66 未曾有の急成長
「神竜が、秩序を守る最強の竜だった……。ねぇガルダ、これどう思う?」
ミアのところに遊びにいったプロムを見送りつつ、当事者の意見を聞いてみる。
「最強、って大そうな感じはしなかったな。ネリィはもちろん今のアタシでもどうやったって負けないレベルだ。ま、なんせ死にかけだったわけだし、仕方ないか」
「老衰で弱ってたのかな。全盛期から見る影もないくらい」
「どうだろうな。秩序を司る最強のドラゴンなんだろ? 寿命なんてモンがあったかどうか怪しいもんだ」
うん、そうだね。
たしかに寿命の線は考えにくいか。
と、なると……。
「何よりも、神竜は破滅の竜の死を願っていた。長い生の最期の最期に、恨み節たっぷりにブチ殺せなんて言い残すくらいには、さ」
「……やっぱり、そういうことだよね」
「神竜の衰弱と死には、破滅の竜が深く関わっている。そう考えるのが自然だ」
ひとまず仮説に結論をつけたところで、ガルダはため息まじりに頭を掻く。
「はぁ、あの老いぼれドラゴン……。全部話してからくたばれってんだよ、ったく……」
「そのご老体、ムダに威厳をひけらかしたり、もったいつけてはぐらかすのがクセだったんじゃない? お偉いさんによくいるタイプ」
「あー、たしかにそんな感じだったけど。……もしかしたら、話してたのかもしれないな」
「どういうこと?」
「神竜の最期、アタシは直接見てないんだ。遺言も村の大人たちから伝え聞いただけ」
「村の人たちが、わざと大事な情報を黙ってたってこと?」
「そういうこと。聞かされた情報のあまりのヤバさに、アタシが破滅の竜にたどり着けないように伏せていたのかも」
たしかにあり得る話だな。
ガルダを死なせたくなくて、わざと伝えなかった可能性は十分あり得る。
「はぁ……。それにしたってなぁ……。長年追ってた手がかりが、まさかスタート地点のスタート前に転がってたとか……」
「ひとまず一歩前進したわけだし、ほら、元気出せ」
ぺしん、と背中を軽くたたく。
本当に軽く。
加減を間違えると山のむこうまで飛んでいったり、はたまたスプラッタなことになりそうだし。
「っとと。ま、ネリィの言う通りか。じゃ、アタシはそろそろ宿に戻って仕事の準備をするとしようかね。サクヤ、いっしょに行くかい?」
「はい、喜んでっ」
「ネリィも、早めに戻って来いよ」
いつの間にかすぐそばにいたサクヤに声をかけると、ガルダは嫁といっしょに宿へと戻っていった。
そしてお姫様も、
「おーっほっほっほっほ!! 大満足でしたわっ!」
スライダーと流れる温泉を満喫したのか、高笑いしながら温泉をあとにする。
ちょっと疲れた様子のアイナもいっしょだ。
……私、手伝ったほうがよかったのかな。
でもあらかじめアイナに――。
『ネリィはダメだよっ! お姫様が絶対えっちな目をむけてくるから、あたしが一人でお世話しますっ!』
とか言われてたからなぁ……。
あ、ちなみにアイナはお姫様の水着姿にえっちな目をむけてました。
〇〇〇
さて、王族までもが訪れるほどの大盛況を見せているアイナの巨大温泉。
グラスポートの街には人がどんどん訪れて、街の広さも人口も加速度的に大きくなっていった。
とうとう『森のみなと亭』だけじゃお客を泊められなくなって、街長の私にこんな相談が。
「この街で宿を開きたいのですが、よろしいでしょうか……?」
緊張した様子のおじさん、どうやら同業者の様子。
開業の依頼をしにきたみたいだけど、
「かまいませんよ」
「えっ……。よろしいのですか?」
あっさり答えたらおどろかれた。
私、別に禁止した覚えなんて無いんだけどな。
大きな街に宿が一軒だけって方が不自然だ。
それに、どれだけ宿ができたとしてもウチの宿が一番に決まってる。
アイナの宿は世界一だもん。
そんな日々が続いてしばらく、街には宿を始めとしたいろんな施設ができた。
敷地は十倍以上に増えた。
人口も軽く四ケタ突入。
雪をどうにかするための道路拡張開拓工事が、まさかこんな結果になるなんて思わなかったな。
こんなことならもっと早くに舗装しとくべきだった。
「……すっかり様変わりしちゃったな」
いつものようにルミさんの牧場へお使いに出かけた私。
ついでに街を見回ってみよう。
街の入り口からこの宿の前、そしてミスティックダンジョンへと続くこの道は、街のメインストリートになっている。
おみやげ屋とか軽食の出店だったりが並んでて、すっごいにぎわいだ。
中心部に行くにつれて、服飾店や食料品店みたいな住民用の店が増えていく。
そして街の中心にあるのが冒険者ギルド・グラスポート支部。
ダンジョンで拾ったアイテムや魔物の素材はここで買い取っているらしい。
街外れまで足を運べば、ようやく自然が増えてくる。
ここにあるのがルミさんの大牧場。
王都周辺では一番デカいんじゃないかな。
こうして見ると本当に大きくなったな、グラスポート。
(さて、牧場はもうすぐ――ん?)
天高く、遠く彼方に膨大な魔力を感じた。
まさかアウロラドレイクの襲来か……?
足を止めて、魔力の感じた方角をじっとにらみつける。
いつでも時間を止められるようにかまえながら。
数瞬後、雲のスキマからそれが姿を現した。
「……なにアレ。お城?」
そう、どっからどう見ても城。
何を言ってるのかよくわからないだろうけど、ありのまま見たことを話すと。
城が空を飛んで、こっちにむかってきていた。
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グラスポートの街
人口
182人→2865人 +2683
施設
宿屋 鍛冶屋 食料品店 牧場
雑貨屋 武具屋 アイテム屋
冒険者ギルド 魔石店 服飾店
飲食店 土産物屋
観光・産業
ミスティックダンジョン
コショウの栽培(大規模)
コショウの輸出
アウロラドレイクの竜肉(期間限定)
宿屋『森のみなと亭』
施設
本館 宿泊可能人数 100組
別館 宿泊可能人数 100組
三号館 宿泊可能人数 100組
食堂 250席 温泉・サウナ
巨大温水プール
平均宿泊客
1日に300組
平均食堂利用者
日に2000人
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