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王弟殿下から特別扱いされていた私、なぜか悪女と体が入れ代わる  作者: 江本マシメサ
第四章 誰を信じようか

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ヴェイマル家が領する街へ!

 竜車はここに結界を張り、周囲から見えない状態で待機してくれるという。

 車体は魔力で繋いでいるようで、あっさり外れる。

 竜本体は丸くなって翼を休めているようだ。

 ここまでつれてきてくれてありがとう、と感謝の気持ちを伝えるも、プイッと顔を逸らされてしまった。

 まあ、契約者以外にはこんなものなのだろう。


「今度は地上の移動になります」


 エルク殿下はそう言って、竜を召喚する。魔法陣が浮かび上がり、光を放ったあと、竜のシルエットが浮かび上がる。


「走行竜です」

「わあ」


 一日のうちに二体も竜を見ることができるなんて。こんな状況だが、感激してしまった。

 地上を走ることを得意とする竜は二足歩行で、思いのほか小柄な体つきをしていた。

 竜車の子と同じく黒い鱗を持ち、足は鶏に似ているように感じた。

 目つきは鋭く、口元から覗く歯も鋭利だった。普段、地上での戦闘のさいに騎乗しているようだが、この子単騎でも戦闘力がありそうだ、と思ってしまった。

 竜専用の鞍があって、荷物が積めるようになっている。馬の鞍とは勝手が違うようで、エルク殿下が私の鞄を載せてくれるようだ。ぽんこつ使用人で申し訳ない。

 それはそうと、アンゼルムは竜の足についてくることができるのか。

 継続して姿隠しの魔法を展開させているアンゼルムを振り返る。

 エルク殿下が竜に意識が向いている間に、小さな身振り手振りで聞いてみる。


『大丈夫よ。竜ごときに後れを取るわけないじゃない』


 持久力も速さも、走行竜に負ける気がしないという。

 それを聞いて安心した。

 途中、分厚い黒色の外套が手渡された。これを着ていたほうが目立たないという。

 エルク殿下も同じような外套を着込んでいた。

 寸法がぴったりなので、私の着丈に合う物を用意してくれていたのだろう。何から何まで申し訳ない。

 エルク殿下は慣れた手つきで竜に鞍や手綱を装着している。

 待つこと十分くらいで完了したようだ。


「ルル嬢、騎乗の準備ができました」

「は、はい!」


 走行竜は思いのほか背中の位置が高く、跨がれるものか心配になった。

 はてさて大丈夫か、と思って竜を見上げていたら、エルク殿下が私を覗き込んで話しかけてくる。


「ルル嬢を抱き上げて竜の背中に乗せても構わないでしょうか?」

「あ――はい。お願いします」


 おそらく自力で跨がることなど不可能だろう。私の騎乗に時間をかけてしまうのも申し訳ないので、多大に迷惑をかけることを承知の上でお願いした。


「わかりました。では、失礼」


 そう言ってエルク殿下は私を軽々と持ち上げる。

 ふわっと浮かんで竜の背中の鞍に乗せてくれた。続けてエルク殿下も跨がる。

 私が前で、エルク殿下が後ろだ。

 鞍に突起があり、それを持っているように指示がある。エルク殿下は走行竜と繋がった手綱を握り、馬と同じようにお腹を足で叩いて指示を出したようだ。

 走行竜は走り始める。


「歯を食いしばっていてくださいね。口の中をケガしますので」

「はい」


 思いのほかエルク殿下と密着してしまい、申し訳なくなる。

 走行竜の足は想像よりもずっと速くて、まるで自分が風になったようだ、と思ってしまった。


「怖かったら手を挙げてください。速さを緩めるので」


 走行中、手を挙げる余裕なんてまったくないのだが……。

 早くて恐ろしいが、我慢できないこともない。奥歯を噛みしめ、到着まで耐えるしかないだろう。

 心配していたアンゼルムは、問題なくついてきていた。本人が言っていたとおり、速さと持久力はある模様。

 三十分ほど走ったあと、大きな要塞のようなものが見えてきた。


「ルル嬢、あれがヴェイマル家が領する街〝オプファー〟です」


 オプファーの意味は古い言葉で〝生贄〟だ。聞いただけでゾッとしてしまう。

 街の周囲にはヴェイマル家の私兵が張っており、許可のない者の出入りは禁じられているという。

 どうやって内部へ入るのか、と思いきや、エルク殿下はとんでもない方法を採ってくれた。 


「少し我慢していてくださいね」


 そう言ってエルク殿下は私の腰辺りに手を回し、ぐっと引き寄せる。

 ぴったり密着した状態で、エルク殿下は手綱を打った。

 すると走行竜は猛烈な速さで走り始める。本当の風になったようだ。

 そのままの勢いで兵士達の間を通り抜け、さらに壁に激突――かと思えば違った。

 走行竜は壁を走り始めたのだ。

 私の体は垂直になったものの、エルク殿下がしっかり固定してくれたので落ちることはなく。

 叫ばなかった私を褒めてほしい。

 走行竜は一気に高い壁を登り、街のほうへと下り立つ。

 心臓が縮み上がるかと思った。

 アンゼルムもついてきていたが、肩で息をしていた。


『竜の体力を甘くみていたわ!』


 今すぐアンゼルムを頑張ったと抱きしめてあげたいが、ぐっと我慢する。


「ここがオプファー、ですか」


 エルク殿下は頭巾を少しずらし、街の様子を眺めていた。

 この辺りは下町に位置するところだろうか?

 家は古く、何かが腐ったような臭いが立ちこめ、道行く人はボロボロの服を着ている。

 瞳に生気はなく、ふらついている人達がほとんどだった。

 どうしてか顔の辺りに黒い靄が漂っている。間違いなくあれはボースハイトだろう。


「酷い……」


 誘拐してきた人々をここに閉じ込め、魔物化させる準備をしているのだろうか。

 ゾッとする話である。

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