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「お姉ちゃん」
朝ごはんを食べ、束の間の休息を楽しんでいた凛桜が、不意に凛姫に尋ねた。凛姫はまるで質問が飛ぶことを予見していたかのように、椅子をくるっと振り返ってじっと凛桜の方を見てきた。すでにもう、昨日の騒動について何か聞かれるのだろうと想定していたのだろう。
「どうしたんだ妹よ」
「昨日の騒動ってさ、あれなんだったんだろうね」
凛桜はあえてぼやかした言い方をした。凛士はぼーっと2人を見ていた。凛姫は少しだけパソコンに目を落とし、そのあと再び振り返って脚を組んだ。ちろっと見えた脚は、骨と皮しか見えなかった。
「そうだなあ。地下世界にあれだけプルクが入ってくるなんて、前代未聞の大惨事だ。怪我人含めて1人もいなかったなんて、幸運にもほどがある……」
「……冷静に考えてみたんだけどさ。あれ、本当に攻める気があったのかなって」
凛桜は凛士の作ったコーヒーを啜りつつ、その黒をじっと見ていた。
「明らかに敵意がなかったんだ。地上にいるプルクは、私が見えたら死に物狂いで追って攻撃してくる。敵だからそれは仕方ないと思ってるんだけどさ、そんな気配が全く見えなかったんだよね」
凛桜は昨日のプルクの態度に、まるで危害の加える様子のなかった態度に、多大なる不信感を抱いていたのだ。
「ほう」
「大体さ、10人以上のプルクが捕縛されたってのに、彼らのした所業は何?上がってきてないわよね」
「まるで斥候のようだったと?」
「それ以下よ。最早、人間のいるところに連れてこられるとは思わなかったみたいな顔をしていた」
「それは……中々興味深いな」
「逃げることしかしなかったしね。戦う意思は全くなかった。天井が落ちたのは問題だけどね」
「それに関しては1つ追加情報があるぞ」
凛姫が指を鳴らすと、モニターが上空からの航空写真を映し出した。そこには、問題となったデパートの屋上が映し出されていた。
「まだドローンの仕事が終わっていなくてね。まあ半分は私の趣味で、この街を観察しているのだが。そこにこんな映像が写っていてな」
「ちなみにどうやって指を鳴らしてモニター画面出したの?」
「それはRPAで事前に自動化しておいたのだよ。プルクがいなくなったら国民にも広く浸透するだろう……」
デパートの屋上にはプルクが降り立っていた天空から降りていたが、誰もおかしいとは思っていないようだった。
「ステルス機能?」
「みたいだな。このドローンを調整しておいて本当に良かった。一般人には映っていないのだろう。問題なのはここからだ」
10人ほどのプルクが屋上に降り立った。その瞬間に、屋上が地盤沈下するように崩れていった。プルク達すらそれを予想していなかったかのように、驚いて慌てふためく姿を映していた。
「え?なにこれ?欠陥住宅なのこれ?」
「住宅ではなく商業施設だがな。いやそういうことかはわからない。しかし、きな臭いのは事実だろうな。ステルス機能を使ってやってきたプルクが、全員降り立った瞬間にたまたま崩壊するなんておかしいし、しかも凛桜が発見したってことは崩壊した瞬間にステルス機能は切っている。最初は斥候が、現場とコミュニケーションが取れずに屋上崩壊と機能消去のタイミングを間違えたのかと思ったが、もしかして……」
2人で黙ってしまった。とある可能性が見えてしまったのだ。
「誰か、プルクの情報を知って動いた人間が、この国にいるってこと?」
上記の言葉を発したのは、凛姫でも凛桜でもなく、凛士だった。
「凛士………」
「普通に話せるんだねあんた」
「………………」
しかし凛士はまた黙ってしまった。つかめない奴だなと、凛桜は心の中で毒付いた。
「まあ情報を知っていて、一網打尽するためにこんな大掛かりなことを国が主導したっていうんだったら、その不器用なやり方は置いといて考え方としては同意できる。ただそうじゃないとしたら……」
凛姫は押し黙った。凛桜はそれに被せるように言葉を付け足した。
「国がプルクをいれてるってこと?じゃあこんな目立つことする?私なら秘密裏に人間界に紛れ込ませて、内部からの崩壊を目指すかな。それこそかつて、プルクが地上でやってきたことみたいにね」
「それもそうだな……うーんわからん」
凛姫は何かを隠している様子は全く見せず、首をひねっていた。凛桜もこれ以上の明暗が思い浮かばなくて閉口してしまった。こういう時に普段無口な凛士が何かヒントとなることを言うのがミステリーの筋だが、凛士は大河ドラマの続きを見たがって箱を眺めていた。
「あー凛士、悪かったね。ほら、思う存分見なさい」
そう言って凛姫がパソコンをオフにした瞬間、テレビに切り替わったモニターでは北里が釈明の会見を開いていた。
「そういやさ、どうやってあいつらは侵入してきたか、結局わからないままなの?」
凛桜がそう尋ねると、凛姫はこう言った。
「多分今からじゃ答えないだろうね。なんせ、全く因果がわかってないんだから」




