88 ネリィ最大の危機
……どうして、どうしてこんなことになったんだろう。
「きゃーん! お姉さま、最高にかわいいですぅ!」
私のとなりで突っ立っているガルダの姿に、サクヤが瞳を輝かせる。
リボンとフリルでフリフリのキラキラな、白をベースに黒を散りばめた改造ミニスカメイド服を着せられて、死んだ魚のように光の消えたガルダをながめながら。
「ネリィだって、すっごぉくかわいいよぉ!」
アイナも私の格好にご満悦の様子。
ガルダと同じデザインの、青とピンクのフリフリメイド服、そんなに私に似合ってるのかな……。
私としては今すぐ脱ぎたいんだけど。
「うへへへへ……、眼福だよぉ……。こんなナイスなアイデア思いつくなんて、サクヤちゃん天才だよぉ……」
「アイナさんこそ、フリフリアイドル風メイド服を二人分、短時間で用意してみせるだなんて。もう、もう最高ですよ……っ!」
二人してテンション高いね。
私たちのテンションは地底都市よりもさらに低い場所にあるよ……。
「……あの、コレ脱いでいいかな? 死ぬほど恥ずかしいし」
「あぁ……、もう勘弁してくれ……」
「脱ぐなんてとんでもないっ! だってネリィとガルデラさん、みんなの前でそれを着て踊るんだよぉ!」
「え……」
ちょっと待って。
ドラゴンメイドの姿で踊る、ってたしかに提案したのは私。
まぎれもなく私。
でもさ、あくまでいつものメイド服でって話でさ。
こんなフリフリリボンのファンシーな改造メイド服で踊るなんて聞いてない。
言った覚えもない。
「あぁ、想像するだけでたまりません……! すこし恥ずかしそうな、けれど弾けるような笑顔で、フリフリをなびかせながら踊るお姉さま……!」
「あのネリィが、満点のスマイルで歌って踊ってするんだよねぇ……。うへへ……」
「お二人ともファン多いですし、盛り上がること間違いなしですよね……!」
「二人の可愛さに酔いしれるお客さんたち……。でもね、でもねぇ、キラキラしててかわいいネリィはあたしの恋人なんだよぉ……」
「お姉さまも私だけのお姉さま……。みんなのアイドルを独り占めするなんて、仄暗い優越感が……」
「うへ、うへへへへ……」
あぁ、これはきっと罰なんだ。
ガルダを歌って踊れるドラゴンメイドにしようなんて考えた私に下された天罰。
天罰なんだ……。
……ガルダは完全に被害者だけども。
〇〇〇
私たち二人の身体能力なら、ダンスは完璧にこなせる。
歌だってそこそこ自信がある。
ならば問題はないのかというと、そんなことはない。
私たちの最大の障害、それは……。
「ほら、もっとスマイルだよぉ!」
「恥ずかしがらないでください、それはそれでそそりますが!」
それは、羞恥心。
フリフリの格好で笑顔を振りまくの、ホントにダメ。
引きつった笑顔しかできないの。
「も、もうムリだってぇ……」
顔を真っ赤にして崩れ落ちるガルダ。
アイナとサクヤの二人だけでこのザマだ。
大勢のお客さんの前に立って、なんて考えるだけでもゾッとする。
「あの……、ちょっと休憩行っていい……?」
「うーん……、アイナさん、どうします?」
「今日はここまで、ってことでいいんじゃないかなぁ。っていうか、そろそろかわいそうになってきたよぉ……」
「で、ですね……」
私たちの惨状に、ノリノリだったアイナたちもとうとう同情し始める。
このまま立ち消えになってくれればいいなぁ、なんて思いつつ、私はガルダの肩をポンと叩いた。
気分転換がてら、ガルダといっしょに街長として街の見回り。
邪竜襲来以降、私たちの人気と知名度はますます上がったようで。
「あの……っ、ネリィさん、握手してくださいっ!」
「う、うん……」
道を歩いているだけで、ファンから声をかけられるように。
駆け出しの冒険者っぽい出で立ちの女の子に握手をしてあげてる隣で、ガルダも小さな女の子に笑顔で対応してあげている。
元チャンピオンだけあって、ずいぶん手慣れた様子だな。
その子たちが立ち去ったのを見計らって、私は話を切り出す。
公衆の面前でフリフリを着る未来を変えるために。
「ねぇ、アイドル計画なんだけどさ……。アイナたちも、私とガルダが本気で嫌がったら無理強いしないと思うんだ」
「だろうな、あの子たち優しいから」
よし、この調子で――。
「……けどね。正直、嫌じゃないんだよ。恥ずかしいだけで、さ」
あ、あれ……?
「アタシ、こんなだけどさ。一丁前に女の子らしくてカワイイやつに憧れてた時期もあって。アイナの作ったメイド服着て仕事するのも、だんだん楽しくなっていったんだ」
おかしいな、なんだか雲行きが……。
「あの服だって、きっと好きになれると思う。それに、ここでやめたらアタシはまた、自分の『好き』から逃げることになっちまう」
ちょっと待って、ちょっと待って。
なんかもう、ちょっと待って。
「だからアタシ、続けたい。……けど、やっぱり勇気が足りないから、隣でネリィにも歌っていてほしいんだ。一人じゃないって思えたら、きっとアタシ歌えるから」
あ、あぁぁぁぁぁ……。
もうダメ、コレ断れる空気じゃない。
ガルダは完全な被害者とか、同情した私がバカだった。
「う、うん……。いっしょにがんばろ……」
私がうなずくと、ガルダはパーッと顔をほころばせる。
なんかいい話みたいになってるけど、私が逃げられなくなったってだけの話だよね……。
うん、自業自得と思ってあきらめよう……。




