第百四十話 「解呪師」
妹の痛ましい姿に胸を締めつけられるような気持ちになっていると、コルネットは次いでヴィオラとミュゼットの方に目を向けた。
どうやら下から聞こえていた会話の内容で、ふたりが僕の仲間だということをすでにわかっているらしい。
「おふたりが、兄と一緒に旅をしてる、お仲間さんですよね?」
「は、はい」
「えぇ、そうですわ」
コルネットはベッドに入ったまま微笑むと、少し申し訳なさそうに言った。
「初めまして、妹のコルネットです。兄がいつもお世話になってます。それと、こんな格好でごめんなさい」
「いえいえ、楽な姿勢で大丈夫ですよ。私はヴィオラです。ヴィオラ・フェローチェ」
「わたくしはミュゼット・ブリランテですわ。こちらこそ大勢で押しかけて申し訳ございませんわ」
そんな三人のやり取りを、僕はやはり新鮮な気持ちで眺める。
するとコルネットが不意にこちらを見て、心なしか悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「お兄ちゃんも、隅に置けないなぁ。こんな可愛い人たちと、いつも旅してるなんて」
「母さんと同じようなこと言わないでよ」
またぞろふたりが気まずい思いをすることになるかもしれないだろ。
コルネットも母さんに劣らずあけすけな人間なので、思ったことをすぐに口に出してしまう。
次いでコルネットは毛布から骨張った手をおもむろに出し、ちょいちょいと手招きするように動かした。
なんだろうと思いながら近づくと、耳を貸してほしいと言われているみたいだったので、僕はコルネットの顔に耳を寄せる。
次の瞬間、僕の心はかき乱されることになった。
「で、将来の私のお姉さん候補は、どっちなの?」
「――っ⁉」
思わず息を呑んで、咄嗟に身を引いてしまう。
気管に変な形で空気が入って軽く咳き込んでいると、その様子をコルネットは楽しげに見つめていた。
この悪戯好きのおてんばな妹ときたら……
「はぁ……冗談言う元気があるなら、変に心配する必要はなさそうだね」
「えぇ~、冗談じゃないんだけどなぁ」
コルネットのニマニマとした笑みが目に映る。
体調が悪いことを忘れさせるくらい余裕のある顔をしている。
ホント、昔から僕を揶揄う時はいつも以上に生き生きするんだから。
そんなやり取りを後ろで不思議そうに見ていたヴィオラが、首を傾げて尋ねてきた。
「なんて言われたんですか、モニカさん?」
「な、なんでもない……!」
話題が話題なだけに、波が立ちそうだったので隠すことにした。
というか今はそれどころではない。
僕は咳払いをひとつ挟んで空気を整えると、改まった様子でコルネットに告げる。
「それよりも、コルネットに伝えたいことがあるんだよ。コルネットの呪いについて」
「下で、お母さんと話してるの、聞こえてたよ。呪いを治すお金、貯めてくれたんでしょ?」
なんだ、もう知っているんだ。
それなら話は早いけど、もう少し驚くようなリアクションも見てみたかったな。
ただそれ以上に良い笑顔を見ることができた。
「ありがとう、お兄ちゃん。元気になったら、いつか全部返すから」
「家族なんだから、貸し借りとかそんな風に考えなくていいんだよ。何より僕がやりたくてやったことなんだから」
元気になった姿で、昔みたいに外を駆け回っている様子を見せてくれたらそれで充分だ。
そのために僕は気持ちを引き締め直して続けた。
「で、さっそくだけど、コルネットにかけられた呪いを解くために『解呪師』を呼ぼうと思うんだ。事前にコルネットにはこのことを伝えておいた方がいいと思ってさ。すぐ来てもらえるように頼むけど、それで大丈夫だよね?」
「うん、最後までありがとね、お兄ちゃん」
コルネットはそう言うと、長く話していたせいか疲れたように息を切らし始めた。
これ以上の負担をかけさせるわけにはいかないので、ヴィオラたちと一緒に部屋を出ることにする。
そして一階に戻るために階段を下りていると、不意にヴィオラが尋ねてきた。
「それで、その解呪師さんはどのようにしてお呼びするんですか? 魔物や魔人にかけられた呪いを解いてくれる人、というのは聞いたことあるんですけど」
「わたくしも噂程度にしか聞いたことがありませんわ」
「前に調べた限りだと、解呪師と出会うためには複雑な工程を踏まなきゃいけないみたいなんだ。治してもらいたい呪いの詳細を手紙に書いて、その手紙をある町の空き家に出した後、一週間後にその空き家に行くと解呪師と出会える可能性があるとか……」
ただ、呪いの内容いかんでは会えなかったり、時期が悪かったりすると来てくれなかったりもするらしい。
だから解呪師と会えるかどうかは、“運次第”ということになっている。
しかも手紙を出してから一週間は経たないと解呪師はやって来てくれない。
「一週間後ですか……。充分な金額が懐にあるのに、すぐに呪いを解いてあげられないのはなんだか歯がゆいですね」
「それに出会える可能性がある、というだけで、確実性が乏しいのも嫌なところですわね。下手をすれば一週間どころか、一か月や二か月も掛かってしまうかもしれないということですわよね?」
「そうだね。一度目の手紙で来てくれなかったら二度目、それでも来てくれなかったら三度目ってひたすら手紙を書くしかないからね」
どうしたって解呪師が来るまでは時間が掛かってしまうのだ。
ヴィオラの言う通り、解呪費が貯まっているのにすぐに治してあげられないのは本当に歯がゆい。
だから……
「だから僕は、ちょっと違う方法で呼んでみようかなって思ってるんだ」
「違う方法、ですか?」
「いったいどんな方法で解呪師を呼ぶというんですの?」
前々から思いついていた僕にしかできないやり方を、ヴィオラとミュゼットに明かした。
「ヘルプさんに居所を突き止めてもらって、【ファストトラベル】で僕の方から迎えに行くんだ。これなら確実に解呪師に会うことができる」




