61 そっと背中を押してみた
サクヤは自分に自信が持てなくて、だから告白に踏み切れない、と。
あの子が困ってたら力になる、私はそう約束した。
というわけで。
「ガルダ、ちょっといい? まだ起きてるかな」
さっきドラゴンについて話し終わったばっかりのところ悪いけど、寝る前に突撃だ。
「あん? どうした?」
「もう一つ、話しとかなきゃいけないことができたんだ」
「話したいこと? いいよ、入んな」
ドアを開けると、ガルダはベッドから起き上がるところだった。
格好も寝間着だし。
「寝るトコだったみたいだね。ゴメン」
「かまいやしないさ、大事な話なんだろ?」
「うん、大事な話。宿のこれからを左右するかもしんない大事な話」
「そ、そんなか……。コイツは気を引き締めないとな……!」
サッとドアを閉めてテーブルへ。
ガルダも私と同じく席について、真剣な表情でむかい合う。
「あのさ、ガルダはさ……」
「あぁ……」
「サクヤのこと、好き?」
「…………は、はぁっ、ばっ、な、なぁっ!?」
ガタン、と立ち上がって飛びのくガルダ。
ちなみに顔は真っ赤。
「……その反応、やっぱ好きなんだ」
「いや、いやいや、いやいやいや! 大事な話ってソレか!? 今すべきヤツか!?」
「今すべきヤツ。あのさ、好きならガルダの方からサクヤに告白しちゃいなよ。あの子の気持ち知ってるでしょ?」
ってか、いまだにつき合ってないことの方が私は驚きだよ。
せいぜい秒読み段階かと思ったら、なんかトコトンこじれてるし。
「……はぁ、まいったな。まさかネリィからこんなこと言われるとはね。あの子から告白してくるの待ってたんだけどな……」
「待ってても、いつまでたってもしてこないよ。あの子はそういう子なんだから」
「そうなのか……? 普段から積極的すぎるぐらい積極的だと思うんだが……」
「……わかってないんだな、お互いに。サクヤは自分を隠してるだけ。ホントはすっごい臆病なんだよ」
好き合ってるはずなのに、こんな風なすれ違い。
ムリもないか、臆病な自分を隠したオープンラブなサクヤしか知らないんだもんな。
「……そういうわけだから、あとは当人同士で思う存分お話してください」
「えっ――」
「時の凍結」
ピキィィィィィィィ……ン!
時間を凍らせてから席を立つ。
いったん部屋を出て、それから部屋の外で耳をふさいでちぢこまってたサクヤをかついで私が座ってたイスの上へ。
あとはもう一度部屋を出て、トビラを閉めてから。
「解凍、っと」
時間が流れはじめた。
さぁ、あとはお若い二人でやってください。
私はアイナといっしょに寝るとするんで……。
〇〇〇
ネリィさんに、部屋の前で待ってるように言われた。
会話の内容を聞いててもいいって。
でも、お姉さまが私のことをなんとも思ってなかったら。
そんな言葉が聞こえてきたらどうしようって、丸まって耳をふさいでいた。
ふさいでいた、はずなのに。
「お、お姉さま……っ!?」
「あ、サクヤ……! まさかネリィのヤツ……!」
目の前の光景が一瞬で切り替わって、私はお姉さまの正面に。
お姉さまもおどろいていらっしゃるし、これはネリィさん、時間を止めてどっか行きましたね……?
「あー、こほん。いたのか、サクヤ」
「はい、いました……」
「聞いて、たのか?」
「聞いてませんです……。怖くて、聞けなかった、んです……」
お姉さまの目を見られずに、うつむいたまま答えを返す。
ネリィさんとの会話の中で、お姉さまが私をどう思っているのか知るのが怖かった。
今だって同じ。
これまでずっと隠してきた臆病な自分を知られてしまって、嫌われたらどうしようって考えが頭をよぎって、体が震える。
ごめんなさい、ネリィさん。
私やっぱり勇気が持てません……。
「……ネリィの言ってたこと、本当みたいだね」
お姉さまが立ち上がる音がした。
うつむいて動けないまま、近づいてくる気配だけを感じる。
「正直、意外だったよ。いつもの感じが素のサクヤだと思ってた」
「……失望、しましたか?」
「まさか」
私のあごに手がのばされた。
『えっ……?』と思ったのもつかの間、クイっと顔を上げさせられて。
「んむっ!?」
唇を、奪われる。
なんで、どうして?
いきなりのことでなんにも考えられない。
真っ白な頭のまま、ただお姉さまの行為を受け入れる。
「……失望なんてしないさ。むしろ、かわいいって思ったかな」
「え? えっ? あっ、その……っ」
「サクヤが猛烈に好意を押してくるからさ、アタシもソレに甘えちゃってたんだね。だからちゃんと伝えるよ」
なにこれ、本当に現実?
夢じゃないの……?
ドキドキと高鳴る心臓。
張り裂けそうな鼓動の中、お姉さまは私がずっと待ち望んでいた言葉を口にする。
「好きだ、サクヤ。アタシだけのモノにしたい。いいか……?」
「は、はい……っ。はいっ!」
夢のような瞬間だった。
返事を受け取ると、お姉さまはもう一度、今度は乱暴に私の唇を奪う。
そのまま少し乱暴にベッドに座らされて、
「……今日、いっしょに寝ないか?」
「喜んで……」
断る理由なんてありません、お姉さま。
――その日の夜は、生まれてから一番幸せな夜でした。




