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 お風呂の湯加減はちょうど良かった。もしも初めてお風呂の湯を溜めたのであれば、これからは銭湯で働くことを推奨するレベルだった。まあここは地下だし温泉地なんて観光地は壊滅しているのだが、なあに安い銭湯くらいは未だにご存命だろう。知らないけれども。


 シャワーも浴びて、髪もまくり上げて、割と上機嫌になりながらバスタオルを巻いた。凛桜のGカップの胸だと、谷間がくっきりと見えて、並の男性なら眼福ものだった。そしてリビングに戻ってくると、凛姫がソファに寝転がって耳掃除をお願いしていた。勿論掃除をしていたのは凛士だ。


「あっ!!!そこそこ!!!そこがいい!!!!いいっっっ!!!!いいのぉぉぉぉ!!!!!あっっっっ!!!!もっと!!!!!もっとついてぇぇぇぇぇ!!!」

「お姉ちゃん、何やってんの……」

「ん?耳掃除だが」


 どん引きいていた凛桜は、いつもの調子でバスタオルを巻いてリビングに出てきたことを後悔した。同じ部屋に男がいるではないか。さっと脱衣所へ向かって、下着とキャミソールを着て再び参上した。


「そんなに気にしなくてもいいじゃないか。家族だろ?」

「何いきなり家族ってことにしているのよ!!私は認めないからね。こんなどこの馬の骨かわからない男を家にあげるなんて、私には無理!!」

「……なんかそれ、娘さんを僕に下さいって言いに来たお婿さんを一蹴するあれっぽいな」


 そう言って凛姫は無邪気に笑った。そしてむくりと起き上がると、さっと浴槽の方を指さした。


「次は凛士が行きな。なあに、私は夜行性でね。お風呂は朝に入ってそのまま寝るタイプなんだよ。だから遠慮しなくていい。何かわからないことがあったらこのお姉ちゃん2人に任せるんだよ。なあ、凛桜」

「ちょっと、はなから私任せる気満々じゃない!!」

「と言っても服がないのか……」


 その時の凛士の格好は、どこで拾ってきたのかわからないぼろぼろのTシャツ1枚と、これも糸が解れ始めている短パンだった。残念ながらここは2人暮らしだ。男用の服などないはずだった。


「仕方ないな。電話しよう」

「へ?誰に……」


 凛桜の突っ込み前に、凛姫は遠隔操作で電話をかけ始めていた。相手は、わが日本の誇る頭脳だった。


「もしもしこちらPCPJ……」

「おい北里。良い感じのシャツとパンツをこちらへよこせ」


 唐突なる脅しだった。無論電話の先ではあたふたしている北里の姿があった。


「と、唐突にどうしたんだ??」

「30分以内に届けろ。じゃないとおまえの恥ずかしい過去をすべてばらす」

「なんでこんな訳の分からない脅迫を!?なんでか理由を教えてくれないか?」

「うるさいなあごちゃごちゃ言わずにパンツよこせ!!」


 これは完全に動揺する北里を喜んでいるだけだった。凛姫は案外こんなお茶目な性格なのだ。決して人が悪いとかそんな悪口を言ってはいけない。決してだ。


「まあそれは冗談として、打ち合わせしたいことがあるから電話をしたんだ。新品の男用パンツと適当なTシャツをつけて送ってくれ。お金は輸送料含めて後で返す。事情については話さないが、機を見て話すからよろしく頼む」

「……相変らず君は強引だな。わかった。即座に送ろう。そしてすまないが打ち合わせは今度にしてくれないか?すでに予定がブッキングしているのだよ」

「……湯川防衛副大臣?」

「そうだ。すまないな」


 そして一方的に電話は切られてしまった。あたあたとしている凛士に対して、凛桜は少しぶっきらぼうに言った。


「行ってきていいよ。ゆっくり浸かってきな。頭の傷は、また治療してあげるから」


 そう言われて、凛士は戸惑いつつ浴室へ向かっていったのだった。凛桜は凛姫の横暴っぷりに頭を抱えつつ、風呂上がりのコーヒー牛乳を手にしてぐびぐび飲んでいたのであった。

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