか悩んでいたのだ。


「……ヒントすらないなら、体勢を立て直すか?」

「個人的にはそうしたいですが、しかし国民にはどう説明する気ですか?」

「いいさ別に。それで責任問題に発展したら私が降りる」

「それは困りますね。もう、野口さんはいないんだから、北里さんがいなくなったらこの世界は終わりです」


 この野口さんは、間違いなく野口凛桜のことでもないし、野口凛姫のことでもなかった。昔のPCPJを知る者にとって、野口と言えばあのお方なのだろう。


「なら無理のない程度に進めろ。これはトップの命令だから、例え成果が何も上げられなくても私の責任だ」


 少しだけ間が開いて、返答が返ってきた。


「……そういうことなら、少しお願いがありますね……野口の娘さんに、意見を聞きたいですね」

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