〇三
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また、あの夢を見た。
どこまでも広がる海と、そこを泳いで行く大きな影。
山中の大池。聞こえてくる懐かしい音楽。
恐竜みたいな大きな生き物と、不思議な人たち。
そして、暗いくらい穴の中。
真っ暗な闇の中に、ごうごうと水の流れる音が響いている。
暗い水中を泳ぎながら、ひたすらに前を目指していた。
やがて、ようやく明かりが見えてきて……。
「……おい、おい」
体を揺り動かされ、ゲンやんは夢から起こされた。
薄く暗がりの中でキロクが自分を見ている。
「なんだよう……」
ゲンやんは不機嫌な声でキロクの手を払いのけようとしたけど、逆にその手をつかまれて、強引に立たされることに。
文句を言おうとするゲンやんだが、キロクはかまわずに行動する。
「夜中に、やかましいな……」
横ではセーハチがブツブツ言いながら、立っていた。
「いいから。ちょっと外に出よう……!」
キロクは真剣な声で二人をうながし、外へと連れ出して行く。
深夜の空は、小ぶりではあるがまだ雨が降り続けていた。
雨に打たれたせいか、寝ぼけまなこだったゲンやんは少しシャッキリしてくる。
「あれ、見えるか?」
二人を庭へと連れ出して、キロクは遠くのほうを指した。
陰洲家の正面から、向こう。
いくつかの田んぼと、川を飛び越えた先の道路である。
「くるま……?」
ゲンやんはそこを、なにかがゆっくり動いているのを見た。
大きさは軽自動車ほどらしいのだが、どうもおかしい。
自動車にしてはやけに速度が遅いし、なによりも形がおかしかった。
はっきりとした姿は見えないが、それは明らかに大きな尻尾のようなものを振り回しつつ、のそのそと歩いているのだ。
熊? 牛? 馬? いずれにしても、あんな大きな尻尾はない。
「なんじゃ、あれは……」
セーハチのなにか呆れたようですらあった。
「わからない。なにか音がしたんで気になったんだけど」
手をかざしながら、キロクは熱に浮かされたように言った。
正体不明のそれは、ゆっくりと道路を這いずり回っていたが、やがて身を躍らせて川の中へ飛び込んでしまう。
思ったより、水音は静かなものであった。
三人はしばらくの間、目を皿のようにして状況を観察し続ける。
だが、あの大きな影は再び現れることはなかった。
「おい、戻ろう」
そう言ったのは、誰だったのか。
三人は離れに戻ると、濡れた体もそのままに布団へ戻ってしまう。
電気のつけない暗がりの中で。
セーハチは布団の上で体を自前のタオルでふきながら、ジッとしていた。
キロクは布団の上で寝転がったり、窓の外を見たりしていて、落ちつかない。
ゲンやんは横にはなっているけれど、眠ることなんかできなかった。
さっき見たのはなんだったのか。そればかりを考えてしまう。
イノシシを見間違えたのか、そうではないのか。
油断をするとさっき見た生き物がここに現れるような気がする。
ひどく興奮していて、目がギラギラとしているのが自分でもわかった。
怖さと同時に、すごいものを見たかもしれないという高揚感がある。
「あれってなんだったんだろ」
だいぶ時間がたってから、ゲンやんはつぶやく。
「わからん」
ゲンやんのつぶやきに、顔をセーハチは顔をふきながら応えた。
「少なくとも、きれいな女の子には見えなかった」
「嫌味かあ?」
キロクはすねたように言うが、怒る様子も見せない。
「どっちにしても、襲ってこないことを願う」
「怖いこというなよ……」
「言いたくもなる」
恨みがましく睨むゲンやんだが、セーハチは無感動に切り返すだけ。
結局、三人は明け方までまんじりとすることもできなかった。




