〇一
翌日の朝。ゲンやんとセーハチは庭で荒女山を見つめていた。
大雨ではないが、空は霧のような小雨。
そんな中でも、荒女山の姿はきれいだった。
「昨日のアレ、どう思う? やっぱり、幻覚?」
「さあな。そうであってほしいよな」
ゲンやんが言うと、セーハチはどこか突っぱねるように答える。
昨日は結局あれから何も起こることはなかった。
怪獣が出てきて大暴れするという映画みたいなことは全然なかったのである。
また、大地震や洪水が発生するという、ありえそうな災害もなかった。
「……じゃあ、その前夜中に見たあの変なのは?」
三人組が深夜に目撃した、正体不明の生物らしきもの。
思えば、アレを見たことが再び崖崩れ現場へ行った理由の一つかもしれない。
「わからん」
セーハチは首を振って、遠めに見える川を睨んでいた。
雨のため水位の高くなっていた川も、今ではかなり穏やかになっている。
正体不明のものは川へと飛び込んで、姿を消したのだ。
あの時の水位を考えれば、例え三人の見たものが幻でなかったとしても、生物がいたという確たる証拠は期待できないだろう。
「あれも幻覚か見間違いであってほしいけどな、俺としては」
セーハチの顔は、渋いものだった。
彼の性格からすれば、未確認生物にワクワクするよりも、得体の知れない大型生物が周辺を徘徊している危険性を思うだろう。
「キロクのやつは、なーんもおぼえてないし……」
ゲンやんは髪の毛を乱暴にかいて、小さくあくびをする。
昨日家に帰りつくなり気絶してしまったキロクは、どうしたわけか崖崩れ現場でのことを、すっかり忘れてしまっていた。
それ以外は特に異常はなさそうだが、真澄が伯父さんに報告をした結果、念のためにと今日病院へ行くことになっている。
「俺はついていくけど、お前はどうする?」
セーハチの質問にゲンやんは少し考え、行くと答えた。




