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朝方

 日曜日くらいのんびり寝かせてくれというのは古今東西老若男女が訴えてきた当然の権利であるが、残念ながら凛桜にはその権利が剥奪されていた。往々にして日曜には、仕事の話が入ってくるからだ。国防に休日はない。むしろ皆が休んでいる時ほど、戦っているのだ。


 しかしその日はいつもとは違う休日だった。寝起きにタスクチェックをしたのだが、仕事が来ていなかった。理由は明白だ。昨日のプルク事件から、政府はその対応に追われているのだ。予定されていた侵攻作戦は中止、PCPJもマスコミ対応と原因究明、対策検討に追われているようで、寝る前にテレビをつけていたが同じような内容しかしていなかった。確かに国民の生活にかかわることなので、仕方ないと言えば仕方ないが。


 凛桜は早朝にやっているかつての地球の美しい風景ばかりを映したテレビ番組が好きなのだが、時計のディスプレイには急遽取りやめになってしまったと表示されていた。凛桜は不満げに頬を膨らませつつ、自室のベッドから起きて洗面所で歯を磨き始めた。


 これまでも日曜日に仕事の入らなかった日はあった。そんなときはたまった掃除と洗濯に充てていたのだが、既に凛士がすべて完璧にこなしていた。そんな凛士、今はキッチンで朝ごはんを作っていた。バジル味のウィンナー、凛桜の好物の匂いが充満してきて、歯磨きの動かす腕のスピードが少しだけ早くなった。


 凛桜が歯磨きを終えキッチンにつくと、朝6時半からドラマを見ているようだった。かつて国営放送が年間スパンで流していた、大河ドラマというやつだ。CG基調でしか作れない今のドラマと違い、実際のロケ地で撮影したというそれは、言い知れぬ臨場感が凛桜の身体中を駆け回らせていた。


 刀を持って戦うそのドラマは、幕末の頃を取り上げているようだったが、まるで異世界のようだった。世界はすぐに崩壊するし、すぐに形を変える。例えドラマというフィクションの中でも、それを実感できた。


「…………おはよう」


 凛士はようやくこちらに気付いたようで、小さい小さい声でそう言ってきた。


「おはよー。朝からドラマなんて、相変らずこういうの好きね」


 凛士は浴衣を着ながら家事をしていた。金色の髪と不一致を起こすと凛桜は思ったのだが、紺色のそれはまるで日本文化大好きの外国人みたいな風貌に早変わりさせていた。変に違和感がなかった。


「というか、これお姉ちゃんが勧めたの?」


 凛士はこくんと頷いた。頭がすっと下がるのを凛桜は目視した。


「お姉ちゃん、こんなの持ってたんだ。知らなかった。いつの時代の何だろ……」


 凛桜は部屋の周りを見渡して、Blu-rayのケースを探した。昔のドラマだから、ネットダウンロードではなくちゃんとしたハードディスクがあるだろう。凛桜のその予想は、凛士の指先で証明されてしまった。


「あーこれ?ありがとう……」


 座っっていたソファから立って、本棚の上に置かれたケースを見た。放送年度は2010年、今から約40年前だ。


「よくこんな昔のBlu-ray持ってたねえ」


 そう言いつつ凛桜は興味なさげに映像を眺めていた。聞いたことのある偉人の名前もあったが、演じている俳優さんは誰も分からなかったので興味がわかなかった。むしろ、刀が出るからと興味を持ち、実際に映像を通して刀を見て満足そうな顔をする凛士のほうがおかしいのだ。


「……今日は、仕事?」


 凛士はぽつりと呟くように尋ねてきた。


「や、今日は家だよ。休みになった」

「休暇?」

「そうそう、休暇」

「でも…………」


 ん???凛士は何かを言いたげな顔をしつつ、それを呑み込んでしまった。何があったのだろうと凛桜が尋ねようとすると、背後からきいいっとドアが開いた。凛姫が珍しく早起きをしたのだ。


「凛士や………ご飯はできたかい?」

「お姉ちゃん!!あんまり無理しちゃダメだった!!!」


 凛桜が支えに行ったものの、それに甘えつつ凛姫は自分の足でテーブルまで行って座った。目の前には朝ごはん。しかし凛姫の前には芋けんぴ。


「凛士?なんでお姉ちゃんにはこれなの?」


 凛桜は全力で凛士を睨みつけた。


「凛士を責めないでくれ。これは私が命令したのだから、私が責任を取ろう。芋けんぴを一日三食にする刑でいいか?」

「それ、全く罰になってないよね?っていうかわかってたからそんなの。凛士が独断で芋けんぴを出すわけないじゃん」


 そう憎い口を叩きつつ、凛桜も席に座った。凛桜の前には、しっかりとした朝ごはんが並んでいた。サラダとウインナーとクロワッサン。


「それでは、いただきます!」


 凛姫がそう言ったので、妹弟の2人も追従した。


「いただきます!!!」

「………………いただきます」


 そうして、凛姫からしたら恐らく数年ぶりに、3人揃ってご飯を食べ始めたのだった。懐かしくて涙が出そうになったが、ぐっとこらえて芋けんぴを食べていた。たまに凛桜がトマトを置いてきたりしたが、凛姫はすべてスルーしてもぐもぐと食べていた。

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