海神魔王.
「はっ!」
海神魔王モンドーは意識を取り戻して起き上がる。
ザザァンッ
いつものように波が砂浜に打ち付ける。
「やっと起きたか」
「アンタなんで」
殺してないという表情をしているな。
「支配領域に入ってしまった事は済まないと思っている」
「何処の魔王だべ?」
「何処の?」
「ワテの知っている魔王は竜・淫・空・不死だけだべ。他の三魔王の誰かだべ」
竜・淫・空・不死、そして海神というのは魔王の二つ名か。
「何処の魔王でもない」
「嘘を言うでねぇさ。アンタから魔王の因子は感じとるで・・・いや」
モンドーは少し考える。
「アンタ、最近魔王になったでねぇか?」
「1週間ほど前にな」
「・・・この数百年は魔王が誕生するなんて思ってもみなかったべ。竜魔王の招集はこれだったべ」
「勝手に納得してもらうのは困るんだが」
「ワテの勘違いだべ。悪かったべ・・・てっきり他の魔王が攻めて来たと思ったべ」
「こっちも無断で入ってしまったからな」
「それにしても、その姿目立つべよ?」
「魔王に進化したらこうなってたんだ」
「ハハーン、生まれたばかりで調整が出来ないだべな。魔力操作は知ってるべか?」
「一応は」
「その体は魔力で大きく見せているだけだべ、抑えれば縮むべよ」
そうなのか?
「本体はその中に入ってるべ。目とかの感覚は共有しているだけだべ」
「わかった」
シュゥウウウ
魔力の放出を押さえると縮んでいき人間サイズに戻った。
「アリア様! 元のサイズに戻ったんですね」
アキラが俺の腕に抱き着いて涙ぐむ。
「おぉ、何処に隠れていたべか? お前さんはこの魔王の従者だべか?」
「アリア様の従者アキラです。隅から隅まで身の回りのお世話をしています」
「詫びと言ってはなんだが、ワテの屋敷に招待するだ」
「その前に逃げた領民を戻す方が先だと思うぞ」
人っ子一人いない港町。
「ワテが負けちまっだから、皆逃げたべな」
ドドドドドドッ
すると2つの角が生えた馬に跨った集団が現れた。
「モンドー様、助太刀いたしますぞ」
先頭に居た水棲魔族の一人が声を張り上げて言う。
「待つんだべ! 勘違いだべよ」
「モンドー様?」
モンドーは俺の事を話すと集団は武装解除した。
「避難した皆を戻してほしいべ」
「はっ!」
ドドドドドッ
「アレは?」
「ワテの持つ海軍だべ」
港の両端には巨大な帆船が浮かんでいた。
「基本的にはクラーケンが渡航してきた船を撃退するべが海軍は必要だべ」
「なるほど」
「まずは聖大陸から渡ってきた疲れを癒すべ」
モンドーに大きな屋敷へと案内された。
「風呂さ用意するべな」
使用人たちも避難してしまった為にモンドーが一人で準備にかかる。
港町ゆえに薪は潮風で湿気っていて火は付けづらい。
ボボボッ
「水は得意だが、火は難しいだべよ。普段は得意な使用人にやらせてるべ」
藁ぶき屋根に和風な建築物、五右衛門風呂が完備されている。
「私が得意ですよぉ。任せてください!」
「お客人にそんなことさせられねぇべ」
「いえいえ、早く入るなら私の力が必要ですよ」
ボボボッ
アキラがモンドーと変わる。
「たしか、アリア殿だったべ?」
「あぁ」
「待っている間にお茶を用意するべ」
「悪いな」
「なに、これ位」
巨体を揺らしながら中へと入り、客間へと通される。
「この地域で取れるお茶だべ」
「モンドー様!」
そこに水棲魔族が姿を現した。
「竜魔王様から面談の通信が入りました。今回の新魔王様についてとか」
「許可するべ。ここに通すべよ」
「はっ!」
踵を返して離れていくのとすれ違いにまた違う魔族がやってきた。
「モンドー様。ご無事で我々は心配しておりました」
「皆も怪我はなかったべか?」
「はい!」
「今日は3人の客人を迎えるべよ。一人は風呂支度を手伝ってもらってるべ」
「「「「はい!」」」」
数名の使用人たちがバラバラに動き出した。
「ここは大丈夫ですから」
「なんなんですか!」
風呂支度をしていたアキラが使用人に押されて客間に入ってきた。
「アリア様、私の役目が取られちゃいました」
「よしよし」
多分事情説明なしに連れて来られたんだろう。
「仲が良いべな? 姉妹か?」
「主従関係だよ」
「こんな主従関係は初めて見るべ・・・」
何か思うところがあるのか?
「モンドー様、竜魔王様がご到着されました」
「通すべ」
「ハハッ」
ドシドシドシッ
「モンドーよ。久しいのぉ」
「ハムート殿も数年ぶりだべ。今日は行けなかったのは悪かったべ。海が騒がしかったんだべ」
現れたのは人の姿に近い高齢の老人だった。
竜の角や翼は生えているし覇気が違う
「竜魔王ハムート」
「アリアよ。久しいのぉ」
「ハムート殿のお知り合いだべか?」
「ワシが名づけたからのぉ。あの頃はレッサーヴァンパイアだったかのぉ?」
「名づけて魔王まで到達するとは流石ハムート殿だべ」
「いや、名づけまでじゃ。魔王まで至ったのはアリアの力じゃよ」
「ところで要件とはなんだべ?」
「もちろんアリアの処遇についてじゃよ」
バッ
アキラが俺を護る様に前に立つ。
「悪いようにはせんよ。ちぃとバランスが崩れかねないから話し合いをしにのぉ」
「何処に居城を建てるだべか」
「居城?」
「魔王たるもの居城の一つは建てねばのぉ。他の魔族達に示しがつかんじゃろう」
魔王というだけで面倒だな。
「魔王の運命じゃよ」
「しかし、魔大陸は8人の魔王で統括されているべ」
「この数千年間は8人を割る事はあっても超える事は無かったからのぉ」
長い髭を撫でながら考える。
「9人目の魔王・・・他が騒がなければ良いべ」
「既に空と淫は了承を得ておる。支配地域を奪うならば受けて立つとも言っておった」
「今日は3人しか集まらなかったべ?」
「普通の事じゃからのぉ」
話がどんどん進んでいく。
「別に俺は魔王として君臨する気が無いんだが」
「「はぁ~」」
2人の魔王からため息が漏れる。
「魔王たるもの最低限の威厳が求められるべ。主に力だべよ」
「新魔王の噂は直ぐに魔大陸全土に広がるであろう。そして魔王の座を奪おうという魔族達が襲い掛かってくるのも同じく」
「嘘だろ」
安寧を求めて魔大陸に来たがバトルジャンキーの巣窟だったのかよ。
「魔王を倒すメリットがあるのか?」
「魔王を倒した者が次なる魔王となるのが習わし」
「さっき下回る時があったって言っていなかったか?」
「たまに寿命で死ぬ魔王がおるのじゃ。次の魔王が決まるまでは空席になるからの」
「その場合はどうやって決めるんだ?」
「各地から魔王になりたい奴らが募る。そして前魔王の心臓を体内に取り込めばそやつが新魔王だ」
「俺は魔王の心臓を取り込んでいないぞ?」
「魔王に至るにはもう一つある・・・なんだか分かるかの?」
「はい、人間達の魂ですね!」
アキラが手を挙げて答えた。
「うむ。勇者を殺し、人間の魂・・・大体5000人分を喰らう事で魔王へ至れるのじゃ」
心当たりはある。
「たったそれだけで?」
「今の時代、聖大陸へ渡って勇者を倒して人間達を殺すという魔族は少ないべ。そもそも海を渡る手段が限られているべよ」
「大体が勇者に返り討ちになるのが関の山じゃ・・・つまりお主の例が稀という事じゃな」
「継承魔王より覚醒魔王の方が珍しいべ」
「継承魔王? 覚醒魔王?」
「継承とは先ほど説明した通り、魔王の心臓を取り込んだ魔王じゃ」
「覚醒魔王は勇者を殺し、5000人の魂を喰らう事で覚醒した魔王だべ。この魔大陸で覚醒魔王は2人だけだべ」
「ワシと不死じゃ」
「その昔、勇者を倒したのか?」
「数千年前にの、土の勇者だったか?」
光以外にもいるのか。
「勇者は六属性分おるよ」
無と時は居ないらしい。
コンコン
「失礼します。お風呂の準備が整いました」
「話は夕餉にするかの。先に入ってまいれ。ワシはモンドーと話す事もあるからの」
「アリア様、行きましょう!」
「そうだな」
話を打ち切って、風呂場へと向かう。
「ふんふんふーん」
「機嫌が良いな」
「1週間振りのお風呂ですよ! それにアリア様と混浴・・・でへへっ」
「お前はいつも通りだな」
「私を変えたのはアリア様じゃないですかぁ?」
「否定はせん」
「早く入りましょう」
ザバァアッ
「ふあぁあ!」
温かい湯に身を沈めてアキラが恍惚の表情になる。
「翼はどうした?」
ドラキュリーナになってからコウモリの翼が生えていた筈だが。
「魔法って便利ですよ。本当はありますけど亜空間にしまえました」
「そうなのか? んっ!」
【亜空間収納(Lv1)を取得しました】
サァアッ
俺の翼も空気に溶けるように消えていく。
が、そこにあると認識は出来ていた。
「アリア様、お背中お流ししますよ」
「あぁ」
「いつ見てもスベスベですね」
「知っているだろう」
「この柔らかい肌に艶に張り」
「んぅ。何処を触って」
「ここも丁寧に洗いますね」
「んぁ!」
「アリア様、可愛いですね」
「こんのぉ」
「きゃんっ」
「今度は俺が洗ってやろう」
「自分で洗えますから」
「遠慮するな!」
・・・
「いい湯だった」
「・・・」
「風呂場でイチャつくでない。声がここまで聞こえておったぞ」
「若いというのはいいだべ」
客間に戻るなりハムートに叱られた。
「う~ん、これこれ」
「旨い」
基本的に血だけで生きていける俺達だが、たまには食べ物を口にしたい時はある。
「ソウルフードがここに来て頂けるなんて、アリア様あ~ん」
パクッ
「この刺身は新鮮だな」
漁港という事もあり生の魚を調理した物が出された。
和風建築だけではなく和の調味料である醤油や味噌などもあった。
「お味噌汁も出汁をちゃんと取られてますねぇ」
「あぁ」
「喜んで貰えてうれしいべ。海鮮料理は好まれない事が多いべ」
「えぇ~こんなに美味しいのに勿体ないです」
「そうだな」
「ワシは肉が良いからのぉ」
明らかに肉食系であるハムートは焼いた肉塊をかぶり付く。
久しぶりの和風の食べ物に舌鼓を打つ。




