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王弟殿下から特別扱いされていた私、なぜか悪女と体が入れ代わる  作者: 江本マシメサ
第二章 エルク殿下のお屋敷メイドとして潜入!

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エルク殿下のお屋敷へ

 化粧魔法を使って、ツィツェリエル嬢の顔をルル・フォン・カステルの顔に粧う。

 鏡に映るのは、本当の私だった。顔だけでなく、髪や瞳の色まで変わっている。

 スタイルは――ツィツェリエル嬢のままだ。明らかに私より出ているところは出ていて、引っ込んでいるところは引っ込んでいる。この辺は体のラインが出る服を着ない限りわからないだろう。たぶん。

 何はともあれ、改めてすごい魔法だと思う。きっと私を殺した犯人がこの姿を見たら驚くだろう。

 十日ぶりの自分の顔を見て、ホッとしてしまう。

 この顔で、事件を解決に導きたい。

 そんな思いを抱きつつ、入れ替わり後初めてヴェイマル家の屋敷の外へ出たのだった。


 ◇◇◇


 家事使用人ドメスティック・サーヴァント――それは階上アップ・ステアーズで暮らす人々を陰で支える、階下ダウン・ステアーズで働く者達の総称である。

 身分はさまざまで、使用人達の頂点に立つ家令ハウス・スチュワート執事バトラーなどのほとんどは中流階級アッパー・ミドル・クラスの者達だというが、中には貴族出身の者もいるらしい。

 というのも、貴族に生まれたとしても爵位や財産を継承できるのは長男だけ。次男以下は自分で身を立てて生きていかなければならないのだ。たとえ貴族の家に生まれても、せっせと働かなければならない。皆が皆、優雅に暮らしているわけではないのだ。なんとも世知辛い世の中である。

 ちなみに私の実家の屋敷には領民が通いでやってきて、炊事洗濯などをやってくれた。

 働いていたのは五人くらいだったか。

 和気あいあいとしていて、家族みたいな存在だった。

 けれどもエルク殿下のお屋敷ではそんななれ合いなど存在しないのだろう。

 舞台に登場する使用人は見えない幽霊のように振る舞い、主人一家とは関わらない。

 物語や舞台の世界で都会の貴族社会を学んでいなかったら、顰蹙ひんしゅくを買っていたに違いないだろう。考えただけでもゾッとする。


 エルク殿下のお屋敷は王都の郊外にあり、森の中に隠れるように建っているらしい。

 なんでも王都が敵襲にあったさい、避難してきた王族を守りながら戦える要塞のような造りになっているのだとか。

 そのため、情報を漏らさないよう、働く使用人達は目隠しをした状態で屋敷まで運ばれるという。

 一時間半くらい、視界を塞がれた状態で運ばれた。

 この状態は独りだったら不安だが、私の傍にはアンゼルムがいた。

 透明化の魔法を自身にかけて、周囲の人々に姿が見えないような状態でいてくれるのだ。

 馬車に乗るときも『同乗しているメイドがおかしなことをしたら、すぐに助けてあげるから』などと頼もしいことを言ってくれた。おかげで安心してエルク殿下のお屋敷まで移動することができたのだ。


 やっと到着したようだが、屋敷の中に入るまで目隠しをしたままらしい。

 二名のメイドが私の腕を引き、内部まで連れていってくれる。


「こちらから先は転移魔法で移動します。転移先では目隠しを外してかまいません」

「は、はい」


 なんでも屋敷内には部屋から部屋へ移動する転移魔法の魔法陣が常時展開されているという。使用人の腕輪を持つ者のみ、反応して魔法が発動されるらしい。

 さすがエルク殿下である。お屋敷の仕様も最新式なのだろう。


『あたしも一緒に転移できるから、心配しないで』


 アンゼルムの言葉に微かに頷いて反応する。この彼女の声も、周囲の人々には聞こえていないのだ。

 この短い時間にアンゼルムは使用人のみが反応して発動するという魔法を解析し、自身にもかけたという。

 転移魔法が発動されたのか、全身がじわじわ温かくなり、ふわりと体が宙に浮かぶ。


「ひゃあ!」

『大丈夫よ、力を抜いて』


 移動は一瞬だったのだろう。浮遊感が治まって着地したのに、膝から崩れ落ちてしまった。


「大丈夫か?」

「まあ、大変」


 四十代半ばから五十代前半くらいの男女の声が聞こえ、私の体を支えてくれる。


「もう目隠しは取っていい」

「大変だったわね」


 優しく声をかけられ、やっと冷静になる。目隠しを外すと、口髭に片眼鏡モノクル、白髪頭にモーニングコートを着用した五十代半ばくらいの男性と、髪をお団子にした仕着せ姿の四十代後半くらいの女性が私を覗き込んでいた。

 二人とも、声から感じた年齢通りなのだろう。優しそうな人達でホッとした。


「酷いわよねえ、使用人にこのようなことを命じるなんて」

「仕方がないだろう。ここは国の重要地点でもあるのだから」


 進められるがまま、ソファに腰を下ろす。

 転移した先は階下の休憩室だろうと思っていたが、窓の向こうに望むのは庭を見下ろせるような位置だった。

 もしかしなくても、ここは階上の一室なのだろう。


「私は家令を務めるマルクス・フォン・ヘルト」

「私は家政婦長ハウスキーパーのレーネ・ケーラーよ」

「はじめまして、ルル・フォン・カステルと申します」


 十日前に一部の新聞社で死亡が報じられた名前だが、ふたりとも違和感などないようだ。

 やはり私の死はもみ消されているので、誰も不思議に思わないのだろう。


 それにしても、上級使用人の二人が揃ってやってくるなんて、一介のメイドの扱いとしては重すぎるような……?

 配属された先の直属の上司であれば納得できるのに。

 それに転移先が階上というのも気になる。なんだかとんでもない仕事を任されそうで、ビクビクしてしまった。

 一通り、屋敷での仕事について聞く。細かな決まりごとはないようで、ケーラーさん曰く、みんなのびのび働いているとのこと。

 思いがけず、アットホームな職場だったことが明らかとなった。


「それで、私の配属先は……?」

「ああ、そうだったな」

「特別な仕事に就いてほしい、とエルク殿下直々に決められたのよ」

「エルク殿下が、ですか?」

「ええ」


 なんでも私の名前を聞いて、ピンときたと話していたらしい。


「十日前の社交界デビューで、エルク殿下と言葉を交わされたそうで」

「それをエルク殿下は覚えていらして、ぜひ、このお仕事をお任せしたいと話していらしたの」


 なんとエルク殿下は私を覚えていたようだ。

 そんな話を聞いても、光栄だと喜んでいられない。エルク殿下は私にいったい何を任せるつもりなのか。


「エルク殿下の部屋の清掃係をしてもらう」

「いくつかあるから大変だけれど、私や他の人達も手を貸すから」

「エルク殿下の、部屋ですか!?」


 それは執務室に私室、寝室に風呂場の四カ所だという。


「い、いやいやいや、私みたいな新参者が任されていい場所ではないと思います!」

「そんなことはない」

「エルク殿下はあなたのことを信用されていらっしゃるようなの」


 どうして!? と叫びたくなったが、ぐっと堪える。その理由についてはすぐに教えてもらえた。


「エルク殿下は長年、悩みの種があったのだ」

「それはね、大変おモテになることなの」


 出会う人出会う人を魅了してしまい、たくさんの人から愛を告げられるのだとか。それだけならばいいのだが、行く先々でエルク殿下を巡るケンカなども発生し、人間関係にうんざりしているらしい。

 その中でも、使用人からの好意に困っているという。


「寝間着の匂いをかがれたり、抜けた毛を採取されたり」

「お風呂の水を全部持ち帰られたこともあったらしいの」


 うわあ……。

 エルク殿下が一気に気の毒になる。

 使用人に好意を抱かれ、暴走されることほど厄介なことはないのだろう。

 女性使用人からの被害が酷いのであれば、男性使用人にすればいい。

 そうすれば問題が解決する、と思っていた日もあったようだが……。


「エルク殿下は性別問わずにおモテになり」

「男性使用人が担当しても、同じような出来事が起きたのよ」


 エルク殿下は身の回りの世話を禁じ、全部自分ですると宣言した。

 しかしながらそんなことなどあってはならない。しばらく上級使用人で仕事を振り分けてエルク殿下のお世話をしていたようだが、各々の仕事もあるのでなかなか手が回らない日もあるという。


 そんな中で、エルク殿下より清掃係の適任者だ、と私が大抜擢されたわけだった。


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