表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/45

着せ替え

 地上ではプルクと人間とが激しい争いを繰り広げているのだが、地下ではずっと平穏安寧な日々が送られていたのかというとそうではない。こんな風に地下での平和が保たれているのはここ数年のことだ。無論戦闘初期は地下には平和があったものの、徐々に戦況が悪化していくにつれて地下にもその魔の手が伸びていたのである。


 凛桜が最初に始めたのはそのプルクの排除からだった。そして今となっては地上に戦線を張るくらいにまでなったのだ。それは少しだけ誇らしかった。こうして元気にお店が並んでいる姿は、さすが過去に何度も何度も天災から復興してきたこの国の底力だなと思った。戦争経験は薄いものの、壊された家屋や敵わない存在からの理不尽に慣れているのだ。


「まずは何がいいかな?どこに行きたい?」


 凛士はそう声をかけられても、周りをきょろきょろとしていてこっちに反応してくれていなかった。もしかしてこの子、街に来たことがないのだろうか。凛桜はしばらく泳がして様子を見ておこうと思ったが、それでも一向に決断しない凛士に少し焦ってしまった。


「そんなにこの街が面白いの?かつての日本にはどこにでもあった街並みよ。商店街とデパートとチェーン店が並んだ、さしずめベットタウンの駅前って感じね。まあこの地下世界に鉄道はないけれど」


 凛士は鉄道にとても反応していた。もっと語ってくれないのかなと思ったのか、凛桜に向けてキラキラした視線を向けていた。


「え?どうしたの?鉄道について語ってほしいの?」


 うんうんうんと首を大きく振る凛士。金色の髪の毛とつぶらな瞳があどけなさと庇護欲を無邪気にアピールしていた。やばいなと凛桜は思った。何故なら彼女は、リアルで鉄道も電車も見たことがなかったのである。


「い、いや……あ、あそこのお店に行こう!!メンズの服売ってるからさ」


 凛桜は逃げるようにして彼の手を引っ張っていった。今度鉄道関連の本を本屋で購入して、凛姫に読み聞かせをお願いしよう。何?自分でやれと?それはあまり乗り気になれなかった。そんな横暴なところが凛姫そっくりだったが、彼女がやるとそれは爛漫と評されがちだ。この野口家は、3人ともどこかしら我儘なのだ。


「ほら!!どう?何か欲しい服はない??パンツとかはしむむらでパパっと買っちゃうからさ、外行きの服を買い揃えようよ」


 凛桜のその提案に、凛士はこくりと首を縦に振った。首を縦に振ってくれるだけでこんなにも安心するとは思わなかった。なぜか一向に言葉を交わしてくれないが、表情とボディランゲージである程度のやり取りはできるのだなと凛桜は感心していた。マルチリンガルスピーカーの発達で外国語を勉強する必要性が低下した現代において、それは少しだけ前時代的で、普遍的な価値を感じた。


「どんな服が似合うのかしらねえ。童顔だから子供っぽい服の方がいいのかなあ」


 そう言いつつ凛桜は適当なお店に入って短パンと黒色のベストと白色のTシャツを揃えた。


「その辺にあるものどんどん着ていってよ。気に入ったものがあれば買うからさ。とりあえず金に糸目つけないでね」


 しかしながらそこからは、苦難の連続だった。


「あーこれよくない??これに黒色の帽子とか合わせたら、年下アイドル感あってかっこいいよ!!」

「……………」

「ん??気に入らない??」


 首を縦に振る凛士。


「あーこれもいいじゃない!!黄色のボーダーがすごい似合ってる!!腕にミサンガとかつけてもいい感じじゃない??」

「……………」

「ん??これもダメ??」


 首を縦に振る凛士。


「そっかあ。もしかしてあんまり可愛い系は嫌いなのかもなあ。うーん、男の子と出かけたことのない経験不足が露呈しているなあ」

「……………」

「これはどう??シックな感じだけど??」

「……………」

「あーいいじゃない。結構モノトーン系も合うんだねえ。いいと思うよ。これには黒縁の伊達メガネとは付けたら可愛いんじゃない??」

「……………」

「あれ?これもダメ…?」


 首を縦に振る凛士。そしてさっとカーテンを閉じてしまった。うーん、服のセンスが良くないのだろうか。黄色のTシャツとか白の半そでシャツとかチノパンとか、うまい子と組み合わせて服装考えていると思っているんだけどなあ。そんなことをつい考えてしまう凛桜だった。こういうところで凛士に対して苛立ちを覚えないところは、凛桜の良いところだ。


 カーテンから出てきた凛士は丁寧に試着した服を戻そうとしていた。


「あーこれはこちらで行います!!ありがとうございます!!」


 と店員さんに言われたら、素直に服を渡した。そしてそのまま、エスカレーターの方へ歩いて行ってしまった。


「え?え?どうしたの??」


 凛桜は店員さんにありがとうございましたと言うのを忘れずに行った後で、さっと駆け出して凛士の方へ向かっていった。もしかして怒ってしまったのではないか。むりやり私服を着させていら立っているのではないか。凛桜はそう感じてしまって少し焦っていた。


「お、怒った?ごめんね。いい服が見つけ……」


 しかし凛士はとてもにこやかな顔をしていた。そしてとある宣伝用のポスターを指さしていた。そこに書かれていたお店は、このデパート3階の催事場にて出張してきた呉服屋だった。そう、凛士はただ、遠くにかかっていたポスターを発見して、目を輝かせていたにすぎなかったのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ