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王弟殿下から特別扱いされていた私、なぜか悪女と体が入れ代わる  作者: 江本マシメサ
第四章 誰を信じようか

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ヴェイマル家の悪事

 車体が空中で宙ぶらりんになって、右に左にと激しく揺れるのかと思いきや、飛行はすこぶる安定している。なんでも揺れないように竜が車を制御しているらしい。なんて賢い子なの、と感激してしまう。


 竜車は想像していたよりずっと快適だったが、問題はエルク殿下と二人っきりな件だろう。正確に言えばアンゼルムがいるものの、ここでは姿を消しているのでカウントできない。いったい何を喋ったらいいものなのか、脳内で頭を抱える。

 そもそも、だ。未婚の男女が一緒の空間で長時間過ごすことなど、あってはならない。うっかり家族や叔母に知られたら卒倒するだろう。加えて相手がエルク殿下と知ったら、数日寝込んでしまうかもしれない。

 まあ、家族に今、起きている状況なんて報告するつもりなどないけれど。

 私が今、死亡報告が届いているのかいないのかわからない中、ルル・フォン・カステルとして手紙なんぞを送るわけにはいかないから。

 家族について考えると感情がぐらぐらと揺らいでしまうので、なるべく頭の隅に追いやる。


「そういえばルル嬢はあのあと眠れましたか?」

「はい、おかげさまで!」


 大きな猫ちゃんアンゼルムが優しく寝かせてくれました、と自慢したかったが、精霊を連れていることは秘密なので黙っておく。


「エルク殿下はいかがでしたか?」

「おかげさまでぐっすり。昨日淹れていただいたミルクティー、とてもおいしかったです。また淹れていただけますか?」

「もちろん!」


 自白茶葉入りのミルクティーだが、再度調査が必要なときには飲んでいただこう。

 エルク殿下と二人っきりで気まずい、何を喋ったらいいのか、なんて考えていたが、思いのほか会話が弾んだ。というか、そうなるような話題をエルク殿下が選んでくれたのだろう。本当にこのお方以上の紳士を知らない。すばらしいお方だと何度思ったことか。

 途中、昼食をいただく。執事が用意してくれていたようだ。

 魔法瓶にはあつあつの紅茶が入っていた。保温及びお茶の風味が飛ばないような魔法がかかっているらしい。遠征時に毎回持たせてくれるようだ。

 お弁当はサンドイッチに炙りチキン、白身魚のフリットにキノコのキッシュと、どれもおいしくいただいた。

 竜車に乗ってから三時間ほど経過したようで、窓の外を見ると荒廃したような土地にギョッとする。

 カステル家の領地も恵まれているとは言えないが、ここはそれ以上だ。

 こんな土地が存在するなんて驚きである。


「あの、エルク殿下、ここはどうしてこのように荒れ果てているのですか?」

「この土地には瘴気がいたる場所で発生しているから、と言われています」

「瘴気、ですか。初めて聞きました」


 ここでアンゼルムがエルク殿下には聞こえない声で、瘴気についての情報を補足してくれる。


『ボースハイトのことよ。実はボースハイトと呼ぶのは一部の人達で、一般的には瘴気と言っているそうなの』


 エルク殿下は瘴気について教えてくれた。


「瘴気はこの世界に自然発生する悪しき物質で、生き物の精神に悪影響を及ぼしたり、魔物を産んだり、大地を汚染したり、とこの世にあってはならないものなんです」


 その説明はボースハイトと同じようなものだった。

 唯一異なるのはボースハイトと違って瘴気は自然発生する、という認識だということ。


「どうしてこの土地だけ、瘴気が多いのですか?」

「それは――」


 エルク殿下は眉間に皺を寄せ、苦しげな表情で質問に答えてくれる。


「ヴェイマル家の者達が、瘴気を各地から集めてこの地に放っている、と言われています」


 あくまでも噂の段階だとエルク殿下は付け加えた。


「瘴気を集め、各地で誘拐してきた人を魔物と化し、野に放つ――」


 元々人間だった魔物は群れを形勢しやすいため、それが集団暴走に繋がっているのではないか、という調査結果が出ていたらしい。


 ツィツェリエル嬢はルビーのチョーカーにボースハイトを集めていると聞いている。ギルベルトも同じように、さまざまな場所でボースハイトを集め、父親であるヴェイマル侯爵に渡しているのだろうか?

 考えただけでゾッとする。


「しかし、ヴェイマル家の人達はどうして、魔物を造り出しているのでしょうか?」

「それに関しては、さまざまな理由が推測できます」

「依頼された人物を誘拐することによって、誰かから報酬を得ているとか?」

「それもあるかもしれません」


 もっとも大きな目的は、ヴェイマル家が行う商売に絡んだものだろう、とエルク殿下は指摘する。


「ヴェイマル家は大きな商会を有していて、ありとあらゆる品物を流通させています」


 魔物の集団暴走が各地で発生したら、人々は対策のために強い武器を買い求める。

 それから食糧の備蓄や家屋の補強、装備の充実などなど、魔物の被害が出れば出るほど人々は命を守るために金を惜しまなくなるという。

 さらにヴェイマル家は教会とも繋がっていて、魔物避けの聖水を大量に売っていたようだ。

 またギルドも牛耳っており、魔物の討伐依頼が入るために多額の斡旋料を得ているという話である。 


「ひ、酷いです」


 お金儲けのために多くの人達を混乱の渦に陥れているなんて……。


「すべては噂話に過ぎないのですが、ヴェイマル家が以前よりもずっと裕福になった、というのはたしかなようです」


 ツィツェリエル嬢が希死念慮を抱きながら生きていたのは、ヴェイマル家の悪事を知っていたからなのだろうか? 

 ヴェイマル家の娘としての居場所しかなく、父親に命じられるがままにボースハイトを集めることしかできなかったとしたら――それは苦しみしかない人生だっただろう。

 ツィツェリエル嬢が今でもエルク殿下のお傍にいられたら今、このような状況にはなっていなかったのに。


 どうしてヴェイマル家を捨てて、エルク殿下を選ばなかったのだろうか。

 幼少期からヴェイマル侯爵の言いなり状態だったので、抗う術すら思いつかなかったのか。

 すべては終わってしまった話である。今考えても仕方がないことだった。


「重たい話をしてしまい、申し訳ありませんでした」

「いいえ」


 謎だらけだったヴェイマル家の全貌が明らかになっていく。

 なんて恐ろしい一族なのか。考えただけで鳥肌が立つ。


「ヴェイマル家の領地に下り立つときは、これを首から提げてください」


 手渡されたのは、ルビーが填め込まれたお守りアミュレットである。


「こちらは?」

「瘴気に汚染されるのを防ぐアイテムなんです」


 この装備なしで地上に降りたら、瘴気まみれになってさまざまな悪影響を及ぼされるという。


「瘴気にあたると魔力の制御ができなくなって錯乱状態となり、呼吸困難になった挙げ句、その場に失神してしまいます」


 そして魔物化の適性があれば、その身は魔物と化してしまうらしい。


「魔物化の適性、というのは?」

「魔力量が多い者が魔物になる可能性が高いそうです」


 ヴェイマル家の研究所では、適正のないものを魔物化させることに成功しているらしい。


「その施設もきちんと調査しなければなりません」


 話を聞いただけで、もう帰りたいと思ってしまう。

 そういえばお守りがないアンゼルムは大丈夫なのか。

 お守りにそっと触れたあと、アンゼルムのほうを見てみる。すると、大丈夫だとばかりに頷いてくれた。


「街から少し離れた場所に下ります。そこから地上を走ることができる竜に乗って、街を目指しましょう」

「はい」


 地上へ降り立つと、先にエルク殿下が下りる。私もあとに続こう。

 辺りは昼間だというのに薄暗く、吹く風はキンと冷たい。

 エルク殿下の手を借りながら下車したのだが、息苦しさに驚く。


「――!?」


 その理由をアンゼルムが教えてくれた。


『ここは特別ボースハイトの濃度が濃いようね』


 そう言いながら私の背中をそっと撫でてくれる。すると、息苦しさがなくなった。


『ボースハイトを弾き飛ばす防御魔法を展開しておいたわ。あまり長くは保たないけれど、いくらかマシでしょう?』


 心の中で盛大にアンゼルムへ感謝したのだった。

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