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異世界が召喚されました。 ~モンスターとダンジョンの出現で地球滅亡の危機ですが、気にせず観光を楽しもうと思う~  作者: 結城 からく


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第1話 暗殺者は世界の変貌に巻き込まれる

 座席にもたれた俺は、手元のスイッチを操作する。

 液晶画面に映し出された映画が停止した。

 屈強な身体の主人公が、悪党に跳び蹴りを炸裂させるところだった。

 クライマックスのシーンで、一番の盛り上がりである。


 俺は通りかかったキャビンアテンダントを呼び止め、酒とグラスを持って来てもらう。

 琥珀色の液体でグラスを満たして飲み干した。

 さらにもう一杯飲んだところで、深々と息を洩らす。

 鼻を通る豊潤な香りが堪らなかった。


 頬杖をついて、窓の外に目を向ける。

 澄み切った青空が広がっていた。

 少し下を雲が漂っている。

 変わり映えのない景色は、しかし高速で流れていく。


(悪くない。高い金を払った甲斐があったな)


 俺は笑みを深めて満足する。

 機内はほどよい静寂に包まれており、居心地はとてもいい。


 ここは旅客機のファーストクラスだ。

 国外での仕事を終えた俺は、これから自宅に帰るところだった。

 実に数カ月ぶりの帰宅である。


 今回の仕事は、やたらと時間がかかってしまった。

 予想外のアクシデントが多かったのだ。

 しかも俺以外のミスが原因である。

 珍しくないとは言え、負担を強いられるのはこちらなのだ。

 面倒事を増やすのは勘弁してほしい。


 まあ、最終的には仕事も成功し、標的も始末することができた。

 口座には多額の報酬が振り込まれている。

 しばらくは豪遊できる。

 結果オーライといったところであろう。


(まだかかりそうだな……)


 俺は腕時計を確認する。

 着陸までかなりの猶予があった。

 映画を観終わったら、少し仮眠を取っておこう。

 空港から自宅までもそれなりに距離がある。

 寝不足のまま移動するのは億劫だった。


 そう思って再生ボタンに触れようとした時、脳内に謎の声が反響する。




>世界法則が改竄されました

>ステータスの初期値を設定――完了

>個人の才能をスキルに変換します


>スキル【殺人術 A】を取得

>スキル【不死身 B+】を取得

>スキル【観察眼 B】を取得

>スキル【再生 C++】を取得




 立て続けに告げられた内容は、意味不明なものばかりだった。

 何かのアナウンスのように聞こえたが、よく分からない。


(そもそもどこから聞こえてきた?)


 機内放送といった感じでもなかった。

 頭の中で反響したのは、きっと気のせいではない。


 俺はブランケットを剥ぎ取って席を立つ。

 他の乗客達がざわついており、キャビンアテンダントも困惑している。

 アナウンスが聞こえたのは、俺だけではないようだ。

 おそらくこの場にいる全員だろう。


(何か嫌な予感がする)


 眉を寄せた俺は、静かに気を引き締める。

 こういう時の直感はよく当たるのだ。

 下手なポジティブ思考は捨てて、警戒しておいた方がいい。


 その時、後方から悲鳴が上がった。

 見ればキャビンアテンダントが倒れている。

 彼女の背中に圧しかかる者がいた。


 それは緑色の肌をした老人のような生物だ。

 痩せ細った体躯で、髪は生えていない。

 尖った耳と歪んだ鷲鼻が特徴的だ。

 ぎょろりとした目は、黄色く濁っている。


 身に着けているのは粗末な腰巻のみで、手には木製の棍棒を握っていた。

 まるで原始人のような装いである。

 とにかく野蛮な印象が伝わってくる。


 そんな生物を凝視していると、視界に奇妙な表記が映り込んだ。




ゴブリン Lv.4

脅威度:E

状態:良好




 まるでパソコンのウィンドウのようなものが浮かんでいた。

 目をこすっても消えない。

 幻覚とは思えないほど、くっきりと表示されている。


「何だ……?」


 意識して瞬きをするうちに、ウィンドウは消失した。

 なんとなく意識すると再表示される。

 三回ほど繰り返すとコントロールできるようになった。

 謎の現象を前に、俺は首を傾げて考える。


(もしかして、あの生物の情報か?)


 タイミングからして、そう解釈するのが妥当だった。

 どこかの映画で、似たような生物をゴブリンと呼称していた記憶もある。

 ちょうど視線の先にいるモンスターと酷似した容姿だった。

 注視することによって、相手の基本情報が可視化されたらしい。

 まるでゲームか何かのような仕様である。


 他人事で考察していると、緑色の生物――ゴブリンが急に奇声を上げた。

 奴は棍棒を掲げると、足元のキャビンアテンダントを殴り始める。

 容赦のない攻撃だった。

 棍棒がだんだんと赤く染まっていく。


 すぐさま他の乗客が止めにかかり、キャビンアテンダントを救出した。

 ゴブリンは羽交い絞めにされながらも暴れる。

 止めにかかった乗客が、棍棒が当たったり、爪で引っ掻かれていた。


 一分ほど苦戦しながらも、勇気ある乗客達はゴブリンの拘束に成功する。

 彼らは数人がかりで床に押さえ込んでいた。


 負傷したキャビンアテンダントは、近くの席に座らされている。

 救急箱を持ってきた他の職員が、動揺しながらも応急手当を行っていた。


 俺はその一部始終を傍観していた。

 状況が落ち着いたところで、改めて思考を巡らせる。


(ひとまず解決したようだが……あのモンスターはどこから入ってきた?)


 そもそもモンスターがなぜ現実に存在するのか。

 他にも謎のアナウンスや可視化される基本情報など、先ほどから不可解な現象ばかりである。

 答えを出そうにも、あまりにヒントが少なすぎた。


 加えてここは空の上である。

 空港の到着するまではまだ時間があり、逃げ場は無いも同然だった。

 とにかく、これ以上のトラブルは遠慮したい。


 そう思った矢先、遠くから悲鳴と喧騒が聞こえてきた。

 俺はうんざりしながら振り返る。


 声はビジネスクラスの方角からだった。

 なかなかに騒がしい。

 俺はドアまで近寄ると、そっと開いて向こうの様子を窺う。


(これは……)


 複数のゴブリンが乗客に襲いかかっていた。

 彼らは棍棒を振り回して暴走している。

 既に多数の怪我人が出ているようで、完全にパニック状態だった。


「ははは、随分とご機嫌だな」


 俺はその光景に苦笑する。

 滅茶苦茶な有様は、本当に現実なのかと疑いたくなるほどだった。

 しかし、生憎と現実逃避をしている暇はない。


 一体のゴブリンと目が合った。

 そのゴブリンは、座席を飛び越えながら突進してくる。


 俺を身を引きながら勢いよくドアを閉めた。

 衝突音と強い抵抗感。

 寸前で割り込んできたゴブリンがドアに挟まる。

 上半身だけが、こちらにはみ出している状態だった。


 ゴブリンは喚き声を上げる。

 腕を振り回して、こちらのフロアに侵入しようとしている。

 濁った目玉は、ぎょろりと俺を睨んでいた。


 このままではドアを閉めることができない。

 他のゴブリンが殺到すれば、たちまち侵入されてしまうだろう。

 そして残虐な暴走が始まる。


 ドアを押さえる俺は、爽やかな笑みをゴブリンに返す。

 そして、優しい声音を意識して告げた。


「すまないね。こっちはファーストクラスなんだ」


 言い終えると同時に、ゴブリンの顔面に蹴りをぶち込む。

 ゴブリンは短い悲鳴を洩らし、唾と血を飛ばした。

 その口から、折れた牙がぽろぽろと落ちる。


 さらにドアを少し開けて、叩き付けるようにして閉じた。

 何度か繰り返すと、ゴブリンは堪らず倒れる。

 仕上げとして首を踏み付け、力を込める。

 革靴の底から、頸椎を粉砕する感触が伝わってきた。

 ゴブリンは大きく痙攣し、やがて動かなくなる。




>取得経験値が既定値を突破しました

>レベルが上昇しました




 また謎のアナウンスが聞こえてきた。

 考察は後回しでいいだろう。


 俺はゴブリンの死体から棍棒を拝借した。

 死体をビジネスクラスのエリアへと蹴り出して、今度こそドアを完全に閉じる。

 そして改めてファーストクラス内を見回した。


 ゴブリンは乗客に取り押さえられた一体のみで他にはいない。

 乗客はこちらを見て怯えた顔をしていた。

 虐殺の危機を阻止したというのに、あんまりなリアクションである。

 まあ、仕方ないと言えば仕方ない。


 俺は取り押さえられたゴブリンの前へ赴いた。

 その頭部に棍棒を振り下ろす。

 ゴブリンの頭部が割れて、隙間から脳漿がこぼれ出した。


 取り押さえていた乗客が一斉に離れる。

 死体を見て顔を青くする者が続出し、中には嘔吐している者もいた。


「これで安全確保だな」


 棍棒を持ったまま、俺は再びドアの前へ移動する。

 そこからビジネスクラスを覗き込む。


 騒ぎはまだ治まっていなかった。

 一部の乗客が、ゴブリン達に抵抗して戦っている。

 見える範囲でも負傷者は多い。

 機内がそれほど広くないせいで、あちこちが混み合っている。

 小柄なゴブリンを相手に、乗客達は苦戦を強いられていた。


(仕方ない。まとめて片付けるかね)


 俺は棍棒を弄びながら決心する。

 このまま放っておくと、騒ぎが拡大してしまう。

 乗客達が勝手に死ぬ分には困らない。


 しかし、ここは旅客機の中だ。

 余計なトラブルを起こしてほしくないし、万が一ということもある。

 不安要素はなるべく排除しておくべきだろう。


 仕事柄、殺しには慣れていた。

 相手はモンスターだが、人型である以上は培ってきた技術も活きる。

 殺せることも確認済みだった。

 ならば躊躇うことはない。


「さて、仮眠前に一暴れするかね」


 俺はネイビーのシャツの袖をまくり、ネクタイを少し緩める。

 その際、返り血が付着していることに気付いた。

 ゴブリンのものだろう。

 殴り殺した時に付いたのだと思う。


 できればクリーニングに出したいが、これからさらに汚れる。

 おそらくは、洗い落とせないレベルになるだろう。

 気に入っていたのだが、買い換えた方がいい。


 俺はドアを開けると、ゴブリンの死体を跨いで進む。

 近くのゴブリンが俺に気付き、すぐさま跳びかかってきた。


「オーライ、いい位置だ」


 俺は棍棒をフルスイングする。

 棍棒はゴブリンの側頭部を正確に捉えた。

 破壊の衝撃が手に伝わってくる。


 頭蓋が粉砕されたゴブリンは、回転しながら座席に激突した。

 鼻血を噴き出しながら痙攣しているので、前蹴りで息の根を止める。


 休む暇もなく、横合いから別のゴブリンが襲いかかってきた。

 手には石のナイフが握られており、先端は血で濡れている。


「よっと」


 俺は突き出されたナイフを躱し、相手の手首を掴む。

 腹部を膝蹴りで抉ると、ゴブリンは前屈みに身体を折った。

 膨らんだ口から血反吐が撒き散らされる。

 ダメージは内臓に響いているだろう。


 俺は隙だらけなゴブリンの後頭部に棍棒を叩き込む。

 小気味よい音に合わせて、殴打箇所が陥没した。

 床に激突したゴブリンは赤い泡を噴いて死ぬ。


(弱いな。問題なく殲滅できそうだ)


 確信した俺は、他のゴブリンを見やる。

 乗客を嬲っていた彼らだが、今は俺だけに注目していた。

 本能的に危険を察知したのだろう。

 仲間の犠牲を目にして、優先順位が切り替わったらしい。


 ゴブリン達は互いに目配せすると、一斉に襲いかかってきた。

 俺はそんな彼らを次々と撲殺していく。

 どいつの攻撃も大振りで、軌道を読むのは容易い。

 狭い機内だろうと関係なかった。

 たとえ数で押されようとも、順番に殴り殺していくだけだった。


 俺は棍棒で彼らの頭部をひたすら破壊する。

 或いは近くの座席にあった機内食のナイフで刺し殺した。


 途中、何度かレベルが上昇したという旨のアナウンスが流れた。

 心なしか身体能力が高まった気がする。

 それに気分を良くした俺は、さらにペースを上げて死体を量産していく。


「ふぅ、いい運動だったな」


 俺は晴れやかな気持ちで微笑み、折れかけの棍棒を捨てる。

 気が付けばゴブリンを皆殺しにしていた。

 ただの一度も負傷していない。

 あんな連中に不覚を取るほど、俺は軟弱ではなかった。


 血染めの機内で、乗客はまばらな拍手をする。

 それは俺に対するものだろう。

 どう反応していいか分からず、困惑気味といった様子だが、ひとまず感謝してくれているようだ。

 俺は「どうもどうも」と笑顔で手を振って応じておく。


 ほどなくして、怪我人の運搬が始まった。

 一部の死者は端に寄せられ、顔に布を被せられた。

 ゴブリンの死体は放置である。


 俺は割れた腕時計を外して捨てる。

 脅威は去ったように思えるが、まだ油断はできない。

 この調子だと、機内全域でゴブリンが発生している可能性があった。

 ビジネスクラス以外も巡回すべきだろう。


「ん……?」


 俺はふと窓の外に目を向けた。

 そして硬直する。


 旅客機の外を、紅い巨躯が並行飛行している。

 びっしりと表面を覆う鱗。

 エメラルドグリーンの瞳が、こちらを凝視する。


 ――大きな翼を上下させて飛行するのは、紛れもなくドラゴンだった。

お読みくださりありがとうございます。

毎日投稿で進めていく予定なので、よろしくお願い致します。

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