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第百七話 「ふたりきりの理由」

「ど、どういう関係って、言われても……」


 ミュゼットから唐突に投げかけられた質問に、僕は言葉を詰まらせる。

 ヴィオラとはどういう関係なのか。

 どんな意図の質問かはよくわからなかったけど、とりあえず気まずい空気になったことだけはよくわかる。

 チラッとヴィオラの方を一瞥すると、彼女は変わらず窓の外をじっと見たままで、助け船を出してくれる様子はなかった。

 だから僕は極力、この場の雰囲気をこれ以上乱さないように、当たり障りのない答えを返すことにした。


「昨日説明した通り、ただの冒険者仲間だよ? あるパーティーの選考試験を受けた時にたまたま一緒になって、初めて会ったのはそこかな。で、色々あってふたりでパーティーを組むことになったんだ」


「本当にそれだけですの?」


「う、うん。それ以上でも以下でもないけど……?」


 ミュゼットはムムッと碧眼を細めて僕を見てくる。

 まるで何かを疑うような目つき。

 彼女はいったいどんな答えを求めているのだろうか?

 やがてミュゼットは訝しい目をそのままに、せっかくの僕の気遣いをたった一言でぶち壊してきた。


「いえ、わたくしはてっきりおふたりが、男女のご関係なのかと思いまして」


「ぶっ!」


 これには思わず変な声が漏れ出てしまう。

 変な形で気管にも空気が入り、僕はゲホゲホと咳き込むことになった。

 あまりにも直球すぎる質問である。

 この部屋の雰囲気を微妙なものにしたくなかったのに、見事に気まずい方向へ話題を持って行かれてしまった。

 なぜかヴィオラは窓の外を見つめたまま固まったままだし、とにかく僕が誤解を解くことにする。


「ち、違う違う。僕たちは本当に同じ志を持った冒険者仲間ってだけだよ。だ、男女の関係とか、決してそういうんじゃないから……!」


「ふぅーん、本当にそうですの? 別にわたくしに隠す必要はないんですのよ。むしろわたくしも知っておいた方が、こっちも色々と気を遣えると言いますか……」


「本当に違うってば! ていうかなんでミュゼットはそう思ったの? そんな素振りとかあったかな?」


「素振りは確かにありませんでしたが、仲はとてもよろしいように見えたので。あとおふたりが不自然なほどに、“二人組”にこだわっているご様子でしたから」


「ど、どゆこと……?」


 二人組にこだわっている?

 確かに僕たちは二人組で活動をしている。

 けど、別にそこにこだわっているつもりはまったくない。


「聞けばおふたりがパーティーを組んだのは数か月も前だそうですね。その間に新しい仲間を集めることもできたはずなのに、どうしてずっとふたりだけで活動を続けていらっしゃるのでしょうか? わたくしはそこを疑問に思いまして」


「だから二人組にこだわってるって思われたのか」


「だって冒険者パーティーと言えば三人か四人の編成が鉄板ではありませんか。上の冒険者階級を目指すのなら尚更、頼もしい仲間を増やしていかなければならないはずです」


 そう言われると、ミュゼットの疑問も当然である。

 冒険者パーティーと言えば三人か四人の編成が一般的。

 その方が役割も上手く分担できて、少なすぎず多すぎない人数なので動きやすいとされている。

 実際、僕が『勝利の旋律』のパーティーにいた時も、五人でパーティーを組んでいてすごくバランスがよかったから。

 それなのに僕らが、一向に仲間を増やさず二人組で活動を続けているのは、傍目から見たら確かに不自然に映るだろう。

 何より……


「おまけにモニカさんは、仲間の恩恵を調整できるインチキ臭い力を持っています。わたくしやヴィオラさんに限らず、その力は誰にでも恩寵があるものですから、より効果的に活用するのなら仲間をもっと増やしているはずだと思いまして」


「まあ、人数の上限もないからね。それなのにパーティーの仲間を増やさないのは、何か特別な理由があるんじゃないかって考えるのが普通か。……インチキ臭いは余計だけど」


「ですからわたくしは、モニカさんたちが“二人組”に強いこだわりを持っていらっしゃる……もっと言えば男女の関係で、ふたりきりの状況に横槍などを入れられたくないから、ずっとおふたりで活動をしていらっしゃるのかと思ったのです」


 ミュゼットが唐突に気まずい質問をしてきたのも納得だ。

 確かに二人組に強いこだわりを持っていると思われても仕方がない。

 そして年齢も近い男女ということで、恋仲なのではないかと疑ってきたのも自然な流れと言えるだろう。

 恋人同士だったらそれはもう横槍や邪魔を入れられたくないだろうし、二人組を貫き通す充分な理由にもなる。

 するとミュゼットは僕とヴィオラを交互に見て、やや気まずそうに続けた。


「なので今のこの状況とか、もしわたくしがお邪魔でしたら、席を外した方がよろしいでしょうか? わたくしはわたくしで外の警護をしますので」


「いや、邪魔なんてことはないから大丈夫だよ」


 ヴィオラはいまだに窓の外に目をやったままで、こちらを向こうとはしない。

 ここで会話に交じって雰囲気がこじれるのを避けるためだろうか。

 黒ローブの背中姿からは、彼女が何を考えているのか察することはできなかったが、少なくともこちらに意識が向いていることだけは伝わってくる。

 ともあれ僕は、ヴィオラのためにもきっちり弁明しておくことにした。


「別に僕たちの『祝福の楽団』は、二人組に強いこだわりを持ってるわけじゃないよ。現に一回だけギルドで仲間の募集だってかけたし」


「その時に人員の補充は叶いませんでしたの?」


「面談に来た冒険者が、軒並み快くない人たちばっかりだったからさ。それに僕たち自身、友達とか知り合いが少ないからこっちから誘える人もいなくて」


 本当だったら僕たちだって頼もしい仲間を加えたかった。

 けど募集をかけてやって来た人たちは、みんな何かしらの問題を抱えていたり前科があったりしたのだ。

 おまけにこっちから誘える人もいなくて、『祝福の楽団』は今日までふたりきりでの活動を余儀なくされたというわけだ。

 それともうひとつ、下手に仲間を増やさなかった大きな理由が存在する。


「あとは何より、【パーティー】メニューのせいで、僕たちは仲間集めに関して慎重にならざるを得なかったんだよ」

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