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落胆

「で?なんでプルクがここにいたのだ?」


 凛姫は凛桜がいなくなって、小国も学校の授業のため帰って行ってしまった後で本題へ入った。そもそもなんで、地下世界にプルクがいたのかわからなかった。いやまあ話としては反応があると聞いてはいたものの、だからといってそれがこんなにも早く露呈するとは夢にも思わなかったのだ。その思いは北里も同じだった。眼鏡をくいっと上げた北里は、小難しい顔をしつつ首をすくめた。


「全く持って申し訳ないが、こちらも何故かはわかっていない」

「使えない男」

「何か言ったか?」

「別に何もー?」


 テレビの方をちらっと覗いた。するとそれだけでテレビをつけてほしいと感じ取ったのか、凛士はてくてくとリモコンの方へ近づいていき、ぽちっとテレビをつけた。凛姫は声には出さず、ただ胸の前で手を合わせてすまないという意味を込めた。するとテレビの電源を消そうとしたので、全力で首を振った。少し怯えた顔をしていた凛士は、そのままリモコンを置いてちょこんとソファの隅っこに座った。


 テレビではすでにマスコミたちがその落下現場に集まっていた。


【見てください!!!こちら古くからのお店の集まる商店街ですが、先程上空よりプルクが落下してきました!!!】

【いやあねえ。いきなりドシーンっていう音がして、誰か身投げでもしたのかと思っちまってよお。ほらそこなんか、地上に近い建物があんだろ?そこからなんか落ちてきたのかと思ったんだけど、まさかエイリアンとは思わなくて大発狂さ】

【町中パニックでしたよ。プルクが落ちてきた!!!!ついに地下世界にも奴らが帰ってきたんだって!!!最初は逃げまどっていましたけれど、動かないって知ってからは捕獲に入ろうとする勇敢な方々もおりましたね】


「なかなかのニュースじゃないか。三船雄三のゲス不倫より前に出てくるなんて」

「それは当然だろう。そんな芸能人のくだらない話と、国の荒廃にかかわる問題なら、腐れ切って落ち切ったマスコミでもその重要性は認識できるだろう」

「ニューテレ東は昔のアニメやってるけどな」

「あそこは仕方ない。いつもそんな感じだし、こちらとしてもその方が気は楽だ。むしろ中途半端に社会派ぶってデマをあえて流し続ける他のテレビ局の方が、よっぽど悪質だ。そんなにもこの国を滅ぼしたいのかとすら思ってしまうな」

「流石普段からマスコミ対応しているお偉いさんは違うねえ」

「正確には関与していないぞ。主に身を粉にしているのは東雲君のところだ。もう少ししたらテレビで今回の件について声明を出すだろうな。まあそういっても調査中のところが多すぎて、ろくな結論には至れていないが」


 北里はふうと息を吐きつつ、頭をひねっていた。それを私は目ざとく見つけて、軽く口を叩いた。


「えらくお疲れの様子じゃないか。本当に何もわかっていないのか?」


 凛姫はそう勘ぐりを入れてみたが、北里は何も答えてはくれなかった。というかむしろ、参っているかのような雰囲気だった。


「そうか、本当に何もわかっていないのか……」

「ああ、地下世界へ行くルートは完全になくなっている。すべての出入り口は封鎖され、怪しい人影すら通ったとは言われていない。なのにこうして侵入を許してしまった。誠に遺憾だ。歯がゆすぎる」

「前みたくステルス機能でも使って侵入してきたのではないか?」

「一応センサは配置してあるのだが、そこすら反応はなかった。例えステルス機能を常備していたとしてもそれをくぐってくるのは不可能に近いはずなのに。熱源のセンサだから姿の見える見えないは関係ないしな」

「まあでもドローンが阻害されていたんだから、可能性としてはあり得るのではないか」

「……検討はしているが、立証が難しくてな。それにもしもそれほどまでに強力に身を隠せるのなら、正直言って我々の技術力では手に負えない」


 北里はがっくりして肩を落としていた。その気持ちは痛いほどわかると、凛姫は心の中で彼を擁護していた。この事態は想定外だったはずだ。安全と比較的な快適を求めて地下世界に人類は逃げ込んだというのに、その安寧が壊されるなら我々はどこで暮らせばよいのかとなる。だから一刻も早く彼らの侵入経路を把握する必要があった。それは理解できたのだが……凛姫の目の前にいる少年はテレビをぼーっと見ていた。


「ん?どうした?」

「いえ何も?たまたまテレビをつけていたら今度は空中でパワードスーツになった挙句多くの街行く人に写真を撮られた某女の子について書かれていたニュースを見て、相変らずの食い付きだなあと」

「民放6社全部その話題か?」

「ニューテレ朝だけだな。残りはゲス不倫の続きをやっている」

「ほんと、この国は平和ボケしているな。プルクが落ちてきたことより、アイドルさんの生態の方が気になるなんてな」


 凛士は話していることがあまり理解できずに、ぼうっとテレビを見る作業の再現をすることとなった。まだまだこの世界に来て幾日の彼には苦しかったようである。


「まあ暇があったら調べてみるさ。何なら今日来るかい?家に」

「ああ、お邪魔したいのはやまやまだが、今日はやめておくよ。まだまだしないといけないこともあるからね。明日のお昼ごろでいいか?ちょうど休日で、い……妹さんもいるだろ」


 妹さんと呼ぼうとして、少しだけ口が回らなくなっている北里を見ると、彼がどれだけまじめな青年かということが嫌ほど伝わってきた。凛姫ははあと頭をかきつつ、そして少しだけ難しい顔をしてしまった。


「まあいいけれど、あの子たちは適当に追い出しとく」

「恩に着る」


 そしてその日の北里との通話は切れてしまった。ニューテレ朝もやっとわが妹のことから脱却して、くだらない色恋沙汰を取り上げ始めていた。それを興味なさげに見ていた凛士に対して、私はフォローを入れた。


「それじゃあ、読み聞かせの続きをするかい」


 その言葉ににっこり笑って、凛士はてくてくと凛姫のもとへ寄ってきたのであった。

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