深堀
そうして彼ら彼女らがニコニコと買い物を楽しんでいるうちに、野口家へ来訪者が訪れていた。
「勝手にどーぞ」
凛姫はそう言いつつ芋けんぴ代わりの甘納豆を口に含んでいた。
「公権力の犬がどこ墓荒らししようが構いはしないからね。好きにやってくれたまえ」
「君は相変わらず失礼な物言いばかりするな」
北里はそう言いつつ、調査班たちの調査の様子をじっと見守っていた。カメラを自宅近くにセットしておき、凛姫と北里並んで画面を見続けていた。
「詳しい指示はしなくていいのか?」
「する必要などない。彼らは優秀な調査班だし、今回の目的についてもすでに共有済みだ。現場に着いてから会議など、時間の無駄もこの上ない」
「えらく効率主義的な……まあ正論だけど」
凛姫はそう言いつつ北里にコップを向けた。
「……お茶をつげと?」
「紅茶だ。インスタントでいいぞ。葉っぱから作れとは言ってない」
北里にとってみればこうした横暴な凛姫にはとっくに慣れていた。そして彼女の目線が、テレビモニターから全く動いていないことも承知していた。どうせ解析結果が出てくるまで出番がないだろう。北里はそう思い、コップを持って席を立った。
「Tバックはどこだ?」
「棚の上だ」
キッチン周りがあまりにも綺麗に片付いていたから、北里は少し戸惑ってしまった。あれは普段学校にいるし、凛姫はこんなんだ。誰が片付けているのだろうと、不思議に思うくらいだった。
「ハウスメイドでも雇ったのか?」
北里はそう尋ねつつお湯を沸かしていた。凛姫はちらりともこちらを見ないで答えた。
「まさか!そんなお金、うちにないさ。それにそこまでされるほど体は弱くない」
まあまあこれは高度な冗談をと、北里は思った。野口家はお金など潤沢にあるし、凛姫はハウスキーパーどころか要介護者が必要なレベルじゃないかと。言ったら怒られるのでやめておいたが。
「それともなんだ?妹さんが頑張ったのか?」
「いやいや、あの子は毎日忙しないっての。あんたらみたいなブラックな軍隊に毎回呼ばれて」
「傭兵の道を選んだのは彼女だが?」
「知っているさそんなこと。その掃除をしてくれたのは弟」
凛姫はえらくあっさりと答えた。あまりにあっさりとし過ぎていたために、北里の反応は遅れてしまった。
「え?君に姉弟なんて居ないはず……」
「北里所長!北里所長!」
モニター越しから呼ばれてしまったので、北里はそちらへ気が散ってしまった。
「照本てるもと研究員、こちら北里、どうぞ」
「きな臭い代物を発見しました。そちらに送ります」
そう言って調査に当たっていた照本という研究員から、1枚の写真がディスプレイに表示された。それを2人で凝視した。そこにあったのは、潮のような泡跡がついたマンションの壁だった。
「あり得ない紋様だ」
画面に出てきてからそう時間を置かずに、凛姫はそう言って甘納豆を口に含んでいた。
「はい。潮のふいた跡なんて、地上に近いこの辺りで発見されるはずがありません。これは地下へ地下へと無理やり掘り進めた際に出来たものです」
「かつての都市計画と急ピッチの地下都市拡大要請が引き起こしたものだったな」
照本の説明を北里はフォローしつつ、マジマジと今回見つかった紋様を見ていた。
「なので通常なら、地下に近くなれば近くなるほどその紋様は多くなる」
「なるほど、プルクは地面を掘り始めたってことかい?」
凛姫は非常に合理的な考えで結論に至った。
「それでここにぶち当たったんだとしたら、結構厄介なんじゃない?これまで地下は安全だ安心だと吹聴してきたのに、これじゃ瓦解待った無しだそ?」
「痛いところをつかないでくれ」
北里はわかりやすく腹を抑えたが、本心でも結構腹が痛かった。
「その周りに穴はないか?」
「無いですねえ、もう少し探してみます」
今度は少し年配の男の声がした。
「まあそんなわかりやすいものはないだろう……」
そう嘲っていると、デパートで騒ぎが起こっているという一報が入ってきたのだった。その情報主は、東雲だった。
「北里さん!今どこですか?デパートに、プルクらしき生命体がいると連絡が入ったのですが!!」
緊急の連絡だったので、東雲は相手の応答に問わず電話をかけられるエマージェンシーコールを使って北里に連絡した。たまに北里もかけてくるやつだ。
東雲は頬と腕と手のひらによくわからない紋様を刻んでいた。これは黒魔術などではなく、恐らくV系バンドのライブにでも行ってきたのだろう。服も黒色で、I leaked a peeとか書いてあるし
「その前に、君の服はなんだ?」
その前にと言いつつ、もう北里は連絡を入れている様子だった。2台持ちの腕時計を交互に使いこなしていた。
「べ、別に部屋で音楽を聴いていただけです!」
音楽を聞くだけでそれだけ準備するのか……凛姫は呆れてしまった。しかし、そう東雲も動揺と恥ずかしさで照れた顔を見せつつ、どこが問題のデパートか座標をしっかり表示させていた。凛姫がいた時よりキビキビ動くようになったと思うのは、恐らくそれだけ情勢が深刻化している証左であろう。その中でも趣味に没頭できる精神を持っているのは、心強いと凛姫は思った。
「わかった。ここに増援を送ろう。ついで詳しい状況を把握し横展してくれ」
デパート……表示された場所を凝視した。そう言えば、凛桜と凛士が行っていた……凛姫は大変嫌なことに気づいて、急に不安になってきた。
「なあ、北里」
「なんだ?」
「頼みがある」
「一応聞こう」
「街中でロケランぶっぱなしたいんだが……」
「却下だ!」
凛姫はもうドローンの仕事投げてやろうと思うほど、肩をガックリと落としたのだった。




