表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

85/93

85 幼女たちの提案




「デリバリー……とな?」


「そうじゃ、デリバリーじゃ」


 私とミアとで従業員用温泉で休憩の最中、プロムがミアにこんな提案をした。

 なんでこの幼女が従業員用の温泉にいるのか謎だけど、もう身内みたいなモンだしいいか。


「……で、デリバリーとはなんなのだ?」


「解説。食事、商品等の注文を受け、顧客の邸宅まで配達するサービスを指す」


 首をかしげるミアに、エルコが説明してあげた。

 やっぱりどうしてここにいるのか謎だけど、この子ももう身内みたいなモンか。


「なるほど! ミアがお客のところまで料理を届けるのだな! ……むぅ? だがそうすると――」


「肝心の食堂が回らなくなっちゃうね」


 二人に分身したミアがフル回転で料理して、分身したサクヤたちが配膳することでギリギリ成り立っている現状。

 サクヤに届けさせるにしても、あの子にこれ以上の負担を押しつけたくないし。


「あと、注文をどうやって取るのかも問題じゃない?」


 こういうのって新聞だったりミルクだったりを、毎日決まった時間に届けてもらうのが普通だと思う。

 あらかじめ決められた時間に定期的に届けるから、いちいち店まで注文しに行かなくてもいいわけで。


 わざわざここに来て注文して帰っていくなんて、普通あり得なくないか?

 家にいながらミアに注文届けられる方法があれば、話は別だけど。


「この問題を解決しなきゃ、やる意味ないんじゃないかな」


 新しい事業に手を出して大失敗、なんて結果はできるだけ避けたいよね。


「問題なし。解決法を提示する」


 自信満々、どや顔のエルコ。

 いったいどんな解決方法が……?


「浮遊城搭載の通信機を複製、街の各所に設置。食堂の窓口に連絡を取れるようにする」


「そして完成品は、このワシがワープゲートで一瞬にして届ける。食器の返却、回収は必要じゃが、特に問題はなかろう」


 おぉ、この幼女二人とことんやる気だ。

 自分たちから手伝うと言い出すほどとは。


「……うん、問題ないと思う。けど、二人は本当にそれでいいの?」


「いいの、とは?」


「先史文明の技術を今の時代のために使うってことだよね、それもこっそりじゃなく大っぴらに。特にエルコは、ずっと今の文明に関わらずに生きてきたわけじゃん」


「むぅ、それは確かにのう……。深入りしすぎて良いものか。技術革新、ブレイクスルー。オーバーテクノロジーもいいとこじゃて」


 言われて気づいたみたいなプロムは置いといて、エルコは重々承知の上って感じだ。

 表情を崩さずにうなずいてみせる。


「かまわない。……私は、一万年もの間、文明の発展を見守りながら一人で生きてきた。遥か天空に、自分の存在をひたすらに秘匿しながら」


 うすい表情のまま、声の抑揚よくようもごくわずか。

 けど、うすいだけ。

 たしかにこの子の感情を感じる。


「しかし、それは果たして生きていたと言えるだろうか。ネリィ・ブランケット、私は生きてみたくなった。邪竜のいなくなったこの世界で、生きていきたい」


「……うん、わかった」


 今の決意表明、この子にとってきっとすっごく勇気が必要だったと思う。

 思わず頭をなでなで。


「……不可解。この行為に意味を見出せない」


「嬉しくない?」


「奇妙。落ち着かない……」


 目を細めてもじもじして、かわいいな、コイツ。

 もっとなでなでしたくなるけど、ここまでにしとくか。

 アイナに見られたら怖いし……。


「うむうむ、妹の成長をワシも嬉しく思うぞ」


「否定、妹ではないと何度……」


「先史の遺産を現代のために使うなど、歴史を変えかねぬほどの重大な決断じゃ。何せ前例がない、どう転ぶかわからぬでな」


「ミスティックダンジョン」


「ほ?」


「先史の遺産。プロメテウスの管轄たるオーバーテクノロジー。世界中にて現代文明による利用を確認」


「あ、あれは違うじゃろう!」


「プロム、いったいどう違うのだ? ミアにはまるでわからぬぞ」


「だ、だから、ダンジョンはそういうモノとして捉えられておってじゃな? 誰も先史の遺産などとは考えすらせぬじゃろう……!」


 めっちゃ焦ってるな、この幼女。

 妹いじりでからかおうとしたら、思わぬ反撃を食らってたじたじになってる……。


「そ、そうじゃ! ミアにエルコルディホよ、デリバリーのテストを兼ねて、今日の夕食は浮遊城のテラスにて共にせぬか?」


「名案。が、話のすり替えが強引と言える」


「余計なお世話じゃ! どうじゃミアよ、いつも見慣れた食堂では味気なかろう。絶景とは食事の味を上げるものなのじゃぞ?」


 味に目覚めたばかりの幼女よ、どこでそんな知識を仕入れてきた。

 ……きっとサクヤなんだろうなぁ。

 お姉さまと夜景のキレイなところでお食事を、とか言ってそう。


「むむ、そーいう考え方もあるのかっ! わかった、試してみるのだっ!」


 もちろんミアは快諾。

 そして、


「もちろんネリィも来るのだ?」


 当然、私にも振ってくるよねぇ。


「や、ゴメン。今日はちょっと……」


 ガルダのドラゴンメイドアイドル計画について、サクヤとじっくり話し合う予定なんだよね……。

 提案してみたら、びっくりするくらい食いついてきたし、あの子。


「三人だけでディナー、楽しんできてよ」


「む、仕方ないのう」


「残念なのだ。ネリィの分も楽しんでくるぞ!」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ