表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/146

第百十三話 「来訪者」

 目を開けると、木造りの知らない天井が視界に飛び込んでくる。

 次に薬品のような香りが鼻腔をくすぐり、ぼんやりとしていた意識を僅かに鮮明にしてくれた。

 仰向けになって寝ていた体をおもむろに起こしながら、オルガン・レントは掠れた声で自問する。


「こ、こは……?」


 見覚えのない天井。記憶にない香り。なぜ自分はこんな場所で寝ていたのだろうか。

 刹那、オルガンの脳内にブロンドのツインテールを靡かせる少女の姿が瞬く。


『オルガン、やはりあなたは強い人ですわ』


「――っ!」


 気を失う寸前に聞いた、ミュゼット・ブリランテから送られた最後の言葉。

 唐突にそれを思い出し、当時の記憶が怒りと共に沸々と蘇ってくる。

 そして半ばまで回復していた意識を完全に取り戻し、オルガンはミュゼットへの憤りを声に乗せてこぼした。


「あい、つ……! ミュゼットだけは、何が何でも潰す……!」


 その声が聞こえたからだろうか。

 同じ部屋で窓の外を見ていた赤髪の少女ふたりが、ハッとオルガンの方を振り向いた。


「「オルガン!」」


 同じチームに所属するオルガンの仲間のハーディとガーディ。

 彼女たちはすかさずオルガンのベッドに駆け寄り、前のめりになって問いかける。


「大丈夫オルガン⁉ 気分わるくない⁉」


「まだ頭とか痛んだりしない⁉ 起きても平気なの⁉」


「いっぺんに話しかけんな。もうなんともねえよ」


 正直まだ少しこめかみの部分に痛みが残っているが、さしたる問題ではない。

 今は痛みよりも怒りの方が大きく、オルガンとしてはどうでもいいことだった。

 とにかくすぐに確認しなくてはならないことがある。


「ここはどこだ? 町の治療院か?」


「ううん、闘技場の中にある治療室だよ」


「一次本戦が終わってもオルガンが目を覚まさなかったから、ここに運んでもらったの」


 ハーディとガーディに状況を説明してもらい、混乱していた頭が少しずつ落ち着きを取り戻していく。

 だが、『一次本戦』という言葉をのみ込んだ瞬間、オルガンはハッと目を見開いた。


「そ、その一次本戦はどうなった⁉ 俺らのチームは負けたのか⁉」


 今度はオルガンが前のめりになってふたりに問いかける。

 するとハーディとガーディは、頷きを交わし合って彼に返した。


「安心して。ウチらで城をひとつ崩して、核もばっちり守ったから」


「ちゃんと最終本戦には出られるよ」


「そう、か……」


 その安心感から、オルガンの中の憤りが僅かに薄まっていく。

 自分が気を失った段階で最終本戦への出場は絶望的かと思ったが、ハーディとガーディの尽力で首の皮一枚が繋がったようだ。

 一次本戦なんかで落ちていたらこの憤りはますます激しいものになっていたことだろう。

 あの憎きミュゼットに仕返しをするということもできなくなり、やり場のない怒りで自分を壊していたかもしれない。

 まだあのミュゼットを闘技祭の場で潰せるチャンスが残されていることがわかって、改めて安堵していると、ハーディとガーディが不安げな表情で問いかけてくる。


「ねえねえオルガン、なんで気を失ったまま城の前にいたの?」


「ミュゼットたちの城を攻めに行ったんじゃなかったの?」


「そのことだったら後で話す。今はとにかく飯と水だ」


 いまだにミュゼットに負けたという事実のせいで、頭が割れそうなほどの怒りに襲われている。

 そんな状況で敗戦の内容を伝えるのは情緒が狂いそうだと思ったので、一度自分を落ち着かせるために食事を挟もうと考えた。

 ハーディとガーディもオルガンのそんな気持ちがわかったので、それ以上の言及はせずに頷きを返す。

 そしてすかさずガーディが、食料と水を探しに部屋を飛び出していった。

 その後ろ姿を見届けた後、オルガンは一次本戦での戦いを思い出しながらミュゼットに対抗する手段を考える。


(あの恩恵はいったいなんだったんだ? どうやってあそこまで頑強値を引き伸ばした? 必ず何かタネがあるはずだ。そこさえわかりゃミュゼットの奴も確実に潰せる……!)


 寝起きではっきりとしない頭に鞭を打ちながら、ミュゼットを倒す方法を模索していく。

 その時、食料を探しに行ったはずのガーディが、早々に部屋に戻ってきた。


「ね、ねえオルガン、すぐそこにお客さんがいたんだけど……」


「客?」


 どうやら食料を探しに行ってすぐに、部屋の前にいたお客さんと鉢合わせたらしい。

 その人がいま扉の前にいるとのことで、オルガンが首を振って『入れろ』とガーディに促す。

 そしてガーディが扉を開けて客人を招き入れると、装飾品で全身をごてごてに着飾った、紫色の長髪の男が入ってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ