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21 特大ニュースを届け出に




 ミスティックダンジョンの出現は、国家規模の特大ニュースだ。

 そりゃもう、直接国王のお耳に入れなきゃいけないレベルの。

 本来なら、グラスポートの村長さんがお城まで届けを出しに行かなくちゃいけないんだけど……。


「わ、わ、わしゃぁムリだべ……。こ、こ、この通り、足腰も弱っちまってよぉ……」


 村長さんはかなりお歳を召していて、とても山道歩いて王都まで行けそうにない。

 と、いうわけで。


「私が行くんだ……」


「ごめんねぇ、ネリィ……。宿を閉めるわけにいかなくってぇ……」


「ミアも動けぬ! 腹を空かせたものたちに料理を振る舞わねばならぬのだ!」


「アタシもさ、ミスティックダンジョンまでお客を案内する役目が……」


 闘技場のお客だった常連さんの一部には、すでにダンジョンの存在が知られている。

 見物人や、ちょっとだけ挑戦してみたいって人も出始めてるんだ。

 ガルデラさんには来てほしかったけど、まだダンジョンへの道ができてない現状、案内役が必要なのはよくわかるよ。


 ……ただ、ホントこの宿における私の役職ってなんなんだろ。

 便利屋?


「まあ、いいけどさ。温泉から離れるの嫌なんだよね……」


「寒くなっちゃうもんねぇ。どのくらい入らないと危ないの?」


「だいたい半日くらい、かな。すぐに用事を済ませて帰れば問題ないと思うけど……」


「今やネリィは有名人だからねー。王侯貴族にだって顔が知れてるかもわからない。そういう人に捕まったら、ただじゃ返してくれないよ?」


「なにそれ。ガルデラさんの体験談?」


「体験談」


「うぇ~」


 だとしたらますます憂鬱だ。

 貴族屋敷に連れていかれて話をさせられるとか、寒さの次に嫌。


「堅苦しいの苦手だぁ……」


「そうなのぉ?」


「屋敷にいたころは、そりゃもう窮屈で肩がこってさ。それにどうも、貴族自体が苦手なんだよね。傲慢ごうまんで偉そうで、できれば関わり合いたくない」


 私にとっての貴族のイメージが主にロシュトなのも、大いに関係してるだろうけど。


「そ、そうなんだぁ……。貴族、きらい、なんだねぇ……」


 なんでアイナがへこむんだ?

 ……ま、いっか。


「それじゃ、そろそろ行くとしますか」


「王都で珍しい食材を見つけたら買ってくるのだ!」


「嫌だよ自分で行け。んじゃ、いってきまーす」



 〇〇〇



 王都ボクスルートの王城、近くで見るとほんとでっかいな……。

 とりあえず城の兵士に話を通して、役人のとこまで案内してもらう。


 普通の貴族領なら、領都に役場があってそこでいろいろ手続きができた。

 でも、グラスポートは王の直轄ちょっかつ領。

 貴族じゃなくて王族が直接治めてる場所だから、ちょっとめんどくさいんだ。


 受け付けを行う部屋まで通されて、すぐに中年の役人がやってきた。

 やけに腰が低そうなおじさんだ。

 きっとお城で働いてるだけの一般人だね。

 これなら話しやすい。


「いや、待たせたね。それでキミはどこの誰? 用件はなんなのかな?」


「えっと、村長の代理でグラスポートの村から来ました。用件はここに書いてあります」


 こっちも事務的に、手紙をスッと差し出す。


「そうかいあの村から。山道をはるばるご苦労さま。悪いけど、ここで中身をあらためさせてもらうとするね」


 温厚そうな笑みを浮かべながら、手紙に目を通すおじさん。

 でも、その顔がみるみる青ざめて、はたまた真っ赤になって。


「ミ、ミスティックダンジョン……?」


 そして、信じられないって様子でつぶやいた。


「キ、キミ……。これは本当なのかい……? いたずらじゃないよね……?」


「間違いないです。村長の署名も書いてあるはずですし」


「こ、これは……、大変だぁ……! わ、私程度にどうにかなる問題じゃないぞぉ……!」


「……あの、渡すもの渡しましたし、私は帰っていいですか?」


「あ、あぁ、すまないね。もう帰っていいよ。さ、さてどうしようか……。まずは上司に報告して……、正式に調査団も派遣することに……」


 冷や汗をハンカチでぬぐいながら、ドタバタし始めたおじさん。

 もう帰ってもいいとのことなので、私は遠慮なく帰ることとします。


 部屋を出て、城の外を目指して足早に歩きだす。

 冷え性が発動するまで帰れないんじゃないか、とか嫌な予感がしてたけど、何事もなく終わりそうでよかった。

 さぁ、早く帰ってあったかい温泉に――。


「もし、そこのお方。『氷結の舞姫』ネリィ・ブランケットではなくて?」


 温泉に、つかりたかったのに……。


「……はい、その通りです」


 私を呼び止めたのは、とってもキレイなドレスと宝石を身に着けた金髪のお嬢さん。

 どう見てもどっかのお偉いさんだぁ……。



 お嬢さんに連れられて、やってきたのはキレイな中庭。

 芝生の上のテーブルに用意された、バラの刻印が入ったティーセットでもてなされつつ、質問攻めにあっている最中だ。


「素晴らしいですわ! 氷山を出すだなんて、そんなことまでできるんですのね!」


「えぇ、まぁ……」


 このお嬢さん、武術や魔術に興味アリアリのご様子。

 ロシュトのところにいた時を思い出しながら、久々の敬語で応対していると……。


「……あなた、居心地悪そうですのね」


 ズバリ、言われてしまった。


「……堅苦しいのとか敬語とか、あまり得意じゃないので」


「そうなの? 本当に本音? 怒らないから正直に言ってみなさい」


 ホントに怒られないかな……。

 まぁ、この子なんとなくピュアっぽいから、大丈夫かな。


「なんと言いますか、貴族って苦手、なんですよね……、いい思い出がなくって。だから今、無縁の生活ができて楽しく暮らせてます」


「あら、そうだったの。でもあなた、グラスポートにいるのよね? なのに貴族と無縁?」


「え? はい、そうですけど……」


 なんでここでグラスポートの名前が?


「おかしいですわね。王都が移転するまでこの地方を治めていた貴族、爵位を返上したあと、あそこで暮らしてるって聞きましたわよ?」




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― 新着の感想 ―
[良い点] あまりにもドストレートな伏線!! でも、愛の前には障害や波乱の1つや2つ、あって然るべきですからね! [気になる点] >「おかしいですわね。王都が移転するまでこの地方を治めていた貴族、爵位…
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