〇二
○
翌日は朝から雨だった。
真澄が言ったように、三人は家の中でカンヅメ状態となることに。
その間三人は陰洲家で掃除を手伝ったり、真澄と無駄話をしたり、またはテレビやビデオを見たりしてすごした。
やがて、午後二時を少し回った頃。
真澄がケータイで友人と話している間、三人は縁側で雨の庭を見ていた。
「なあ、昨日ボーッとしてたことあったけど、気になることでもあった?」
静かな時間が流れる中、ゲンやんはキロクに思い切って切り出してみる。
キロクは返事をしなかった。
「なんでもない」
と言うこともなく、黙って雨が降る様子を見ているだけ。
「……言いにくかったんだけど」
しばらくして、ぽつりとキロクは言葉を漏らす。
「ああ、真澄ちゃんとかがいると言いにくかった?」
ゲンやんは、すっとキロクの横顔を見た。
その表情は、なんだか昨日のおかしな状態に戻っているようにも見えた。
「なんというか、自分でもわからないけど……あの崖崩れのところで」
そこで、キロクは言葉を切って、ううんと首を振る。
「……見えた。いや、いたというのかなあ」
「なにが?」
キロクの語る口調が、どうも冗談ではなさそうなので、ゲンやんは怖くなる。
「女の子、だったかも」
「かも、ってなんだ」
セーハチが鋭い視線で問いつめる。
「うーん。そういう風に見えたような……? あの崖崩れのところに、上のほうに」
「いや、わからないよ」
もどかしくなるゲンやんに、キロクはちょっと待てと考えながら、
「こんな具合にだな。このへんが道路で」
と、自分の腕を崖崩れ現場の傾斜に見立てて、肘の辺りを指す。
「それで、このへんに女の子がいたんだよ。立ってた」
そういって指したのは、指先の辺りである。
つまりそれを現実の現場に照らし合わせると……。
「幻覚だろ」
セーハチは切り捨てるように言った。
「そうかなあ……? でもいたと思うんだ。きれいな子だった」
キロクは納得できないようで、つたない反論をする。
「でも、本当にそこに女の子がいたなら、それフツーじゃないよ」
ゲンやんが意見をのべると、キロクも黙ってしまう。
「そんな子がいたのなら噂とかになって、真澄ちゃんが話とかするんじゃない?」
「確かにな。大体キロク、お前きれいがどうとか言ってたけど、双眼鏡でも人間の顔なんかはハッキリしなかったぞ、あそこからだと」
セーハチはうなずいてから、追求する。
「むむむ……」
キロクは言葉に詰まったようで、うなるだけである。
「いや、見えたのが本当に本当だったら、それ……」
ゲンやんが言いかけ、三人は静まり返る。
キロクも心なしか顔を青くしているようでだった。
「おーい」
と、そこへ女の子の声が響いた。
「うわっ」
「ひゃああ」
ゲンやん、キロクは同時に叫んで、しりもちをつく。
「なにやってんの……? 男同士でこそこそと」
真澄は呆れた顔で二人を見ている。
「暇だから怖い話をしてた」
セーハチは顔色ひとつ変えずに、そう言った。
「お、なになに? そういう楽しいことをやってるとな」
途端に真澄は目を輝かせ、三人に割り込んできた。
「さっきのは落ちも終わったし、あんたが話す?」
「そりゃ良かった。では、とっときのお話してあげようかなあ」
にんまりとしながら座り直す真澄に、ゲンやんとキロクはホッとしてしまう。
(もしかすると……)
崖崩れのあった辺りは、なにか曰くがあるのかもしれない、とゲンやんは思った。
でも、もしも本当にそんなものがあったとしたら、ちょっと生々しすぎる。
結局言い出せないまま、いつの間にか怪談を語り合うことになっていた。




