第36話 暗殺者は生存者の謎を追う
俺は壁を蹴って跳躍し、ゴブリンの頭に着地した。
足場となったゴブリンは奇妙な声を洩らして即死する。
倒れるゴブリンを掴んだ俺は、バットのように振り回して他のモンスターに殴りかかった。
そうして次々と撲殺死体を量産しながら前進していく。
途中で食らう細かな負傷は気にしない。
どうせ後で再生するのだ。
致命傷でも構わないが、歩行に支障を来たす攻撃だけは躱しておく。
動けなくなると少し困るのだ。
目指すは生存者の男である。
あいつを逃がしてはならない。
彼だけがモンスターに襲われていなかった。
きっと何かを隠している。
捕まえて事情を吐かせなければならない。
「お、おい! どこへ行く!」
「すまないね! ここは頼んだよっ」
俺は謝りながら先へと進む。
モンスターの処理は警部に任せようと思う。
彼女なら問題ないだろう。
きっと根性で切り抜けられるはずだ。
それにもし殉職したとしても、俺は微塵も困らない。
男は廊下の先にあるドアを開き、その向こうへと駆け込むところだった。
そこに複数のスケルトンが走り寄って、閉まるドアの前に立ちふさがる。
やはり男を守るような行動をしてきた。
どういうわけか知らないが、モンスター達は男を味方だと認識しているらしい。
俺は即座にスケルトンを破壊してドアを開ける。
しかし、そこにはレンガの壁があった。
壁にドアが設けられているだけで、言うなればダミーだ。
その先に通路は存在していない。
(どうなっている?)
男は確かにこの奥へ行ったはずだ。
しかし、あるのはレンガの壁のみである。
通り抜けることなんて不可能だろう。
俺は近くに転がっていたハンマーを拾い上げた。
スケルトンが持っていた武器だ。
それをレンガの壁に叩き付ける。
レンガの壁は、一部が砕けて剥がれ落ちた。
俺はそれを何度も繰り返して掘り進めるも、延々とレンガが続くばかりであった。
一向に通路が見える気配はない。
(いくら掘っても意味がないな)
それを確信した俺はハンマーを振る手を止める。
ドアの向こうは、行き先が切り替わったのだろう。
俺が引いたのはハズレで、正解の空間は男の入室と共に消えた。
何の根拠もない推測だが大きく間違っていることはないはずだ。
警察署は、あちこちが空間的に歪んでいる。
数多の矛盾を抱えながら、ダンジョンとして成立していた。
こういったトリックがあったとしても不思議ではない。
残念ながら、追跡は断念しなくてはならない。
追いかけようにも道が無くなったのだ。
迂回するにしても、署内の構造は滅茶苦茶で、男がどこへいったかも不明のままである。
この通路にある適当なドアから移動するしかない。
(その前に警部を助けるかね)
俺は後ろを振り向いてモンスターの大群を眺める。
警部の姿は見えないが、銃声はしっかりと聞こえてくる。
彼女はまだ生き残って奮闘しているようだ。
大丈夫だろうと予想していたが、やはり凄まじい戦闘能力である。
満員電車のような密度で迫るモンスターに対して、警部は銃だけで対応していた。
スキルやレベルだけでは説明できない戦いぶりだった。
ひとえに彼女自身の強さに依るものと思われる。
とは言え、あまり放っておくと死ぬ恐れがある。
彼女は不死身ではないのだ。
助けるならさっさと行動した方がいい。
参戦しようと走り出したその時、すぐそばのドアが開いた。
俺は反射的にハンマーを振りかぶるも、すぐに止まる。
そこから現れたのは、別行動をとっていたケイトとアリエラだった。




