92 邪竜の後始末
ダンジョン内限定ながら、使えば一瞬でそのダンジョンの地下一階まで戻ってこられる便利なアイテム、エグジストーン。
命がけのダンジョン潜入、少しでも危険を感じたらすぐに使うのが鉄則だ。
ダンジョンの風景がコロコロ変わって、場違いなモンスターが次々湧いてきたならなおのこと。
ほぼ全てのパーティーが即時撤退を判断し、その結果。
地下一階は戻ってきた冒険者たちと異常発生したモンスターで埋め尽くされようとしていた。
「こりゃまずいな……」
目の前の光景に、ガルダがつぶやく。
そのとおり、モンスターを減らして冒険者たちを避難させなきゃ圧死すらあり得るよね。
「速攻で掃除しなきゃ」
「よぉし、ミア様にまかせ――」
「時の凍結」
ピキィィィ……ン!!
時間を凍らせて、まずはモンスターの大掃除だ。
強さも種類も見事にバラバラ。
前にプロムの世界に不具合が起きた時にそっくり。
「……考えるのはプロムが戻ってきてからか」
ひとまずサクッと片付けよう。
氷の魔力で剣を形作って……、
「凍氷刃」
魔力で操って飛ばし、魔物だけをスパスパ斬り刻む。
どんな魔物も一刀両断、今日もバツグンの切れ味だ。
全てのモンスターを斬り捨てたところで、時間の流れを解凍。
「――るのだ! ……って、またこれなのか」
「ごめんね、緊急事態だから」
いつもいつも悪いとは思ってる。
思ってるけどミアに見せ場をあげてる場合じゃないんだな、これが。
「さ、早く避難誘導しよう。新手のモンスターが湧く前に」
「だな……っと、やったそばからもう湧きだしやがった……! 竜人転化!」
ドラゴンメイドに変身したガルダが、湧いたばかりのケルベロスを両断しつつ冒険者たちに呼びかける。
「おい、みんな! 早くダンジョンの外へ!」
「おぉ、『竜の牙』……」
「『氷結の舞姫』も……!」
目の前でいきなりモンスターが死んで呆然としていた冒険者たちが、ガルダの声で我に返る。
さすがは命を賭けた日々を送っている冒険のプロ。
私たちがやったってわかると、みんな落ち着いてダンジョンの出口へ駆け出した。
だけど、残念ながらこれで解決ってわけじゃない。
冒険者たちはまだまだ帰還してくるし、モンスターもどんどん沸いてくる。
こうなっちゃったら避難が終わりきるまで、片っ端から倒してくしかないね。
「今度こそミアの見せ場なのだ! おりゃあぁぁぁぁぁぁ!」
『鬼斬り包丁』を手に、張り切ってむかっていくミア。
もちろんガルダも大立ち回りを開始。
私もひと暴れしようか、と思った次の瞬間。
ミアがいたところにワープホールが開き、
「原因が判明したのじゃ!」
出現したるは金髪幼女プロメテウス。
とっても慌てた様子だけど……。
二人とも戦い始めたことだし、ここは手が空いてる私が聞くべきかな。
「むむ、こっちも修羅場のようじゃな……!」
「プロム、わかったんなら早く教えて」
「う、うむ……。尋ね方がいささか乱暴ではないかのう……」
緊急事態だし、そこは許してほしい。
「結論から言うと、原因は邪竜じゃ。奴が死したのち、空間に残留した魔力の断片が術式に作用し、時間をかけてバグを作っていったのじゃ。ソイツが今、発現してしまったというわけじゃな」
「邪竜の魔力、ね……」
アイツ、死んでからも迷惑かけてんな。
ホントいい加減にしてほしい。
「バグの影響で、ダンジョンの制御と魔物の出現が狂ってしまっておる。エルコルディホが修復にあたっておるが、まだ修正に時間がかかりそうじゃ」
プロムの説明が終わると同時、空間に穴が開く。
穴のむこうはかつてプロムを送り届けた制御中枢の中心部。
モニターの前に座ったエルコがこっちにグッ、と親指を立て、
「直ちに解決する。しばしの間辛抱されたし」
と、言いたいことだけ言って穴を閉じた。
なるほど、エルコがいないのはそういうわけね。
……ところで、
「プロムは作業、手伝わないの?」
「まことに不服であるが、あやつの方が技術が上なのでな……」
にがーい顔してんな。
姉としての面目丸つぶれって感じでしょうか。
「ともかく! バグ修正が終わるまでの間、魔物を倒し続けること。以上が解決法じゃ!」
「ん、シンプルでわかりやすい。ミア、ガルダ、聞こえてた?」
「バッチリなのだ! ぬおおぉぉぉおおっ、微塵斬りっ!!」
モンスターの群れの中で奮闘しながら答えるミア。
「おうさ。お安い注文だね!」
ガルダも腰の双剣を連結させて、ぶん回しながら答えてくれた。
エグジストーンを使って戻ってくる冒険者たちはまだまだ多い。
それに魔物の湧きも天井知らず。
この戦いの目的は時間を稼ぐことだから時間停止は無意味だけど、そろそろ私もいっしょに暴れさせてもらおうかな……!




