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「とまあ簡単に話すとそんな感じじゃ」

 椚田社長は幽玄会社不思議と道元との間に起きた話を終えた。

 簡単に説明していたけれど、実際にはもっと大変で壮絶だったのだろう。

 廉次郎さんもばなりんさんも険しい表情をしている。

「社長が寝てる間にも、いろいろあったんだけどな」

 そう言って桐子姐さんがさらに説明を付け加えた。

 道元をあっち側に強制転移させたあとは桐子姐さんのネットワークで、道元が関東圏内に入ったらすぐにわかるようにしたらしい。それは今の今まで続いている。

 強力な妖力でも関東圏外であれば無力に等しい。

 だから関東さえ押さえていれば問題はないとのこと。

 それと初代社長の興正氏は、椚田社長が寝ている間に「今までありがとう」という置手紙と共に消えてしまったらしい。

 椚田社長との契約ができず、それによって妖力の戻らなくなった自分はもう用無しだと考えたのか、あるいは妖力の無くなった自分に失望したのか、はたまた自信を無くしたのか、それすらわからないまま、無言のお別れとなったらしい。

 それを桐子姐さんが話している時の椚田社長の表情はどことなく寂しいものがあった。

 この間、清太郎を探している時に桐子姐さんが言った妖怪と人間との恋愛について「してもいいけど、実らないから寂しいだけだぜ」という言葉がよぎった。

 そしてその後すぐに、道元の選ばれし者を打ち消すために白無橋を壊したらしい。

「橋を壊す?」

 言っている意味が分からなかったので、俺は聞き返した。

「説明しておらんかったの」

 椚田社長が選ばれし者について説明をしてくれた。

 ここにいる、椚田、込縄、廿里、本尾花、狭霧、寒葉、という苗字は実際に甲州街道とその付近にある橋の名前と同じらしい。もちろん梅郷も。

 橋というのは境界をつなぐものであり、それには力があるという。

 だから選ばれし者は、甲州街道に限らず、どこかしらの橋の名前と苗字が一致しているというのが条件となるらしい。

 ちなみに俺の寒葉は、東寒葉橋と西寒葉橋と二つあるため、一族から選ばれし者が二人出ることがあるとのこと。

 この間社長が説明するときに、基本的に(・・・・)一族に一人、と言っていた意味はこれだ。

 だから道元の選ばれし者となるための橋、苗字と一致する白無橋を破壊したという。

 幸い白無橋は甲州街道の車が通るような大きい橋ではなく、歩行者専用の地元の人も使わないひっそりと設置されていたマイナーな橋だったらしい。

 そういった点で壊しても問題はなかった。

 しかし、そういう橋に限って大きな念のような力があり、破壊にはかなりの妖力を要し、椚田社長が寝ている間、かわるがわる破壊活動をしていたらしい。

 それくらい白無橋――道元の力が強かったということでもある。

「はてしかし、道元の復活とはどういう事でござろうか……」

 廉次郎さんがあごに手を当てながらつぶやくように言った。

「たしかに、今の話では、道元が死んだわけではなさそうですね。だとすると何をもって復活というのでしょうか」

 俺も疑問に思ったことを言う。

「単純に考えると、橋を作り直すとかじゃん?」

 たしかに単純だがある意味的を得たようなことを涼が言った。

「それは十分にあり得る話じゃの。しかしそう簡単には作れぬじゃろう」

 ただ橋をかければいいという話ではないらしい。

 橋としてちゃんと使えるように、認知されるようにしなくてはいけない。

「そ、そのために、ゆ、ゆがみをたくさん、つ、作って、こ、工作員を、お、送り込んで、きたとか……でしょうか……」

 ばなりんさんが小さく手を上げて言った。

「ちょっとネットワーク見てくるわ!」

 言うが早いか、桐子姐さんが会議室を出て行った。

 白無橋のあった場所を確認するべく、ネットワークトラックへ向かったのだろう。

 その間社長はパソコンをいじって過去の写真を映写機からスクリーンに映し出していた。

「これが興正じゃ」

 そこに移っていたのは若かりし笑顔の社長と、照れくさそうにしている男性。

 会社を立ち上げたときに撮った写真らしい。

 幸せと夢に溢れた瞬間といったところだ。

 そして次に今と変わらない桐子姐さんが忙しそうに仕事をしている写真が表示された。

 本人がいたら「やめろ。すぐに消せ」とか言いそうだ。

 次に映し出されたのは、打倒道元軍の出陣前の集合写真だった。

 中央に興正氏と椚田社長が立っている。その近くにばなりんさんも廉次郎さんもいる。もちろん桐子姐さんも。

 三人とも今と全くと言っていいほど変わりがない。妖怪は歳を取らないのだろうか。

 いや、社長は歳をとっている。個人差が大きくあるようだ。

「この一番右端にいるのが劾じゃ。本名を蛇瀧(じゃりゅう)劾という」

 俺は社長がレーザーポインタで示した人物に目をやる。

 そして息をのんだ。

「ねえ、逢夢……」

 涼も気が付いたようだ。俺の肩に手を添え、つぶやくように言った。

「涼……。あれは絶対そうだ……」

 見間違うはずがない。目つき、口のゆがみ、全てがあの時の記憶とリンクした。

 椚田社長の示した劾という人物は、俺と涼がゆがみに巻き込まれたときに見た、あのトカゲの妖怪そのものだった。

 俺と涼が言葉を失っていると、会議室の扉が勢いよく開かれ、桐子姐さんが息を切らして戻ってきた。

 そして席に着くこともなく、焦りが伝わる口調で桐子姐さんが言った。

「やべえ……。白無橋が復活してやがる」


白無橋は設定上架空の橋ですが、それ以外の橋は実在しています。

私がドライブで見かけた狭霧橋と西寒葉橋と東寒葉橋以外は「東京の橋」というホームページを参照して各キャラクターの苗字にしました。

ちなみに椚田は上椚田橋が正確な名前です。

また「東京の橋」というホームページは二〇一六年八月を最後に更新が止まっており、お問い合わせ先もなかったので、ここで謝辞を述べさせていただきたいと思います。

大変参考になりました。ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] かっこいい名前の橋がけっこうあるんですね~。 これは聖地巡礼されるやつや! あのトカゲ野郎が裏切りクソ野郎だったのかぁ~!(言葉遣い)
[良い点] 橋の名前だったんですね! そしてトカゲが劾だったか!
[良い点] そんな設定があったとは……! 実際にあるものを出すと物語にリアリティが増していいですよね(*'▽'*) 見に行ってみたいけど東京かぁ、めっちゃ遠いです笑 そして劾も……次回も楽しみにお待ち…
2022/06/07 18:56 退会済み
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