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追撃

「へ?凛桜今なんつって?」

「だから、弟ができたって言ったのよ」

「親がいない野口家にか?養子か?」

「その辺の男の子をお姉ちゃんが勝手にそう呼び始めた」

「……いみわかんない」


 希美の言葉は何よりもの正論だった。凛桜も思わずうんうんと頷いてしまった。


「止めないのか?」

「止めても無駄だし。しかも厄介なことに黙々と家事をやるのよ」

「家事?」

「そう。お風呂溜めたり料理運んだり皿洗ったり洗濯物畳んだり……」

「ハウスキーパーかな?」

「これまで私がやってきたことやってくれているから、結構楽でさ。それに甘えて昨日は結局捨ててくるように言えなかったんだよね」

「それはしかたない。学校行きながらの家事はつらい」

「そうなのよ。本当にどうしようかなあって」


 野口凛桜の昼休みは、希美とご飯を食べて過ごしている。防衛学校といえども、昼ご飯の時間くらいは確保してくれているのだ。そこまでここはブラックではない。今日のご飯は弟、いや凛士が作ったものも一部含まれていた。特にこの雑に転がっているウィンナーなど典型的だ。


「まあ、気まぐれだろ」


 希美はそんな投げやりな返答をしつつ手に持っていたクリームパンを口に流し込んでいた。口に流し込むという表現は間違っていない。かみ砕いた様子などみじんも見せずに胃に通っていくその食い方は、女子らしいのかそうでないのか凛桜には判別できなかった。


「そうだといいんだけれど……」


 ぶーぶー、手首がバイブ音で驚愕してしまった。電話には出たくなかったが、仕方なく出ることにした。なぜならまたも北里だったからだ。


「はいこちらいたいけな女子高生」

「自分で言うか?まあいい。先程、突然野口家から通信が途絶えた」

「へ?」


 そう言った瞬間だ。ぼおおおおおんんんんん!!!!と爆発音が聞こえてきた。屋上で食べていた凛桜と希美からしたら、それははっきりと凝視できた。


 凛桜は一瞬の判断で電話を切った。そして屋上の縁に足をかけた。キリっと振り返って、希美に言伝を頼んだ。


「午後の授業、休むって伝えておいて!!」


 凛桜は希美の顔を見ずに、屋上から飛び降りた。そして腕のスマホアプリを起動させ、一気にパワードスーツを装着した。地上で戦うものとは違った、少しみすぼらしいものだったが、今はそんなこと言ってられなかった。屋根と屋根を飛ぶように進んだ。途中からは斜め60度の道をダッシュした。野口家は地上近くに存在しているから、一般的な屋根より上らないといけないのだ。だからこそ、遠くの爆発について学校の屋上から見ることができたのである。


 爆風は既に収まっていた。その割に家の周りは整然としていて、その時点で私はこの爆発を起こした主について大方理解した。こんな芸当、凛姫以外誰もできやしない。


 会談を駆け足で登っていくと、爆風から間一髪逃れた様子のプルクがいた。なんでこんなところにプルクがいるんだ!!そんなことは後回しである。さすがにここでは、凛桜だって容赦はしなかった。


「何してんだよこんなところで!?!?!?!?」


 そして後ろから一撃!!鈍い音とともにふらついたプルク。その顔は……同じ人間のように感じてしまうから嫌いだ。夜の方がいい。顔を見ると情が移るからいやだ。それでも凛桜の腕は鈍らない。2撃目で首を折ると、3撃目ではおなかに向けて銃を撃った。これでもまだ死なない丈夫さが、プルクの怖いところである。そんな彼らだからこそ、爆風だけで薙ぎ払っていく凛姫のすごさが際立つのだが。


 がちゃりとドアを開けた。その瞬間に手につかんでいたプルクを窓外に放り投げてしまった。反射的とはいえ、凛桜の失態には違いなかった。あーあ、これは北里に怒られる案件だなあ。少しだけ舌を出しつつ、恐る恐るドアを開けてきた凛士の方を見た。凛士はおびえている風には見えなかった。


「お姉ちゃんは?」


 凛桜がそう尋ねると、凛士はすすっと後ろに下がって、さっと手を伸ばしてきた。そして部屋の奥には、完全に伸び切って体力0状態になっている姉の姿があった。通常ならばこの状況、何かされたのかと心配するシーンであろう。しかしながらここは野口家である。これくらい日常茶飯事だということは、住み着いて2日の凛士ですらうすうす理解していた。


「お姉ちゃんまたプルク用ランチャーぶっ放したの?」

「そうなんだよぉ。あれを正確にぶつけるってのは結構至難の業なんだ!!わかるか?」

「わかるよ。でもお姉ちゃんが使う筋肉って指だよね?なんでいつもそうやって全身が疲れ切っているのよ」

「ちょっと読み聞かせしていたからね」


?という顔を浮かべつつも、凛桜は深く突っ込まないことにした。


「まあ、でも、無事でよかったよ」


 ニコッと笑う凛桜。なんだかんだと言って彼女は、この家のことを気にかけているのだ。


「っというか、お前学校はどうしたんだ?」

「あーもうさぼった」

「悪い子だなあ」


 そう言いつつも凛姫は盛大におなかを鳴らしていた。


「……ご飯にする?」

「……する」


 その2人のやり取りを聞いて、凛士はまっすぐ調理場へと向かっていった。それを私は制して、手を洗い始めた。


「こっちは大丈夫よ。それより、あんたはそこでごろごろしているお姉ちゃんの面倒見てきて」


 そうして凛桜は学校をさぼって2人分の食事を作り始めたのであった。

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