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60 自信がないんです




 結局プロムはあれから食堂が閉まるまで宿にいて、今はミアと新作スイーツの試食会をしてる。

 で、私はというと、本日仕入れた竜に関する新情報をガルダに話し終えたところだ。


「……人工生命体、ね」


「神が作った唯一の生物、ってのも、あながち間違いじゃなかったっぽいね」


「作ったのはカミじゃなくて人間だけどな。――しかしなるほど、納得だ。生物の域を超えた異常な力と長寿、あげくしゃべれるヤツまでいるんだ。コレが自然に湧いてきたんじゃビックリさね」


 うんうん、と何度もうなずくガルダ。

 そりゃその通り、バケモノみたいな力を持って言葉までしゃべれるだなんて、そんな存在が自然に湧くわけない。


「……ってことは、だ」


 とつぜん、ガルダの表情が真剣なものに変わる。


「例の破滅をもたらす竜。アレも人間に作られた存在、ってことになるのか……?」


「……そう、だと思う。同族がいて繁殖できる竜もいるけど、あんな力を持ったヤツがたくさんいるとは思えない。っていうか思いたくない」


「だとしたら、古代人はいったいなんのために……」


 そればかりは答えの出ない質問だろうね。

 肝心のプロムも、例の竜のことは知らないみたいだし。


「……ま、いいか。ありがとよ。まぎれもなくこの情報、『破滅の竜』への重要な一歩だ」



 話を終えてガルダの部屋から出る。

 さぁて、今日はちょっぴり勇気を出してアイナといっしょに寝ようか――。


「……ネリィさん、ちょっといいですか?」


「……っ! ……暗がりから声をかけるのやめてよ、サクヤ」


 昼間と同じように、思わず変な声を出しそうになるのをグッとこらえた。

 えらいぞ私。


「ごめんなさい……。あの、ちょっといっしょに温泉どうですか……?」


 めずらしくしおらしい態度のサクヤ。

 私を誘うだなんて何か裏があるのか、とか、出会ったばかりの頃だったら疑ってたと思う。


「まぁ、いいけど」


 今となっては、私に好感持ってくれてるのがわかってるからね。

 断る理由は特に無い。

 なにか相談あるっぽい雰囲気だし。



 というわけで、本日の就寝前の入浴はサクヤといっしょ。

 力を抜いて泡風呂の上昇水流にぶくぶく揺られるの、すっごくいい気持ち……。


「ふへぇ……、サクヤもおいでよ、気持ちいいよぉ」


「気分じゃないのでやめておきます」


「……なんか、悩み事でもある?」


 普通の温泉につかりつつ、深刻そうな顔をしたサクヤ。

 泡風呂から出て、そのとなりに腰を下ろしながら問いかけてみると、サクヤは苦笑いしつつ頬をかく。


「あはは、顔に出ちゃってましたか。シノビ失格ですね……」


 隠せてたつもりだったのか、こりゃ相当重症だな。


「お察しの通り、相談があって呼びました。こんなことネリィさんにしか話せないと思って」


「相談……。ガルダのこと?」


「ど、どうしてわかるんですか!?」


 いや、そりゃわかるって。

 サクヤの悩み事なんてそんくらいしか思いつかないもん。


「……そのですね。私、一応がんばってはいるんです、自分なりに。食事中お姉さまにあーん、ってしてみたり、いっしょに寝ようって誘ってみたり、お弁当にハートのチキンサンドを入れてみたり……」


「涙ぐましい努力だね」


 おかげで……っていうか、アウロラドレイクの時とダンジョン行方不明事件が主なキッカケか。

 明らかにガルダの態度が変わってきてる。


「でも……、でもお姉さま、ちっとも私を恋人にしてくれません……。きっと私のことなんかなんとも思ってないんです……」


「えっ!?」


 なんとも思ってない?

 あれで!?


「いやいやいや、一回真剣に告白してみなって。あっという間にオッケーもらってハッピーエンドだから」


「ダメです! もしもフラれたら、断られたらって思うと、怖くてできないんです……!」


 こりゃ意外。

 普段からグイグイいくから、もっと大胆だと思ってたのに。

 冗談めかしたラブコールはできても、真剣な告白は怖いってことか……。


「私、自分に自信がないんです……。自分なんかがお姉さまの一番になれるわけないって、心のどこかで思ってる……」


「大丈夫、当たっても砕けたりしないから」


「そんな保証ないじゃないですか! お姉さま、とっても素敵な人ですから、きっと私よりもっと他の人を好きになって……」


 ……あー、なるほど。

 初対面でいきなり殺そうとしてきたのも、自信のなさの裏返しだったんだ。

 ガルダが私のことを好きになると思って思いつめちゃったのか。


「……私、シノビの里で落ちこぼれだったんです」


「え、そうなの……?」


 ミアに迫るか、それ以上くらいには強いのに。

 私に気配を悟らせないくらいだし。


「術の覚えが悪くって、いっつも怒られたりバカにされてばっかりでした。分身の術だって、三人がやっとだったんです。だからその分、気配消しとか体術をがんばったんですけど……。里を出たのも、武者修行の旅に出るって口実で半ば逃げるように出てきたんですよ?」


 この子にそんな過去があったんだ……。

 サクヤはため息をつくと、視線を温泉の水面から空の月へと移した。


「そんな時、あの人に出会った。腕試しの闘技大会で私を倒したお姉さま。私に手を差し伸べて、『強かった』って言ってくださった。初めて私を肯定してくれた人だったんです」


「……うん、そりゃ好きになっちゃうよね」


「はい、好きになっちゃいました。私、この人の力になりたいって思って。だから三年間、死に物狂いで修行したんです。苦手だった術も、たくさん出来るようになりました。臆病な自分を隠すために、明るく積極的にふるまったりもして……。でも……。やっぱり、勇気が出ません。私の人生を変えてくれたあの人に拒絶されたら、もう生きていけない……」


 そこで言葉を切って、ため息を一つ。

 それから私の方を見て、寂しそうに笑う。


「話を聞いてくれてありがとうございます。ちょっと、気持ちが楽になりました」




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