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第百十一話 「気まずい提案」

 オルガンは僕たちに対して強い憤りを抱えているはず。

 そしてあの執念深い性格を鑑みると、奴が試合開始直後に真っ先にこちらに攻撃を仕掛けに来るのは自明の理だ。

 僕とミュゼットはオルガンとの因縁があるためすぐにその結論に行きつけたが、ヴィオラは例外なので僕たちの説明を聞いてようやく理解に至る。


「そ、そういえばあの派手目な方、まだ最終本戦に残っているんでしたね。一次本戦でミュゼットさんが打ち負かしたことも根に持っているでしょうし、絶対にこちらのチームに攻撃を仕掛けてくるじゃないですか……!」


「おまけにオルガンの仲間のハーディとガーディもわたくしたちをすごい形相で睨んでいましたから、チーム一丸となって落としに来るはずですわ」


 それこそが僕たちにとって最悪の状況というわけである。

 漁夫の利を狙うのが望ましい最終本戦で、僕たちは真っ先に攻撃を仕掛けられてしまう可能性が高いのだ。

 オルガンたちは勝ちよりも僕たちへの私恨を優先するはずなので、その展開はおそらく避けられない。

 そして僕たちが争っているところに他のチームが横槍を入れてきてオルガンたちと共倒れをしてしまう……という流れが容易に想像できてしまうのだ。

 改めてそのことがわかったヴィオラは、不意に横目にミュゼットを見てハッと黒目を見開いた。


「で、でも! ミュゼットさんの加護があれば、とりあえず負けてしまうことはないんじゃないですか? あの派手目な方の攻撃もまったく効かなかったんですよね?」


「それはそうですが、勝負に負けることはなくとも、試合に負けてしまう可能性は大いにありますわ」


「ど、どういうことですか?」


 僕はミュゼットの言わんとしていることを察する。

 ヴィオラが首を傾げる姿を見て、僕は代わりに言葉を紡いだ。


「ミュゼットの加護は、あくまで痛みや怪我から肉体を守るためのものだ。傷付けられることはなくなるとしても、体が遠くへ吹っ飛ばされる可能性はある。もし場外に大きく飛ばされて地面についたら……」


「あっ、場外判定で負けですね」


「実際にわたくしもオルガンの蹴りは痛くも痒くもありませんでしたが、踏ん張りは利かなかったのであちこち吹き飛ばされてしまいましたわ。たとえわたくしの加護で肉体を守っていても、場外負けまでは防げませんの」


 それでも頼もしいことに変わりはないからありがたい限りだけど。

 聞けば城の核は部屋に固定されていたため、オルガンに蹴られたところで問題はなかったらしい。

 だがミュゼットはあちこち吹き飛ばされて、目が回ってしまったと愚痴をこぼしていた。

 とにかくミュゼットの加護があるからといって絶対無敵ではないということだ。


「もしかしてそれで、最終本戦では“立ち回り方”が大切ということですか?」


「そっ。僕たちのチームは真っ先にオルガンたちと交戦することになって、周りから漁夫の利を狙われる可能性がある。ミュゼットの加護も無敵の盾じゃないから、立ち回り方を相談しようって思ってたんだよ」


 今一度そう話を戻すと、ミュゼットがこめかみに指を当てながら疑問を投げかけてきた。


「それで具体的にどうするというんですの? オルガンのチームから襲撃される未来は回避のしようがありませんし、立ち回り方でどうこうなる問題でもない気がするのですが……?」


「うん、奴らから狙われるのはもうしょうがない。だから提案なんだけど、今回の最終本戦では僕ら三人、“バラけて”動くことにするってどう?」


「バラけて?」


 これまたピンと来ていない様子のミュゼット。

 バラけて動くことにどんな意味があるのかと言いたげだ。

 同様にヴィオラも眉を寄せていたので、そんな彼女たちに僕の思惑を話した。


「集団戦だから固まって動くのが最良だって決めつけてたけど、今回に限ってはバラバラに動いた方がいいと思う。そうすればオルガンたちの目をかく乱することもできるし、三人まとめて漁夫の利でやられる危険性もなくなるから」


「お互いに助け合うことができなくなるのは痛手ですが、まとめて場外に落とされる可能性を排除するのはよろしいかもしれませんね。ひとりになったところを狙われるかもしれないというリスクは伴いますが」


「それに僕の場合、たぶんひとりの方が動きやすいからさ。あっ、ふたりが足手まといって言ってるわけじゃなくてね……」


「そんなこと言われなくともわかっておりますわ。あなたほどの俊足であれば、おひとりの方が何かと都合がよろしいと言うのでしょう?」


「あぁ……それだけじゃなくてね……」


 どこから説明したものかと言い淀んでいると、そんな僕を見たヴィオラがハッとした顔で反応を示した。


「あっ、そうじゃないですか! モニカさんには【エアグライダー】があるじゃないですか!」


「エア、グライダー? とはなんのことですの?」


「モニカさんのメニュー画面に備わっている、“空を飛べる機能”のことです。三十分の間、自由に空を飛べる便利な機能なんですよ」


 僕の代わりに【エアグライダー】について説明してくれて、ヴィオラは満足げに微笑んでいる。

 するとそれを聞いたミュゼットは、耳を疑うように唖然とした顔で僕のことを見た。


「……こ、これだけ多彩な能力を持っているというのに、あなた空を飛ぶこともできましたの? 大道芸の道に進んだ方がよろしいのではなくて?」


「いや、進まないよ」


 言わんとしていることはわかるけどね。

 僕自身、これだけ色々な機能を覚醒させられるとは思ってもみなかったから。

 まあとにかく……


「その【エアグライダー】を使えば、場外に落ちることもなくなるし、より高い機動力を得ることができる。それを最大限に生かすのなら、ひとりで立ち回った方がいいかなって思ってさ」


「尚の事その通りですわね。空を飛びながら他のチームを襲撃できるのは何よりのメリットですわ。ただ、場外判定ありの対戦形式で空を飛ぶというのは、闘技祭のルール上は問題ありませんの?」


「ヘルプさんからも、闘技場の範囲外に出ない限りは使用も問題ないだろうって言ってもらえたよ。だから僕は【エアグライダー】を生かす立ち回りで最終本戦に臨もうと思うんだけど、ふたりはそれでもいいかな?」


 そう問いかけると、ヴィオラとミュゼットは迷うことなく頷きを返してくれた。

 闘技祭の最終本戦ともなると、周りは猛者中の猛者たちしかいないはず。

 そんな中でふたりを放ってしまう形になるのはすごく申し訳がないが、ふたりからの了承も得られたので前述した作戦を実行するとしよう。

 予選と一次本戦の時は【エアグライダー】の出番がなかったし、せっかく新しく覚醒させた力なので最終本戦で思う存分使い倒してやる。

 と思って今から闘志を燃やしていると……


「というか今さらなんですけど、あの派手目な方が狙っているのは、具体的にはモニカさんとミュゼットさんのおふたりですよね?」


「えっ? うん、そうだけど」


「【エアグライダー】でしたらおひとりくらいは抱えて飛ぶことができますから、ミュゼットさんを抱えて空を飛べば、あの方たちも手の出しようがないんじゃないですか? ほら、ミュゼットさん小柄で邪魔にもならないと思いますし」


 不意にヴィオラが、これまた気まずくなるような話を振ってきた。

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