仲間
「アリア様ぁ」
甘い声で鳴くシズカ。
「やっちゃいましたね」
「アキラ2号の完成だ」
目の前でドラキュリーナへと変貌したシズカが俺の指を美味しそうに吸っている。
「今日も休日の連絡を入れてきます」
「あぁ」
シズカの変異は2日で終わりを遂げてアキラと交えて甘い夜を過ごしている訳だが・・・
「アリア様、もっと下さい」
「どうするかな」
ドラキュリーナになったばかりで元々持っていたレベルとスキルの殆どを失ったシズカに人化する術はない。
このまま行方不明になるのは悪手だな。
太陽光遮断の魔道具で明るくても外には出れるが魔族の特徴を持っている内は外に出せないな。
カプッ
「噛むな」
「だってぇ、構ってください」
「早まったな」
ある程度の地盤を固めてから実行に移すべきだったな。
仕方なくシズカを連日連夜町の外に連れ出してモンスターと戦わせる事となった。
「アキラ先輩!」
「はいはい」
元々の飲み込みも早くレベルは順調に上がっていき、日中はアキラと共に出て行き人化できるレベルまで上げ続けている。
「隣国でワイバーンが討伐されたってよ。なんでもすげぇ強いメイドらしんだ」
ガルムから変な噂が流れてきた。
「聞きましたわ・・・通りすがりのメイド達ですわね」
「その様な人物が・・・この話は知らない。運命が変わった?」
ブツブツと独り言を呟くアリシア。
「それにアリアって誰? モブキャラにも居なかった」
俺をみて呟く。
どうも俺の知っているアリシアではない。
「アリシア様。本日は気分が優れなくて?」
「いえ、ご心配無用です」
他の者達が声を掛けると普段のアリシアに戻る。
「アリシア! また、貴様か!!」
「何の事です?」
もはやクラス名物になりつつあるやり取りが始まる。
「いい加減にしろよ! 根も葉もない噂でアリシアを責め立てるな」
「酷いですわ。私はアリシア様に酷い苛めを受けているんです」
両手で顔を覆い泣き出すルーイン。
「透視」
両手に覆い隠されていた顔は歪んだ笑顔だった。
「うっ」
悪意の塊という表現が似合う表情に俺は気分を悪くした。
「アリア様、気分が悪いんじゃなくて?」
「えぇ。少し横になってくるわ」
教室を出て保健室で1時限分を休む。
帰ってくる頃にはアリシア派とルーイン派での論争が広がっていた。
「この1時間で何が?」
「それが」
一部始終を見ていたロッテが話す。
最初はいつも通りの言い合いだったが、時間が経つにつれて論争は激しくなっていったようだ。
「アリア様、助けて下さいまし」
ロッテの困惑した表情は可愛いと思いながらも目の前の惨状だ。
言い争いの中心はアリシアとバーン。互いの陣営が援護していると言った所だ。
パンッ!
教室中に響くように手を叩き注目を集める。
「皆様、熱くなりすぎですわよ。ここは各国から集められた優秀な人材が集まるクラスですのよ。頭を冷やして冷静になってください。冷やせない方は前へ出てきて私が直接冷やして差し上げますわ」
プヨプヨ
俺の周囲に無数の水玉を浮かせて笑顔で問いかけるとクラスメイト達は論争を止める。
「それで宜しいですわ」
フッ
水玉を消し去る。
「助かったぜ・・・アイツ等引き際を知らねぇみたいでよ」
「アリア様、父上のようで格好良かったですわ」
ガルムとロッテが一息つく。
「アリシア様らしくありませんわね」
「私らしく・・・ねぇ、教えて。私らしくって何?」
いつもと違った雰囲気をだしているアリシア。
精神に何か?
と思ったがアリシアはより一層強い魔力を発しているだけだ。
「もぅ、嫌だよ」
珍しく弱い口調で漏らすアリシア。
「アリシア様、お気分が優れないならサロンへ行きましょう」
今の時間帯なら誰もいない場所へと移動する。
コポポポッ
「アリシア様、アリア様。紅茶です」
アリシア付きのメイドから紅茶を入れてもらい部屋を出て行ってもらう。
「人払いは済ませましたわ」
防音もな。
「私、どうしたら良いのか分からないの・・・ねぇ、昔の私はどんなだったの?」
と、言われても俺にも分からん。
「アリシア様、一体何がありましたの?」
「私も分からないの。酷い熱でうなされていた時にもう一人の私が居るの・・・ううん居たわ」
「居たとは?」
「今は居ない・・・けど居るの。私の中に入ってきて溶け込んで・・・価値観を変えたの」
「価値観?」
「もう一人の私はココとは別の場所・・・ううん違う世界に生きてきた人間なのよ。この口調もその影響だわ」
「アリシア様、落ち着いてください。少しずつで宜しくて?」
「はい・・・」
アリシアがアリシアではなくなった日について語ってくれた。
「たぶん、私はこの世界の事を知っているわ・・・あのルーインに嵌められてしまうの」
「詳しく話してみて下さる?」
「この世界は運命の聖女って乙女ゲームなんです」
まさかのゲーム世界説かよ・・・そういう世界だなとは思ってたけどよ。
「私は悪役令嬢で」
「アリシア様は王女様ですわ」
「悪役王女で、あのルーインって子がヒロインなの・・・」
「悪役とかヒロインってなんの事ですの?」
あくまで知らないふりで通さないとダメだな。
「それは」
アリシアから乙女ゲームについて説明を受ける。
「なるほど、その乙女ゲームなる物語と捉えますね。そのシナリオというのに沿って私達は動いていると?」
「はい・・・このままだと私は死刑か国外追放が待ち受けてます」
「国外追放と言っても故郷の国に帰るだけですわよね?」
「違います。私の行動でサーペンティン王国に新生レーヴァン聖王国が宣戦布告します」
戦争にまで発展するゲームってヤバいだろ・・・
「これ以上、バーン様との関わりを絶てば宜しいのではなくて?」
「無理なんです、筋書きは変わりありません」
「もし、その話が本当の事でしたら、私達の状況はどう説明しますの? そのシナリオにはアリシア様は言っておりますの?」
「いえ」
「では、この時点でそのシナリオ通りに行っておりませんわよね?」
「でも、こんな事くらいでバッドエンドの回避なんて」
「そのバッドエンドの詳細も教えてくださいまし」
「えっと」
「バーン様ルート、アルマン様ルート、ルーイン様ルート、ヘルン様ルートですわね」
王太子の他に3人も攻略者がいるのかよ。
「それとガルム様ルートがありまして」
「ガルム様はロッテ様と婚約されているんですのよ?」
「別名寝取りルートと呼ばれてるの」
寝取りと来たか・・・やりたい放題なヒロインだな。
「どのルートに進んでも私の運命は酷い物なの・・・なんでこんな体に」
ポロポロと涙を零すアリシア。
「コレを」
白いハンカチを渡してアリシアが涙をぬぐう。
「アリシア様、全てを潰せば宜しくて」
「え?」
「全てのルートを潰すのですわ」
「そんな事」
「できますわ。ただ、これには時間が凄く掛かりますの。その間アリシア様は一人で戦う事になります。その覚悟をしてくださいまし」
「そういえば・・・隠しルートがあるって。私はやれてなかったけれど」
「それですわ。隠しルートに進めば明るい未来が開かれますわ」
「なんで、アリア様は私に」
「約束だからですわ」
「一体誰の?」
「それは全て終わってからに話しますわ」
「アナタは一体・・・」
「私はアリア・アリアンロッド。サーペンティン王家の遠縁にあたるモブキャラですわ」
「そんな濃いキャラクターがモブじゃないわ」
「やっと笑いましたわね」
「あっ」
「笑ってくださいまし。アリシア様は笑顔がお似合いですわ」
「はい!」
アリシアの変貌について解決したが新たな問題が浮上した事だった。




