第43話 暗殺者は迷宮の底力を痛感する
男の爪が俺の首を通過する。
肉の引き千切られる音がして、鮮血が噴き出した。
首がやたらと熱い。
「おぉ……っ?」
視界が勝手に傾いていく。
首が取れそうになっているのだ。
このまま離ればなれになると、さすがに不味い。
俺は反射的に頭を掴んで固定した。
再生を促すように、強く押さえ込む。
その間に男はさらに踏み込んできた。
超人的な動きだ。
見開かれた双眸からは、理性が吹き飛んでいた。
先ほどまでの様子からは想像も付かない大胆さである。
俺は斧を掲げて舌打ちした。
(野郎……っ!)
斧を振り下ろす前に、横合いから弾丸が飛んできた。
さらに火球が飛来すると、どちらも男を捉える。
視界の端には、ケイト達がいた。
タイミングを見計らって攻撃したらしい。
確実に命中させられる瞬間を狙っていたのだろう。
せめて俺が首を切られる前が良かったが、贅沢は言えない。
「ぐ、くぅ……」
男は血を流しながら呻く。
彼は全身を掻き毟ると、羽を上下に動かした。
その身体が浮かび上がって、吸い寄せられるように後退していく。
「い、行きますっ!」
そこにケイトがグレネードランチャーをぶっ放した。
空気の抜けるような発射音と共に擲弾が飛んでいく。
男が両腕を交差してガードした。
そこに擲弾が命中し、つんざくような爆発を炸裂させる。
距離の関係で、焼けた破片が俺にも突き刺さってきた。
擲弾の直撃した男は墜落し、地面に激突した。
腕は焼け焦げて、骨の膜が剥き出しになっている。
顔の筋肉、爆風で歪んでいた。
それに伴って口角が吊り上がっており、不気味な笑みを浮かべているように見える。
(畳みかけるなら今か)
起き上がろうとする男を見て、俺は一息に跳びかかった。
斧を男の脳天に叩き込む。
男はノーガードでそれを受けると、俺の胴体を狙って爪を突き込んできた。
「おぉっと」
俺は身を翻して回避し、食い込んだ斧を放置して退避した。
そこにケイト達による遠距離攻撃が繰り出される。
魔術と銃撃が、着実に男の傷を増やしていった。
反撃を許さない連携を前に、男は耐えることしかできない。
全身が骨の膜に覆われているので攻撃が通りにくいが、痛みはあるのだろう。
それを無視して行動できるほどではないようだ。
思ったように動けていないのは明らかである。
(この調子なら、被害を抑えて仕留められるな)
そんな考えを抱いた時、突如として男が咆哮を上げる。
空気の振動に合わせて壁や地面が脈動し始めた。
そして、あちこちの岩からモンスターが湧き出てくる。
まるで泥人形のようなそれらは、時間経過と共に生物の質感を得ていった。
空間内はあっという間に多種多様なモンスターの巣窟と化する。
モンスターの生成。
それがダンジョンマスターの能力らしい。
追い詰められたことで、本能的に使用したのだろう。
男はモンスターの奥に隠れており、回復に専念しているようだった。
「……さっさと始末するかね」
モンスターに包囲される俺は、ライフルを取り出して笑う。
随分と面倒なことをやってくれたが、所詮は悪足掻きに過ぎない。
それだけ相手もピンチなのだ。
逆転の希望も抱かせず、速やかに殺してやろうと思う。




