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63 順調そのものです




「うわあぁぁぁぁぁ!!」


「ひ、人食い大樹だ……! 逃げろォォォォ!!」


 数十メートルの巨木の幹のド真ん中に大きな口がついたモンスター、人食い大樹。

 その名の通り、人間を好んで食らう危険な魔物だ。


 街周辺の森を拡張していた作業員たちが、散り散りに逃げはじめる。

 その中の一人に、魔物の根がのびて触手のようにからまり、


「ひぃっ……!」


 足を取って転ばせたその瞬間――。



「このあちきの剣がズバっと根っこを斬り裂いたってわけですよ、ネリィさん!」


「……うん、よく頑張ったね」


 今私は街長として、カリンと名乗るこの冒険者の少女からお仕事の報告を受けている。

 お仕事っていうのは、町周辺の森を切り崩して土地を広げる作業員たちの護衛だ。


 人口増加の一途をたどるグラスポート。

 そろそろ土地が足りなくなりそうなんで、まず森を切り開く作業員たちを雇った。

 で、森の中には魔物がひそんでいる可能性が高いから、彼らを護衛するための冒険者たちも雇った。


 賃金はダンジョンで稼げる期待値よりも高額の報酬を用意した。

 じゃないとわざわざ時間を割いて来てくれないだろうし。

 お給金、大事。

 結果、やる気に満ち溢れた冒険者のパーティーが引き受けてくれたんだけど……。


「そしてすかさず反撃! 仲間の誰も反応できないほどの速度で放った剣閃が、人食い大樹を根本からズバッと――」


 長い。

 ちょっとやる気に満ち溢れすぎてるのかな?

 報告が長い。


「……あのー、カリンさん。もうちょっとだけ続く感じかな?」


「もうだいぶ続くカンジです!」


「あー、と。私ももう少し聞いていたいんだけど、いろいろと忙しくてさ。またあとで聞かせてもらうとして、要点だけ報告してくれる?」


「はいっ! 南部方面、開拓は予定通りです。作業員も全員無事!」


「うん、順調だね。護衛お疲れさま」


 開拓は計画通りに進んでるっぽいね。

 全部私が自分でやれば、いちいち報告も聞かなくてすむんだけど、それじゃあ街のためにならない。


 全部私に頼ればいいやってなって、絶対に歪みが生まれる。

 ネリィ・ブランケットはお金も労力も回してめぐらせて、健全な街作りを心がけております。


「あの、その、じゃあ今度あちきの武勇伝、お食事でもしながら聞いてくれますか?」


「食事? うん、いいよ」


 食事も悪くない。

 けど、私としては温泉の方がいいかなって。

 まぁいいや。


「……あ。あと次回から報告はさっきみたいな感じで手短にお願いできるかな」


「了解しました!」


「よろしい。はい、これ今日のお給金」


「わぁっ! ありがとうございます!!」


 多めに入れた袋を渡すとカリンさんは大喜びで私の部屋を後にする。

 やっぱりやる気を維持するためにはお給金、大事。


「えへへ……、あのネリィさんにほめられた……。えへへ……」


 ……お給金のおかげ、なのか?


「ネリィ、街長のお仕事もう終わった?」


 タイミングをはかったみたいに、中庭にいたアイナがマドを開けて声かけてきた。

 ……本当にタイミングはかってたわけじゃないよね?


「終わったよ。順調そのものみたい」


「よかったぁ。……あの子、ネリィのファンみたいだねぇ」


「そ、そうだね……」


 ちょっと笑顔に陰りが見えるのは気のせいじゃないよね?

 アイナってそんな子じゃないもんね?


「人気者だね、ネリィって。恋人として鼻が高いよぉ」


「そんな大したモンじゃ……。ところでアイナ、中庭でなにを?」


「三号館の建築を監督してたんだぁ」


 なるほど、三号館。

 雪解けとともに建て始めた三号館は、二号館までとまったく同じ作り。

 本館と隣接して、二号館とむかい合うように建てられる予定。

 上から見ると、中庭を中心に凹型になるはずだ。


「建築の方は順調そのもの、もうすぐ内装に取りかかるとこだよぉ」


「相変わらず仕事が早いね、王都の大工さん」


 依頼を出してまだ8日だってのに。

 でっかい木材を肩にかついで、地上から屋根までひとっとびする親方さんをながめつつ、関心しきりだ。

 たぶんヘタな冒険者より強いよね、あの人たち。


「三号館ができたら、いよいよ新温泉に取りかかるよぉ!」


「新温泉! 楽しみだぁ……」


 結局新温泉の詳細は教えてくれないまま。

 とっても気になるけど、完成までの楽しみとしておこう。


「この宿の目玉になる予定なんだよね」


「うんっ! 街にどんどん人が増えてきた今、宿の知名度も上げていかないとねっ」


 むふー、と胸を張って自信満々のアイナ。

 かわいい。


「あ、そうだネリィ。時間できたなら温泉行こうよ。いっしょに休憩しよ? お食事よりお風呂の方が好きだもんねっ」


「……うん」


 聞いてたのか、さっきの。

 まぁともかく断る理由もないし。

 喜んでお受けして、一休みといこうかな。



 こうして街では区画整備と拡張が進んでいき、宿では三号館の建築が終わって、新温泉を作るためにこちらも敷地の拡張が始まった。


 順調に進んでいく街の開発。

 日に日に増えていく人口。

 そしてひと月後、ついに待ちに待った新温泉完成の日がやってきた。




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