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第百四十五話 「やるべきこと」

 無理だった……。

 その言葉だけが、呆然とした僕の頭の中に反響していた。

 解呪師でも、コルネットの呪いは治せない?

 解呪師の力だけが頼りだったのに、本人からそれはできないと否定されてしまった。

 もし治そうと思っても、半分の呪いも消し去れずにハープが死ぬ……。

 絶望と緊張により手の指先が冷たくなっていくのを感じながら、僕は震えた声で尋ねた。


「の、呪いが大きすぎて食べきれないって、そんなことがあるの……?」


 解呪師ならどんな呪いでも解呪ができると思っていた。

 先ほど消化しきれない呪いは体に残留してしまうという話は聞いたが、それでも大半の呪いは治せるものだと。

 しかし現実はそうではないらしい。


「呪いだったら、なんでも治せるわけじゃない。大きすぎたら私でも治せないよ。食べ物でも、大きすぎたら口に入らないでしょ」


「す、少しずつ呪いを食べることはできないの? 解呪を何回かに分けて行って、徐々に消化していけば、ハープの体にも影響が出ないと思うけど」


「それも無理。呪いは一口で食べないと、被害者の体の中で暴走しちゃうから」


 ……暴走?

 その言葉の意味がわからず眉をひそめると、ハープは眠っているコルネットの方を見ながら続けた。


「呪いは生きてるの。生きてる動物がかじられたら、みんな怒るでしょ? それで呪いが暴走したら、この子の体が大変なことになる」


「つまり、中途半端に呪いを刺激すると、かえって呪いの力が強まる可能性があるってこと?」


 こくりとハープは頷いた。

 だから呪いを少しずつ取り除くこともできないってことか。

 今の衰弱しきったコルネットが呪いの暴走なんか受けたら、体が持つはずがない。

 誰よりも呪いを見てきた解呪師のハープが言っているのだから、まず間違いなくこの呪いを解呪することは不可能なのだろう。

 まさかコルネットの体にかけられた呪いが、解呪師の頭まで抱えさせるほど強大なものだったなんて。

 じゃあ……


「……僕は今まで、なんのために頑張ってきたんだ」


 残酷な現実を前にして、頭の中が真っ白になり、深く俯いて黙り込んでしまう。

 絶望する僕を後ろで見ているヴィオラとミュゼットも、言葉を失くして立ち尽くしていた。

 重苦しい沈黙が部屋を包む中、静かな水面に一滴の雫を落とすかのように、ハープが小さな声で静けさを破った。


「でも、ひとつだけ方法あるよ」


「えっ? 方法? コルネットの呪いを治せる方法が、他にあるの?」


「うん。あるってだけで、できるかはわからないけど」


 それでも、あることにはあるようだ。

 この状態のコルネットを治せる手段が。


「ど、どうすればいい? どうすればコルネットを助けてあげられるんだ……! 僕にできることならなんでもやるよ」


 解呪師ハープから垂らされた蜘蛛の糸を鷲掴みにするように、僕は声を震わせて彼女に問いかける。

 するとハープは変わらずふわふわとした喋り方で、驚くほど真っ直ぐな答えを返してきた。


「呪いが強いんだったら、呪いを弱めればいいんだよ」


「弱める? そんなことができるの?」


「呪いは生きてるって、言ったでしょ。だから呪いが、元気を失くすようなことをすれば、弱らせることができて解呪もできる」


「……ぐ、具体的にどんなことをすればいいの?」


 元気を失くすようなこと、というふわっとした説明に理解が及ばない。

 忍びない気持ちで疑問を投げかけると、ハープは目を伏せながら……いや、一階の方を見ながら答えてくれた。


「呪いをかけてきた魔人を、倒せばいい」


「えっ……」


「呪いにとって、源の魔人は“親”みたいなものだから。親を倒せば、呪いの力を弱らせることができる」


「……」


 意外な解決策を提示され、僕はたまらず唖然としてしまった。

 後ろからもヴィオラとミュゼットが息を呑む気配が伝わってくる。

 呪いをかけてきた魔人を倒せば、呪いを弱らせることができる。

 そんなことが可能だったなんてまったく知らなかった。

 数多くの呪いを見てきた解呪師だからこそ知っていることだろう。

 魔人を倒して呪いを弱めれば、解呪できる可能性はまだある。


「呪いをかけてきた魔人ということは、六年前にこの村を襲った魔人のことですよね?」


「今さらその魔人を探して見つけ出すことができますの? そもそも倒せるかどうかも定かではありませんわ」


「……だから、できるかはわからないって言ったのか」


「うん。これだけ強い呪いなら、親元の魔人もきっと強い。それに、今日まで倒されてないってことは、隠れるのも得意だと思うから」


 魔人は神出鬼没で、全国で見たら数が多い。

 魔物と違って生息域を定めるわけでもないので、特定の魔人の居場所を的確に突き止めるというのは不可能に近いのだ。

 それにクラシカルの村を襲った魔人は、近くを通り過ぎただけで村を半壊させるほどの力を持っていた。

 返り討ちにあう可能性も非常に高い。

 ただ……


「……居場所については、ある程度絞ることはできると思うよ」


「どうやって?」


 ハープを見つけた時と同じだ。

 僕は頭の中でヘルプさんに問いかける。

 かつてクラシカルの村を襲った魔人の居場所を。

 コルネットの体を呪いで蝕み、今なお苦しめ続けている魔人の在り処を。

 祈るような気持ちでヘルプさんからの返答を待つと、程なくして頭の中に声が響いた。

 そして僕は、思わず息を呑むことになる。


『目撃情報から、特徴と近しい魔人は現在“ドーム大陸”にいると予想されます』


(えっ? ドーム大陸って、さっきまで僕たちがいた……)


『また、くだんの魔人は『魔人集団カルテット』に所属している可能性が非常に高く……“魔人集団の掃討作戦”の対象となっています』


「……」


 ……魔人集団の掃討作戦。

 このクラシカルの村に帰省する直前、現代最強の冒険者と謳われているフルート・フェルマータさんが声をかけてきた。

 その時にした会話が、自ずと脳裏に蘇ってくる。


『近々行われる予定の、“魔人集団の掃討作戦”に君たちにも参加してもらいたくてね』


 これからやるべきことが、はっきり見えた気がした。

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