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王弟殿下から特別扱いされていた私、なぜか悪女と体が入れ代わる  作者: 江本マシメサ
第三章 謎が謎を呼ぶ!?

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夕食

 ふと、ヴェイマル家の離れにルビーのチョーカーを置いてきたことに気付く。


「あれ、置きっぱなしにしないほうがよかったかも!?」

『あなた、自分で入れていたじゃない』

「あれ、そうだっけ?」

『ええ。ドレスの装身具を入れたアクセサリーケースごと鞄に入れていたようだけれど』

「ああ!」


 アンゼルムから『盗まれて困る物は傍に置いておきなさい』と言われたので、高級そうなアクセサリーケースごと鞄に詰めていたのだ。

 なんでもアンゼルムは私がルビーのチョーカーをそのアクセサリーケースに収納しているところを目撃していたらしい。


「ルビーのチョーカー、無意識のうちにアクセサリーケースに戻していたんだ」

『きっとツィツェリエル嬢の体が覚えていたのよ』

「なるほど!」


 そうであれば納得できる。そういえば昨日、くたくたに疲れていて荷解きをしていなかったことを思い出す。


「下着だけ引き抜いて、そのまま放置していたんだった」

『暇だから整理整頓をしましょう』


 部屋には貴重品を入れる金庫があるのだが、ルビーのチョーカーはそこで保管しておこう。

 真っ先にアクセサリーケースを鞄から出して、中を検める。


「あ、本当に入ってた」

『でしょう?』


 改めて見てみると、鳩の鮮血という名前に相応しい禍々しさを感じてしまう。


『おそらく最初はこんな色じゃなかったと思うの』

「中にボースハイトを集めるうちに、変色したとか?」

『そうなのでしょうね』


 恐ろしくて素手では触れたくない。そのまま金庫へと運ぶ。

 金庫は壁に隠されているとミセス・ケーラーが言っていた。


「壁紙の金のアイリスに触れる、と」


 そこにはすでに私の魔力が登録されていて、触れただけで魔法陣が浮かぶ。

 壁の一部が眩く光り輝き、そこから本体ごと填め込まれた金庫が出てきた。


「わあ、すごい! こんなふうに隠してあるんだ」

『これだったら盗まれようがないわね』


 金庫に触れると再度魔法陣が浮かび上がる。カチャカチャと解錠されるような音が鳴り、蓋が開いた。

 中にアクセサリーケースを入れ蓋を閉める。

 自動施錠オートロックがかかり、金庫も消えた。


 ホッと胸をなで下ろしたが、荷解きは終わっていない。アンゼルムだけでなく、ハティも手伝う中で、やっとのことで終えることができた。

 紅茶を飲んで一息ついていたら、ミセス・ケーラーがやってくる。


「エルク殿下が今晩、お帰りになるそうよ」

「は、はあ」

「もっと嬉しそうになさいな」


 今日はいろいろあって疲れたので、ゆっくり一人で食べたかったのだが。


「エルク殿下はよほど、ルルさんのことをお気に召したのね。普段は毎日食事の時間には帰ってこないのに」

「は、はあ」


 嬉しそうににこにこしていたミセス・ケーラーだったが、次の瞬間には目がギラリと怪しく光った。


「さあ、身なりを整えましょうか!!」

「それなんですが、自分でできますので、お構いな――」

「つべこべ言っていないで、お風呂に行くわよ!!」


 問答無用でミセス・ケーラーは私の腕を引き、風呂場へ直行する。

 その後、泥で汚れた犬のようにわしわし洗ってもらい、体や髪を乾かしたあと服を着せられ、化粧を施したのちに髪を結ってもらう。

 そうこうしているうちに、エルク殿下がご帰宅されたようだ。


「エルク殿下がお待ちよ。さあ、晩餐室へ!」


 慣れない踵の高い靴を履かされたが、ツィツェリエル嬢の体なので難なく歩くことができた。

 部屋を出る前にミセス・ケーラーの目を盗んで、留守番をするハティに「変な人がきても窓の鍵を開けなくていいからね」と言っておく。


「ルルさん、何か言った?」

「いいえ、なんでもないです」


 ミセス・ケーラーと共に晩餐室へ向かった。そこで昨日ぶりのエルク殿下と再会する。


「ルル嬢、今日もおきれいですね」

「あ、ありがとうございます」


 今の私はきっと引きつった顔をしているのだろう。エルク殿下から見えない角度にいるミセス・ケーラーが、もっと笑ってと自らの口角に指を当てて指示を出していた。

 愛想笑いなんてしたことがない人生なので難しいのだ。


 昨日の今日でエルク殿下との食事に慣れるわけがなく、ガチガチに緊張していた。

 それに気付いたのか、今回もエルク殿下は優しく話しかけ、会話をリードしてくれる。

 今日はエルク殿下の趣味について聞かせてもらった。

 意外にもエルク殿下は何もないような地方へ旅行するのが好きで、暇さえあれば竜に跨がってでかけるらしい。

 さらり、と使い魔に竜を連れていることが明らかとなる。


「貴族の統治が行き届いていないような地方では、誰も私が王弟だと知りません。誰にも注目されない中でのびのびしていると、生の喜びさえ感じます」


 最初、私と話したときも、ルネ村に興味があったからだという。


「豊かな自然がある場所だと聞きました」


 そうなのだ。豊かな自然しかない。

 エルク殿下が楽しく滞在できるような施設などなく、雑貨店は棚がガラガラ、唯一ある食堂も一年のほとんどが閉まっているというありさまだ。

 行っても満足できないだろう、とお伝えしようと思った瞬間、胸がいっぱいになってしまう。


 何もなくても、ドドドドド田舎でも、私にとっては大切な故郷だ。

 今すぐ帰りたい。

 そう願っているのに、すぐには帰れない。

 いいや、永遠に帰れない可能性だってある。

 この体はツィツェリエル嬢のもので、私は乗っ取っているだけに過ぎないから。


 我慢できずにぽろぽろ涙を零してしまう。来年には二十歳になるのに恥ずかしい。


「ルル嬢!?」


 エルク殿下は弾かれたように立ち上がり、私のもとへやってくる。


「大丈夫ですか?」

「ええ、平気です。単なる、ホームシックみたいなものですから」


 そう絞り出す。

 エルク殿下は私の肩を抱き、赤子をあやすように優しく背中をぽんぽん叩いてくれた。 

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