〇二
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「おい、どこ行くんだ?」
市内病院のロビーで、ゲンやんはセーハチを呼び止めた。
病院についてすぐ、診察室前の長椅子にキロクが座った途端、
「じゃあ、俺はちょっと」
セーハチは言うなり、早足で病院を出て行こうとしたのである。
「図書館」
呼び止めたゲンやんに、セーハチは片手を上げて言うと、また歩き出す。
「いや、お前。キロクの付き添いじゃあ」
「ついて行くとは言ってるけど、付き添いとは言ってない」
「あのな……」
呆れて肩を落とすゲンやんを置いて、セーハチはそのまま行ってしまう。
いつものことながら、マイペースぶりには驚かされる。
「あれセーハチは? トイレ?」
仕方なく一人で戻ったゲンやんへ、キロクは尋ねかけた。
「……なんか図書館に行くとか言ってた」
「ふーん。勉強でもするのかな」
キロクは特に気にした様子もなく、少し古い号の漫画雑誌を読み始めた。
これは、待合所に置いてあったものである。
「いや、それはどうかな。手ぶらだったけど……」
横に座りながら、ゲンやんは首を振った。
「あいつのことだから、迎えの時間までには戻ってくるだろ」
ページをめくり、キロクはのんびりと答えた。
「そうだけどさ」
ゲンやんは長椅子に座りながら、音をたてずに息を吐いた。
三人を車で運んでくれたおじさんは、その足で出勤しておりこの場にいない。
「万一ということもあるし、付き添おう」
そう言ってくれたのだが、仕事を休ませて申し訳ないとキロクが辞退した。
おじさんは最初それでもと渋ったけれど、最後には診察結果がわかったらすぐに連絡するということで話は落ちついたのである。
キロクが呼ばれるまで、そしてその後もゲンやんは漫画雑誌を読んで時間を潰した。
しばらくして、雑誌を読んでしまったゲンやんは待合所へ場所を移す。
と、そこに置かれているテレビに目が行った。
『ごく小規模な地震……』
テレビのニュースでは、そんな言葉が流れていたようだった。
どうやら、神縛町一帯のことらしい。
ただ、地震といっても被害はほとんど無かった、とキャスターは語る。
(小さい、地震……)
思い出すのは昨日見てしまったあの光景と、それが出現する前の大地の揺れ。
突き出た巨大の腕やうなり声を思い出しながら、ゲンやんは奇妙な気分になった。
「おーい」
しかし、それもキロクの声で一気に消えうせてしまう。
「特に異常なし。安心していいって」
キロクは笑いながら、おめでたい報告をしてくれた。
「そっか。良かったな」
ゲンやんもホッとして、思わず笑顔になる。
「そういえばセーハチはまだ帰ってないのか?」
「ああ、なにしてんだろうな」
「本読んでるんだろ」
二人がそんな会話をしている間、テレビは天気予報へと変わっていた。
『ここしばらくはぐずついた天気になるでしょう……』
テレビの音声に、ゲンやんは振り向く。
画面に映った一週間の天気予想図は、まるで梅雨のような曇りと雨ばかりである。
「こんなんばっかりだね」
キロクは天気予報に笑っていた。
苦笑しているのかもしれないが、もとの顔立ちがのほほんとしたものなので、少しも困っているようには見えない。
「まさか夏休み中、雨ってことはないだろうな」
「まっさか」
キロクは笑い、
「じゃ、おじさんに連絡してくる」
と、公衆電話のほうへ歩いていった。
キロクは、ケータイを持っていないのだ。
ゲンやんはそれを見送ってから、待合所のソファーに腰をかける。
ふと、病院内の売店へと目が移った。
ゲンやんはふと思うところがあり、売店でお菓子を買うことにした。




