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俺が脅威?
ただ平凡な人間だと思っていたけれど。
「妖力を奪う能力を持つものは妖怪に取ってみたら恐怖の対象じゃ」
「でも、俺は道元みたいにはなりません!」
俺は訴えた。まだ話は半信半疑だが、道元と同じ能力を持っているとしても道元のようには使うつもりはない。
「あたしは信じてるからな」
桐子姐さんが言った。
「正直言えば、逢夢に触れたら妖力を奪われて死んじゃうんじゃないかって思う。けどよ、あたしは一緒に働いていて逢夢が道元みたいになるとは思えねぇ」
「拙者もそう思うでござる」
「わ、私もです……」
「私もだよ」
みんなが俺を見て頷きながら言う。
「もちろんわしもそう思っておる。じゃが他の連中は逢夢のことをよく知らん。だから寧々も契約の上書きを提案したんじゃろう」
「どうつながるのですか?」
「つまり、わしに逢夢を見張っておけということじゃ」
俺には妖力を奪う能力がある。
それによって俺は契約を結べるほどの妖力を手に入れることが可能になる。
しかし道元のように、何も罪のないものから妖力を奪うというのは許される行為ではない。
そうすれば俺も道元のように打倒逢夢軍が組まれることになる。
だから正式に、つまり幽玄会社の仕事として妖怪退治をしながら妖力を手に入れなければならないということだ。
神子社長は俺のことをよく知らない。
だからこそ椚田社長に条件を提案して、俺が下手な動きをしないか見張るように仕向けたのだと推測された。
「俺は道元のようにはなりません」
もう一度俺は言う。
「ああ。わかっておる」
「しっかりと幽玄会社不思議で働いて、妖力をつけて、涼との契約を結びます」
俺は立ち上がって「皆さんも協力よろしくお願いいたします」と言って頭を下げた。
みんな口々に「もちろんだ」とか「まかせろ」などと言ってくれた。
「さて、それじゃあ会議は終わりじゃな。まだ十五時過ぎじゃが、今日はもう上がりでよい」
社長がそう言うと、会議はお開きとなり、散り散りに帰宅となった。
最後になった俺は社長に「ありがとうございました」と伝えて幽玄会社不思議を出た。
□◇■◆
幽玄会社不思議の入るエクスクラメーションビルの前に涼がいた。
「あれ? 先に帰ったんじゃなかったの?」
「うん……」
「そうか。じゃあ一緒に帰るか」
「うん……」
夕日を背に立川駅に向かう。
「ねえ、逢夢……」
そう言って涼が立ち止まった。
「どうした?」
俯き加減にもじもじとしている。
何か言いたいことでもあるのだろうか。
「私も好きだよ」
「え?」
急に言い出すので何のことかわからなかった。
でもすぐに思い出した。
あの時の俺のあの発言を。
恥ずかしくなったけれど、嬉しかった。
「そっか。それはよかった。これからよろしく」
俺はそう言うと、涼の手を握った。
涼は笑顔だった。
俺の一生をかけて守りたいと思う、笑顔だった。
□◇■◆
「おはよう、おはよう、嗚呼、おはようでござる」
廉次郎さんが出勤した。
「お、おはよう、ご、ございます……」
誰よりも出勤の速いばなりんさんが言う。
「廉次郎さま、おはようございます」
廉次郎さんの冷静さにあこがれを持つ涼。
「おはようございます」
そして俺。
あれから数日が経った。いつもと変わらない幽玄会社不思議に戻った。
隣で涼は表向きでは無音でユーチューブを見ている。
俺はちゃんと依頼内容を確認している。
「逢夢殿、最近は仕事がさまになってきたでござるな」
デスクに着くなり廉次郎さんが声をかけてくれた。
「き、昨日も、りょ、涼さんと、い、依頼を、こ、こなしていましたね……」
ばなりんさんも加わる。
昨日は高校生カップルから脱走した愛犬の依頼を受けて解決してきた。
「ええ、まあ」
あれは桐子姐さんのネットワークによるものが大きかったけれど、俺たちの手柄ということで。
「ちーっす」
桐子姐さんが出勤してきた。
そして九時を知らせる鐘が鳴った。
事務室のドアが開く。
「それじゃあ今日は会議じゃ。会議室に集まるように」
社長がそう言うと。
準備をして会議室に移動をする。
ばなりんさんはもちろん、みんな準備が早い。
出遅れた俺は一番最後になった。
今日は全員の出勤日。
会議を行い、成果や今後の方針を決めていく。
もっぱら最近の議題は俺の妖力集めだ。
つまり涼との再契約について。
妖怪たちにとってみたら脅威でしかない俺。
そして実は猫娘じゃない人間の涼。
そんな俺たちに協力してくれる幽玄会社不思議。
前の職場ではただ働いて給料をもらえればいいと思っていた。
でも今は違う。
俺に能力があるならちゃんと使いたい。
それを活かして人々を笑顔にしたい。
いや、もちろん給料はいただくけれど。
でもそれよりも幽玄会社不思議、社員が好きだ。
この人たちと一緒に過ごし、共に働きたい。
今までそんなことを考えて働いたことはなかった。
このみんなを大切にしたい。俺みたいな下っ端が言うのもおこがましいけれど。
だけどそう思う。
それになりより、涼といたい。涼の笑顔を見ていたい。力の限り守りたい。
だから俺はこれからも幽玄会社不思議で働き続けたい。
そんな希望を胸にみんなの待つ会議室のドアを開けた。
最後までお読みいただきありがとうございました。
楽しんでいただけたのなら幸いです。
私のエッセイ『脳内整理のさらけ出し』にて、この物語のあとがき的な、ライナーノーツ的な備忘録的な自作解説を恥ずかしげもなく行っています。
御時間がある方はぜひのぞいてみてください。
お付き合いいただきありがとうございました☆彡☆彡☆彡




