人間の自治区
ザワザワザワッ
深い雪を乗り越えて魔王城前の広い土地へとやってきた人間達。
自分の命を守る為には他者への情けを捨て去らなければならなかっただろう旅を乗り越えてきた者達だ。
途中で何人もの弱者が雪に埋もれて死んだと報告は受けている。
各地の村から集まった人間達は100人近く、年齢層は成人~中年が多く子供や老人は少ない。
魔王城は崖上に作られており、魔王城前から徒歩で近づくには登って来なければならないようになっている。
ザクッザクッ
崖を降りて雪に踏みしめて歩く。
後ろには上級悪魔のバホメットを控えさせる。
「この中の代表者を呼べ」
「ひっ、ま、魔族」
声を掛けられた男は俺達を見て腰を抜かした。
「バ、バホメット殿か・・・ワシがこの者を纏めている者ですじゃ」
老人が奥から出て来た。
村との交渉はバホメットに全て頼んでいた。山羊頭の悪魔なら忘れられないだろうと思っていたからだ。
「全員を集めなさい」
「はい」
老人はバラバラに立っていた村人たちを集める。
「静粛に魔王様からの言葉である」
バホメットによる服従の魔言によって人々の口が閉ざされた。
「まず、話しておかなければならないのは君達は我々に生かされているという事を念頭に置け」
ザワッ
「静かに」
衝撃的な事を言われてザワつくがバホメットに抑えられる。
「ここは君達にとっては過酷な土地だという事だ。現在も降り続けている雪から身を守らなければならない。更に食料の問題である100名分の食料はこの魔王城にも無いという事だ。まだ村に残っていたほうがマシだったと思うがな。さて、君達には2つの道がある。このまま引き返すかこの土地に住むかだ・・・この魔王城前は俺の支配下であり周辺の魔族は手出ししない土地でもある。だが、一歩でも他の場所へ入り込んでしまえば殺されても文句は言うな。さぁ、どうする?」
このまま引き返しても生き残れるかは五分五分だ。
人間達は話し合い、全員が残る事を決めた。
「我々が貸し与えるのは土地だけだ。衣食住はお前達だけで何とかするのだな」
ブゥウンッ
今朝がた狩ってきた2頭の鹿を亜空間から取り出して地面に投げ捨てる。
「血抜きは終わっている。数日は持つだろう」
バサッ
そう言い残して俺とバホメットは魔王城へと引き返した。
・・・
「その後の動きはどうだ?」
「簡易的なテントを建てていますな」
テントを建てて寒さから身を守る。
時折、村人が周辺へと足を延ばして野生動物を探している。
事前に行動可能範囲の地図を渡していて境目も分かるように目印を付けておいた。
この魔王城の周辺は山脈に囲まれており窪地に作られている。
人間達が通ってきた道以外では攻め入るには難しい天然の要塞だ。
コチラ側の山脈は魔王が直轄地として周囲の魔族達は認識していて山脈の向こう側には各々の生活圏を抱えている魔族達が暮らしている。
魔王城にいる魔族は300名程で戦争時にだけ周辺の魔族達を集めるという方法を取ってきたようだ。
山脈の麓には森が広がり、焚き木には困らないだろう。
「ちょっと、アリア」
バホメットから人間達の動きを聞いていた時にフレアが玉座の間へと入ってきた。
「あの人間達はなんなのよ!」
「避難して来ただけだが」
「なんで受け入れているのよ。バホメットも反対しなかった訳?」
「これも魔王様の考え合っての事ですよ」
四天王に話した事を説明する。
「勇者達に対する防壁ですって・・・」
「勇者が罪もない人々を殺すのは見物だと思わないか? これが人間領に伝わればどうなる事か」
「なるほど、そういう使い方が」
「それと、あまり軍事に入って来るな」
「なっ!? 私は姫なのよ」
「元な。お前の今は先代魔王の娘というだけだ。現魔王の俺が居る限りは発言権は無いんだぞ?」
四天王達は俺を認めて従ってくれている。
だが、フレアは俺の傘下に入っているわけではない。
「それが嫌ならこの城を出て行けばいい」
「なっ!? 父様の城を出て行けというの」
「歴代魔王の城だ。お前や先代魔王の城ではない。この城は魔王となった者が扱う土地であり居城だ」
「そんな」
「お前の人生だ。好きにすればいい。それとも俺が自由を手に入れても良いか? 別に構わないがな」
勇者を退ける程の力を持つ俺を手放せば1ヶ月前と同じ状況に戻るだけだ。
既に魔族の中には俺を魔王として認識している連中が多く、今更先代魔王の娘が出て来た所で従う者は少ないだろう。
良くて城に住まう魔族達だけだな。
「バホメットは私の味方でしょ?」
「姫様、今は魔王領を守る事が先決です。長年仕えていましたが私の優先順位はアリア様が先になります」
「そ、んな。どうして、そんな事を言うの」
「これは魔族の未来を掛けた戦いです。どれを優先するかの選択権は私にもあります」
「子供の頃から私に」
「いえ。私は先代魔王様に仕えていただけです。先代が亡くなった後は姫様が優先的になったまでです。現在はアリア様が優先に移っただけに過ぎず」
「う、うぇ」
涙目になり、フレアは自室へと戻っていった。
「冷たい事を言うな」
「アークデーモンの私は所詮は駒です。仕える主を優先するのが務め」
「サリーナ、アイツを慰めてやってくれ」
「承知したわぁ」
「それとなく、アイツの考えも聞いておいてくれ」
「分かったわぁ」
サリーナがフレアの自室へと向かう。
「宜しいので?」
「元はアイツの住んでいた場所だぞ? それを出て行けと言われればな」
「魔王様は冷たいのか優しのか分かりませんな」
「ガハハッ、口は悪い癖に妙に情がありやがる」
「それが良い所で御座る」
「仲良くするモォ」
「さて、冬の間どうするかだな」
後日、サリーナを通じて残る事を聞く。
食糧問題は常にあり、毎日300名分を確保するのも悩みの種である。
バホメットのように悪魔系の食事は人間の恐怖、憎悪といったマイナス感情だそうで食料が浮く。
だが、ガルゥ等の動物系の魔族には必要な事だ。
毎日狩りへ出かけては食料確保をしている。
もし、万の軍勢を抱えていれば深刻な事だろう。
「畑を作れば」
300名もの労働力を使わない手は無い。
雪の中で畑を作り出すという事は無謀の為、計画だけは立てる事にする。
だが、肉食のガルゥ達猛獣系に分類される者達は難色を示した。
小麦や野菜は肉ではないのだから作り出す意味が分からないという。
協力的なのは雑食系の魔族達だった。
畑の位置や規模は村人たちから聞いて知識を得る。
この話は人間達にも伝えて魔族達の管理する畑と人間達の管理する畑と分けて作ってみる事にした。
これは人間が有用な存在だと知るための事であり魔族達の考え方を改めさせる旨を伝えたらやる気を出してくれた。
冬場で出来る事は限られており下準備を整える。




