第34話 暗殺者は生存者を見つける
階段の先には、見慣れた署内の廊下が続いていた。
左右にドアが並んでおりきっと同じような部屋が繰り返されているのだろう。
何時間も見てきた光景だ。
だいたいパターンは知っている。
違いと言えば、出てくるモンスターの種類くらいだろうか。
他はだいたい同じである。
しかし、今回は少し変化があった。
廊下の向こう、モンスターの代わりに一人の人間がいる。
若い男が端で縮こまって震えていた。
怪我をした様子はない。
死体ではなく、生きているようだ。
「ちゃんといるじゃないか。てっきり残らず死んだかと思ったよ」
「縁起でもないことを言うな」
俺達は廊下を進んでいく。
近付くにつれ、男の顔が見えるようになった。
男は呆然とした表情で顔面蒼白だ。
この状況なら仕方ない。
ヘラヘラと笑っている方が異常だろう。
俺なら真っ先に怪しんでしまう。
警部が男の顔を注視して、少し安心した顔で頷いた。
「顔に憶えがある。間違いなく署内にいた生存者だ」
「オーケー、さっそく保護しようかね」
俺は軽い足取りで進み出た。
不必要に警戒させないため、武器はゴミ袋に仕舞っておく。
殺気も入念に消して男に話しかけた。
「やあ、元気にしてるかい」
「こ、来ないでくれっ!」
男は壁に張り付いて手を突き出してくる。
真剣な表情だ。
目に涙を浮かべて訴えている。
俺は肩をすくめると、その場で足を止めた。
落ち着いた声音を意識して言葉を続ける。
「怯えなくていい。俺のことは知ってるだろう? 同じ飯だって食べたはずだぜ」
「違うんだ! そうじゃなくて、私は……っ」
男は頭を抱えて掻き毟る。
あまりの勢いで指に血が付着し始めていた。
男は唸っている。
その姿を目にした俺は、さすがに止めようと近付く。
「おいおい、落ち着いてくれよ。大声を出したらモンスター共が――」
男に忠告しようとしたその時、近くのドアを破ってスケルトンが現れた。
しかもなぜか小型のスライムに乗っている。
(コンビで戦うタイプなのか?)
なんとなく微笑ましく思うも、和んでいる余裕はない。
スライムに騎乗したスケルトンは、剣を掲げて斬りかかってきた。
「噂をすれば、ってやつかね」
俺は振り下ろされた剣を片手で受け止める。
指の間に食い込んだ刃は、そのまま手首まで切り裂いた。
こつん、と硬い音が鳴る。
剣が骨に引っかかったようだ。
俺は短距離で勢いを付けて跳ぶと、両足を揃えてドロップキックを繰り出した。
直撃したスケルトンは木端微塵になる。
「ひいいぃぃっ!?」
横から悲鳴が上がった。
男は廊下の先へと逃走してしまった。
すぐさま止めたいところだが、生憎とまだスライムが残っている。
俺は無事な手でポケットから手榴弾を掴んだ。
ピンを抜いて、腕ごとスライムの中に突っ込む。
数瞬後、スライムが弾け飛んだ。
ばらばらに千切れたまま、復活する気配はない。
俺は顔を上げる。
生存者の男は、廊下を曲がるところだった。
足音がどんどん遠ざかっていく。
俺はグロいことになった両腕を見る。
爆発と溶解液で酷い有り様だった。
しかし、既に再生が始まっている。
数分もあれば完治するだろう。
俺は警部に尋ねる。
「どうする。勝手に逃げちまったが」
「もちろん追いかける。錯乱状態で逃げ惑うのは危険すぎる。急いで保護するぞ」
「了解。ベストを尽くすよ」
俺はボロボロの手で敬礼をした。




