第20話 暗殺者は悩みを見つける
白煙が漂う店内。
割れた床が焦げているのは、爆弾が炸裂したからだろう。
暴徒達の気配はレジカウンターの向こうにある。
どうやら隠れているらしい。
店舗奥の飲食スペースにも何人か潜伏しているようだ。
ここからは見えないが、待ち伏せ中だろう。
向こうから出てくるつもりはないなら、始末は後回しでいい。
どのみち逃がす気はない。
連中はここで皆殺しにしてみせる。
「ほら、客が来たぜ。素敵なスマイルで対応してくれよ」
俺はショットガンを発砲しながらからかう。
散弾はレジを粉砕した。
紙幣が舞い散り、硬貨が床にこぼれる音がする。
続けて俺はショットガンを撃とうと引き金を引いた。
かちり、と虚しい音が鳴る。
何度やっても同じだ。
どうやら弾切れらしい。
装弾数が二発で、一発目を外で使っていたのだった。
「はは、初歩的なミスだ」
プロらしからぬ失態を自嘲していると、カウンターから三人の暴徒が顔を出した。
彼らは勝利を確信した表情で銃を構えてみせる。
「よっと」
俺は銃撃を食らう前に真横へ跳んだ。
すぐそばを弾丸が通過し、誰もいない入口を突き抜けていった。
一方で俺は空中でショットガンを振りかぶり、槍投げの要領で放つ。
「ぐぇあっ!?」
ショットガンは暴徒の鼻面に直撃した。
暴徒は前歯を散らしながら床に沈む。
俺は回転しながら着地すると、その際に腰の拳銃を引き抜く。
振り向きざまに残る二人の暴徒を射殺した。
連中の撃った弾は、俺のそばに着弾する。
俺自身に当たることはなかった。
「さて、こんなものか」
埃を叩き落として呟く。
不死身であることは活かしていくつもりだが、別に攻撃を受けない立ち回りもできる。
これでもプロなのだ。
弾切れで撃てないという醜態を晒してしまったものの、この業界での歴も長い。
たまに注意力が疎かになるだけだ。
その悪癖のせいで大怪我を負うのだ、と同僚に呆れられたことがあるものの、なかなか治せそうにない。
「もう大丈夫だ。入ってきな」
俺はケイトを店内に誘導する。
彼女は恐る恐るといった様子で入店してきた。
浅い呼吸を繰り返して、鋭い視線を振り撒いている。
いつ銃撃戦が起こるか分からないという状況に緊張しているようだ。
俺はレジカウンターを乗り越えて、暴徒の死体から銃と弾を奪う。
残らずリュックサックに仕舞っておいた。
そろそろ容量的に限界なので、次からはケイトの【空間収納】にも頼っていこうと思う。
俺達は店内の探索を続けることにした。
まだ暴徒は潜んでいる。
慎重に進んで抹殺しなければならない。
(まずは厨房からだ)
俺はカウンターの向こうへと歩を進める。
狭いスペースの厨房には、荒らされた痕跡があった。
死角が多く、自由に動き回れる感じではない。
湯気を昇らせる鍋や、出来立てのチーズバーガーを見るに、料理の途中だったらしい。
食事の用意の邪魔をしてしまったようだ。
その時、奥から物音がした。
近寄って覗き込むと、冷蔵庫の陰から暴徒が飛び出してくる。
その手にはナイフが握られていた。
「うおおおおああああッ!」
絶叫する暴徒がナイフを振り下ろしてくる。
しかしその軌道は単調で、欠伸が出るほどに遅かった。
目を閉じていても躱せるだろう。
俺は暴徒の手首を掴んで止めると、そのまま使用中のコンロに叩き付けた。
ナイフを握る手の甲が焼けて白煙が上がる。
「あづうううああああァァッ!?」
暴徒が悲鳴を発した。
その後頭部に手を当てて、さらに顔面をコンロに押し付ける。
力加減を誤って、顔面が潰れて血を噴き出した。
暴徒は痙攣して倒れ込む。
もう立ち上がることは無かった。
「あ、うわっ!?」
休む暇もなく、後ろでケイトが声を上げた。
見れば近くの棚から暴徒が出てきたところだった。
身体を丸めて息を潜めていたらしい。
かなりの狭さなので誰もいないと思っていた。
(器用な奴だ)
感心しつつ、ケイトに向けられた銃口を蹴り上げる。
ほぼ同時に放たれた弾丸は、天井に突き刺さった。
俺はケチャップ入りの容器を手に取り、暴徒に向けて握り潰す。
勢いよく噴射されたケチャップは、暴徒の顔にかかった。
視界を遮られた暴徒は、足を滑らせて床に激突する。
「すまないね、手が滑っちまった。ケチャップを洗い流してやるよ」
謝罪する俺は、そこに鍋をひっくり返した。
中身はスープで、ちょうど沸騰している。
熱々で食べ頃だろう。
「ぎあああああああぁああああっ!?」
スープを浴びた暴徒は、手足を振り回して悶絶する。
床の上をもがき苦しんでいる。
俺はその隙だらけな顔面に足を置くと、体重をかけて一気に踏み砕いた。
暴徒はすぐに大人しくなる。
「こ、これは……うぅ」
ケイトは口元に手を当てていた。
気分が悪そうだ。
殺しのシーンがショックだったらしい。
死体くらい見慣れていると思うのだが、まだ耐性がないのかもしれない。
俺は蛇口をひねって手を洗った。
綺麗になったところで、放置されたチーズバーガーを手に取って頬張る。
濃厚なチーズと、ケチャップとピクルスの酸味がマッチしていた。
分厚いパティも肉汁を溢れさせている。
「うん、美味い」
暴徒の誰かが作ったのだろうか。
犯罪行為などせず、ここで営業してくれればいいのに。
そうすれば変貌した世界でも良い食事が楽しめる。
(食事に関しては間違いなく不便になったな……)
こんな状況では、金があってもハイクオリティーなメニューは望めない。
缶詰ばかりの生活には辟易してしまう。
世界は変貌したままでいいが、せめて飲食店が営業できるだけの治安は必要かもしれない。
あっという間にチーズバーガーを平らげた俺は、しみじみと思った。




