第百六話 「三人の時間」
そのあと僕たちは、一次本戦が終わるまで城の中で待つことにした。
一次本戦は制限時間の一時間が経過するまでは、戦いが続行される。
他のチームの城を崩したあとも、引き続き攻城を行なってもいいルールになっているのだ。
最終本戦に進むチームを今のうちに削っておくことが可能ということで、一時間いっぱい攻城を行うつもりのチームもそこそこいるらしい。
しかし僕たちは安全を考慮し、時間が来るまで三人で核を守る選択を取った。
というわけで三人で固まって、部屋の中で待機中である。
僕は部屋の壁に背中を預けながら、【マップ】メニューに目を落として敵影の確認をし……
ヴィオラは感知魔法があるにもかかわらず、真剣な面持ちで窓の外を窺い……
ミュゼットはまた木材のひとつをベンチ代わりにして、眠そうに欠伸を噛み殺していた。
闘技祭の一次本戦中とは思えないほど静かな空間になっている。
オルガンがこちらのチームを敵視していると周りが知っているからか。
あるいはそのオルガンがやられたという情報が出回ったからか。
不用意にこちらの城に近付いてこようとする者はいない。
外からは戦闘の音が絶えず聞こえてきているので、やはり意図的にこちらの城を避けているように感じた。
こっちとしては好都合だと思っていると、ちょうどその時ミュゼットの斜め後ろに立っていた金色の従者がパッと消える。
それを見た僕は、特に他にやることもなかったので、ふと気になったことをミュゼットに問いかけた。
「従者ってどれくらいの時間出してられるんだっけ?」
「どの階級の従者も、活動時間の最大は一律で三十分ですわね。あとは攻撃を受けすぎたりしたら消えてしまい、わたくしの意思で引っ込めることも可能ですわ」
三十分。思ったよりも長いな。
その間、こちらの意思に従って動いてくれる味方が増えると考えただけでも強い能力である。
相手から攻撃を受けなければ従者の召喚条件を満たせないせいで、以前のミュゼットからしてみたら『痛みが前提』の最悪な能力だったろうけど。
僕は不意に、今しがた消えてしまった従者の姿を思い出して、続けてミュゼットに尋ねた。
「そういえば出してた従者には加護が付与されてないように見えたんだけど、もしかして従者には加護が付与できないの?」
「えぇ。わたくしも先ほど従者に試そうとしましたが、【淑女の加護】が適応されずに少し驚きましたわ」
「やっぱりそうなんだ。昨日の段階で確かめておけばよかったね。でもなんで従者には加護を張ってあげられないんだろう?」
「さあ? でも、主人の加護を受ける従者などいませんから当然ではなくて?」
まあ確かに……
あくまでも【淑女の従者】はミュゼットの召喚物で、能力それ自体も現実の“主従関係”を色濃く示したものになっている。
ミュゼットを攻撃しすぎたら、より強い従者が出てくる。
まさに、か弱い主人と健気な従者を体現したような力だ。
その理屈であれば、【淑女の加護】が従者に適応されないのも納得できるような気がする。
その時、窓の外を見ていたヴィオラが、僕たちの会話を聞いて気になったことがあったのか横から問いかけてきた。
「あの従者さんってたくさんは出せないんですか?」
「たくさん? 二体とか三体をいっぺんに呼び出すということですの?」
「はい。今の状況とか、お城の周りをたくさんの従者さんに警護してもらえたらすごく心強いなぁと思って」
「残念ですが、一度に顕現させられる従者は一体のみですわ。そしてその一体の従者が消えたら、強さはまた最下級の『見習い騎士』から始まります」
「あっ、そうなんですか。とてもいい作戦だと思ったんですけど……」
ヴィオラは肩を落として、再び窓の外に視線を戻す。
僕としてもたくさんの従者を出してもらえたら心強いと思ったけど、そもそもあのオルガンを一撃で倒せる従者を呼び出せるだけでも充分だ。
再びふと疑問が湧いてくる。
「オルガンを一発で倒した従者って、階級で言うとどれくらいだったの?」
「今しがた消えた従者の階級ですわよね。『侯爵』ですわ」
侯爵か……
昨日、ミュゼットの能力の検証の時にヘルプさんから聞いた話だと、確か侯爵は七段階目の階級だったはず。
そして侯爵の上には『公爵』が存在し、そこまでの従者に到達させるには今のミュゼットでも危険だと言われた。
まさかその寸前の階級まで持っていかれるなんて。
「今のミュゼットならかなり余裕を持ってオルガンを倒せると思ってたけど、意外と状況はぎりぎりだったのか」
「それだけあの男が強かったということですわね。わたくし自身、まさか『侯爵』まで到達するとは思いませんでしたわ」
ミュゼットはやや不服そうに頬を膨らませる。
オルガンがもう少し強ければ、ミュゼットの強靭な体は貫かれて、怪我を負わされていた可能性が高い。
口だけの男ではなかったというわけか。
もう少しミュゼットの恩恵の数値の割り振りを考え直してみてもいいかもしれないな、なんて考えていると、今度はミュゼットの方から声をかけられた。
「先ほどからわたくしばかり質問攻めされているので、今度はこちらから質問よろしいですの?」
「んっ、なに?」
「おふたりってどういうご関係ですの?」
外から聞こえていた戦闘の喧騒が、遠のいた気がした。




