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神縛町の荒女山  作者: 甫人 一車
〇〇五、雨降る夜に見たものと……
14/25

〇三



       ○



 また、あの夢を見た。


 どこまでも広がる海と、そこを泳いで行く大きな影。

 山中の大池。聞こえてくる懐かしい音楽。


 恐竜みたいな大きな生き物と、不思議な人たち。

 そして、暗いくらい穴の中。


 真っ暗な闇の中に、ごうごうと水の流れる音が響いている。

 暗い水中を泳ぎながら、ひたすらに前を目指していた。


 やがて、ようやく明かりが見えてきて……。


「……おい、おい」


 体を揺り動かされ、ゲンやんは夢から起こされた。

 薄く暗がりの中でキロクが自分を見ている。


「なんだよう……」


 ゲンやんは不機嫌な声でキロクの手を払いのけようとしたけど、逆にその手をつかまれて、強引に立たされることに。


 文句を言おうとするゲンやんだが、キロクはかまわずに行動する。


「夜中に、やかましいな……」


 横ではセーハチがブツブツ言いながら、立っていた。


「いいから。ちょっと外に出よう……!」


 キロクは真剣な声で二人をうながし、外へと連れ出して行く。


 深夜の空は、小ぶりではあるがまだ雨が降り続けていた。

 雨に打たれたせいか、寝ぼけまなこだったゲンやんは少しシャッキリしてくる。


「あれ、見えるか?」


 二人を庭へと連れ出して、キロクは遠くのほうを指した。


 陰洲家の正面から、向こう。

 いくつかの田んぼと、川を飛び越えた先の道路である。


「くるま……?」


 ゲンやんはそこを、なにかがゆっくり動いているのを見た。

 大きさは軽自動車ほどらしいのだが、どうもおかしい。


 自動車にしてはやけに速度が遅いし、なによりも形がおかしかった。

 はっきりとした姿は見えないが、それは明らかに大きな尻尾のようなものを振り回しつつ、のそのそと歩いているのだ。


 熊? 牛? 馬? いずれにしても、あんな大きな尻尾はない。


「なんじゃ、あれは……」


 セーハチのなにか呆れたようですらあった。


「わからない。なにか音がしたんで気になったんだけど」


 手をかざしながら、キロクは熱に浮かされたように言った。

 正体不明のそれは、ゆっくりと道路を這いずり回っていたが、やがて身を躍らせて川の中へ飛び込んでしまう。


 思ったより、水音は静かなものであった。

 三人はしばらくの間、目を皿のようにして状況を観察し続ける。


 だが、あの大きな影は再び現れることはなかった。


「おい、戻ろう」


 そう言ったのは、誰だったのか。

 三人は離れに戻ると、濡れた体もそのままに布団へ戻ってしまう。


 電気のつけない暗がりの中で。

 セーハチは布団の上で体を自前のタオルでふきながら、ジッとしていた。


 キロクは布団の上で寝転がったり、窓の外を見たりしていて、落ちつかない。


 ゲンやんは横にはなっているけれど、眠ることなんかできなかった。

 さっき見たのはなんだったのか。そればかりを考えてしまう。


 イノシシを見間違えたのか、そうではないのか。

 油断をするとさっき見た生き物がここに現れるような気がする。


 ひどく興奮していて、目がギラギラとしているのが自分でもわかった。

 怖さと同時に、すごいものを見たかもしれないという高揚感がある。


「あれってなんだったんだろ」


 だいぶ時間がたってから、ゲンやんはつぶやく。


「わからん」


 ゲンやんのつぶやきに、顔をセーハチは顔をふきながら応えた。


「少なくとも、きれいな女の子には見えなかった」


「嫌味かあ?」


 キロクはすねたように言うが、怒る様子も見せない。


「どっちにしても、襲ってこないことを願う」


「怖いこというなよ……」


「言いたくもなる」


 恨みがましく睨むゲンやんだが、セーハチは無感動に切り返すだけ。

 結局、三人は明け方までまんじりとすることもできなかった。




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