民衆
デパートについたらもう、プルク達の反攻は鎮火されていた。その陣頭指揮に立っていたのは、見たくもない眼鏡だった。お前が死んだら誰が引き継ぐんだよ。お偉いさんみたく引きこもってろよ。凛桜はそんな汚い言葉をぐっと心の中に押し入れて、なぜかV系バンドのライブTシャツを着たままの東雲に声をかけた。
「しのちゃん、戦況は?」
「わ!!!凛桜ちゃん居たんだ!!戦況はもう終わりそう。プルク用の催涙弾が役に立ったわ。色々聞きたいことがあるから一網打尽して根掘り葉掘り聞く予定よ」
通りで煙がもくもくとしていると思った。苦しむプルク達を見ていたら、凛桜すら涙を出しかねないと思った。そこにいたのは、大凡10体のプルク。かつての大掃除で掃討し忘れたのだろうか。凛桜はあまりの数に少し怪訝な顔をしてしまった。
っとここで時計がなった。あて先は姉からだった。凛桜はすぐに音声をつないだ。
「あーお姉ちゃん?どうしたの?」
「どうしたのもこうしたのもない!!!大丈夫だったか???怪我はないか???頭を打ったりしていないか???人ごみにつぶされたりしていないか???」
「してないわよ。何?心配かけてごめんね」
「そうか。無事なら何よりだ。それと、凛士はどこにいる?」
うげっ、凛桜は完全に凛士の存在を忘れていた。彼を置き去りにして、プルクをおっかけてしまった。
「凛士は……」
「……もしかして凛桜……」
少し空いた間を、凛姫は逃さなかった。
「喧嘩したんだな!!!」
しかしその嗅覚は、あらぬ方向へと向いていた。凛桜はその突拍子のなさに呆れた顔をしてしまった。
「喧嘩したんだな???喧嘩してしまったんだな???だからそうやって誤魔化そうとしているんだな??お姉ちゃんにはわかるぞ!!」
「んなわけないでしょ?ちょっと見失っちゃったのよ。ただでさえデパートは人ごみでつぶれそうだったんだから……ごめんだけど」
本当は自ら置いていったことは隠しておこう。隠し事だ。可愛い隠し事だ。
「何????どこだ????凛士はどこだ????」
凛姫は本気で心配した声をしていた。それはまるで、昔から家族だったかのような声だった。一体彼女の何がそうさせているのだろう。凛桜には全く理解できなかった。しかしそれでも、彼の現状については心配だと凛桜は思った。
「ちょっとさがしてく……」
「それよりもプルクの護送にSPをつけてくれ!!!」
そう指示が入った。指示をしたのは北里だ。むっと思ったが、仕方なく護送のボディーガードを買って出た。凛桜の姿は向こうでもほんの少し高名なのか、プルク達も降参したかのようにおとなしくなった。
「凛桜さん!!」
「こっち向いてーSakura!!」
「いつもこの街を守ってくれてありがとう!!」
凛桜が護衛に入ったらそんな声が響いた。デパートにいた客が野次馬となって、凛桜に向けて声援を送っていた。中には近づいてきて話をしようとかサインをもらおうとか、人によっては自分の動画チャンネルに写そうとする動きまであったが、警察や自衛官、PCPJの人達がその都度制止にかかっていた。
「なんだよあいつら、Sakuraがいないと何もできないくせに!!くそが……」
「威張ってんじゃねーぞ!!これだから公僕は……」
そんな声すら届いてきた。何も知らないことはいいことだなと、凛桜は思った。そんな、1人のヒーローの解決でこの世界は救われない、それがわかっていないのか……いやわかっていたとしても、そんな夢物語をこの世界で望んでいるのかもしれない。だって、辛いじゃないか。それくらいのヒーロー活劇がなければ、いつまで人類は地下で砂利を飲まされなければならないのか不安になるじゃないか。たまに彼らの視線がそんな思いを含んでいるように感じて、凛桜は目を逸らしてしまう時があった。
すべてのプルクを収容車に移送完了させた後、北里は車に乗り込むなというジェスチャーをしていた。親指をくいっくいっと動かし外に出るようしていた。その高圧的な感じが少しイラついたので、凛桜は頬を膨らましつつ地面に降り立った。多分、このまま凛桜が護衛として乗り込めば、車を追って人だかりができる。それをやめてほしかったのだろう。
凛桜はそのまま、人ごみにもみくちゃにされてしまった。こんな経験は別にないわけではなかったが、だからって好みだというわけではない。そのまましばらくは、マスコミ対応に追われる凛桜だった。聞かれるのはいつだってプライベートな話ばかり。たまに飛んでくるのは、官邸内のゴシップを狙うクオリティぺーパー(笑)たちの意識高いゲス話くらいだ。
でもいいことだ。昔はこんなことすらする気が起きなくて、終末論ばかりが流れていたのだから。そう気持ちを切り替えることにした。
その日は適度なところで抜けだして、わき道に入って帰ろうとした。作戦通り、後ろ髪を引かれるようなことも言われつつ脱出に成功した。するといつからか、後ろに凛士がついてきていた。
「あーあんた……ごめんね置いてって」
凛士は首を横に振りつつ、後ろについてきていた。手には今日買ったものを全部抱えていたので、その内の1つを手に持った。そして2人、まるで人間の兄妹のように並んで帰ったのだった。




