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神縛町の荒女山  作者: 甫人 一車
〇〇八、女神様の呼び声
21/25

〇一



 黒い空。黒い海。

 空を覆いつくした黒雲の隙間から、何度も稲妻が走っていた。


 轟々と吼えたける風と、うねり狂う荒波。

 嵐の海上は、この世の終わりのような風景だった。


 人間をはじめとした、あらゆる生き物を拒むような情景の中で、ただひとつ存在を主張する巨大な影がある。

 それは嵐の真っ只中で、山みたいなサイズの巨体を海上から突き出してた。


 海上から見えているのは上半身のみだが、それでも冗談みたいに大きい。

 波がぶつかると、えらのついた巨大な尾が水面を叩いた。


 巨大な腕と、古代の恐竜のような手には恐ろしい鉤爪がはえている。

 鋭い牙を光らせるその顔は、どこか人のようでもあった。


 だけど、それは人というよりも鬼に近い強面である。

 地獄の鬼だって、この姿を見れば恐れおののくことだろう。


 また、どことなく鳥類を思わせるものもあった。

 その頭部に角はない。ただ、まるで大蛇のような無数の触手が蠢いている。


 遠くからであれば髪の毛のように、たてがみのように見えなくもなかった。

 両肩の肉は大きく盛り上がっており、アメフトのショルダーパッドでもようだが、そこから鋭いものがはえている。


 怪獣としか言いようのないその巨大な生物は、薄暗い情景を射抜くように真っ赤に輝く瞳で天空を睨みつけていた。

 あるいは、なにかを待ち構えているように思える。


 いったい、どれくらいの時間が流れただろう。


 嵐の空に変化が起こり始めた。

 黒い空の一角で、ポツリと小さな光が光ったのである。


 銀色の光だった。


 巨大生物が、喉の奥から地鳴りのような声を発する。


 銀の光は次第に大きくなっていき、同時に周辺の雲を巻き込んで渦巻き状の形を描き出していくのだった。

 と、巨大な生物が凄まじい吼え声をあげる。


 これと同時に、銀の渦から巨大な影が現れた。

 それをどう形容していいものだろう。


 やはり、巨大な生物である。

 海の生物も奇妙であったけど、新たに出現したそれはさらに輪をかけて不思議な姿を持っていたのだった。


 まるで翼竜のような、鳥に似た爬虫類だろうか?

 違う。そうではない。


 その翼は、全身から生えた無数の触手に半透明の膜でつなぎ合わされたもの。

 ドラゴンのようなその頭部や首も、触手がより合わさって形成されている。


 三本の長い尾が見えるが、足も腕もない。


 とても空を飛べるとは思えない形状だったが、それはフワフワと浮いている。

 翼を動かしてもいないのに、海面へ落下する様子はなかった。


 さらに、その生物の周辺は銀色の光で覆われている。

 海の生物は怒りに満ちた咆哮と共に、空の生物へと迫っていく。


 空の生物は、鳴き声というよりは金属をこすり合わせるような不快な音を発した。

 途端に、空の生物の翼から銀色の燐光が浮かび上がる。


 銀の光からは銀の雷光がほとばしり、それは無数の槍のごとく、海の生物のへ場所を選ばず叩きつけられるのだった。

 雷撃が巨体を焼き焦がしていくが、海の生物はびくともしない。


 むしろ、より敵意を増大させたようだった。

 空に浮かぶ敵に対して、海の生物はその巨大な顎を大きく開く。


 と、開かれた地獄の入り口みたいな口が、正確にはその手前辺りの空間がぐにゃりと夏場の

陽炎のように揺れ出した。


 なにが起こるのか?


 一瞬後、目に見えない空気の塊が、空の生物めがけて放たれた。

 巨大なシャボン玉にも似たそれは雷撃をすり抜け、空の生物へとぶち当たる。


 その一撃は、空の生物の皮膚を打ち破り、その一部を海上へとぶちまけさせた。

 手傷をおわされた空の生物は怒り、翼を蠢かせて海の生物に接近していく。


 空の生物が、触手の一部を海に生物へと伸ばした。

 獲物を狙う毒蛇のような触手は簡単に海の生物を捕らえてしまう。


 だが、海の生物はその腕で触手をつかみ、逆に相手を自分のほうへと引き寄せる。

 うなり声、吼え声が、魔の海上で悪夢のように猛り狂う怪物たち。


 咬みつき、爪で引き裂き、あるいは締め上げるという極めて原始的な闘争は、どこか神聖でとても美しくも思えた。


 ひときわ大きな稲妻が走り、白い光で二体の姿は覆い隠されて……。




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