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王弟殿下から特別扱いされていた私、なぜか悪女と体が入れ代わる  作者: 江本マシメサ
第四章 誰を信じようか

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元気になろう

 泣き止んだタイミングで、ギルベルトが何か差し出してくる。

 それは銀紙に包まれた板状のチョコレートだった。


「え、何これ?」

「何これじゃねーよ。食え!」


 もしかして私を元気づけようとしているのか。


「このチョコレート、いつも持ち歩いているの?」

「悪いか?」

「悪くない。いいと思う」


 ありがとう、と言って受け取り、半分に割る。パキ、と音が鳴った。


「はい、これ」

「なんだ?」

「半分こしよう」

「半分こって……」


 いらないと言うと思いきや、ギルベルトは素直に受け取ってくれた。

 私は神に感謝します、とだけ言ってチョコレートを食べる。

 高級なチョコレートなのだろうか。甘くて濃厚で、口の中でとろける。

 おいしいチョコレートなので口の中でゆっくり溶かしつつ食べていたのに、ギルベルトはバリバリとかみ砕いてあっという間に消費していた。なんとももったいない食べ方である。

 食べ終わったあとの銀紙はぐちゃぐちゃにせずに、丁寧に折りたたんでいた。

 こういうところを見ると、いいところのお坊ちゃんなんだな、と思ってしまう。

 チョコレートの効果は絶大だった。砂漠みたいにかぴかぴに乾燥していた心が、潤ったような気がする。


「ギルベルト、ありがとう。元気になった」

「別に、お前を元気づけるためにチョコレートをやったんじゃない!」

「だったらどうしてくれたの?」

「腹が減って泣いていたから、気の毒になっただけだ!」


 あの涙は空腹のあまり流したものではないのだけれど……。

 まあ、いい。そういうことにしておこう。


「ひとまず、お前は家に帰ってこい」

「家?」

「あ、家っーか、うちだ。ヴェイマル家!」

「どうして?」

「どうしてってお前、ツィツェリエルじゃないんだから、任務がなんだかわからないんだろうが」

「そうだった!」


 ギルベルトから「のんきな奴」と呆れたような眼差しを受けてしまう。


「でも、なんていうか、情報っぽいものを掴めそうな感じなんだけれど」

「情報って?」


 口にしたあと、あ! と気付く。

 エルク殿下がここにやってきて、ヴェイマル家の悪事について調査している、というのは言わないほうがいいだろう。

 慌てて話題を逸らす。


「それはそうとギルベルト、あなた、突然空から降ってきたけれど、どこからやってきたの?」

鷹獅子グリフォンの背中からだ」

「な、なんで鷹獅子と一緒に着陸しなかったの?」

「飛び降りたほうが早いから」


 何をどう考えたらそのような答えになるのか。

 ちなみに魔法で衝撃などを計算し、ケガがないように安全に着地したらしい。

 賢い! いやいやそうじゃなくって。


「空から私達が見えたの?」

「いいや、邪悪な気配を感じて下りてきたら、お前らがいた」

「わ、私達邪悪だった?」

「いいや、お前らじゃなかった。俺がくる前、ここになんかいなかったか?」

「いえ、別に――」


 言いかけた瞬間、ハッと思い出す。

 ギルベルトがやってくる前まで、エルク殿下の飛行竜がここにいたのだ。

 黒い竜だったので、上空から見たら邪悪な存在ものに見えたのだろう。

 エルク殿下がここにやってきた、というのは言わないほうがいい。

 またしても私は話題を別方向へ逸らした。


「あー、それはそうとギルベルト、あなた、どうしてここにやってきたの?」

「それは俺の台詞だ」


 まさかのカウンターを受けてしまう。

 そうだった。ここはヴェイマル家の領地だった。

 心の中で盛大に焦っていたが、ギルベルトは素直に自らの状況を教えてくれた。


「俺は視察だ」

「視察?」


 それは領民が悪さをしないか確認にやってきた、というわけなのか。


「ここには領民を監視するヴェイマル家の私兵団がいて、そいつらが悪いことをしていないか、定期的に確認にきているんだよ」

「へ、へえ、そうだったんだ」


 視察対象は領民ではなく、兵士のほうだった。

 なんというか、意外でまともな理由である。


「で、お前のほうは?」

「わ、私?」

「そうだ。エルクの野郎の屋敷にいるはずのお前が、どうしてこんなところにいるんだよ」

「そ、それは~~~~~」

「言え、簡潔に」


 なんと説明すればいいものなのか。

 こういう尋問めいた行為をギルベルトは慣れているのだろう、全力でがん詰めしてくる。

 誰か助けて! 神よ!  と天に救いを求めたのと同時に、地面に魔法陣が浮かび上がる。

 あれは、転移の魔法陣だ。

 眩い光から人影が浮かんできた。

 それはエルク殿下のものだった。


「ルル嬢――とヴェイマル侯子!?」


 ギルベルトは目を見開き、エルク殿下を凝視する。

 二人の間にはピリピリとした空気が流れていた。

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