はじまりの村の創立記念祭の成り立ち
「悪役令嬢の中の人」コミカライズ2巻10/25発売!!
よろしくお願いします!
発売を記念して「レミリア様(ほぼ)等身大パネル」を
展示していただいてる書店様もたくさんあるので
お近くのお店にレミリア様がいる方は是非足を運んでみてください!
「今年のレミリア様の誕生日は……過ぎてしまってますね。……来年はぜひ、村を挙げて盛大にお祝いさせていただきたいです!」
スフィアに誕生日を祝う言葉をかけて、エミが選びそうな心のこもったプレゼントを渡した時にそんな事を言われた。
ああ、たしかに。わたくしの……「レミリアの肉体」の誕生日は過ぎているわね。
去年までは盛大に祝っていたが、あの夜会の日からずっと世界を救うために尽力していたからそんな事をしている暇はなかったから。そもそも誕生日など誰にも教えていない。祝うよう強要してしまうみたいで、エミだったら絶対言わないもの。
だが王太子の婚約者だった時、「エミのレミリア」の誕生日パーティーに、彼女もデイビッドの婚約者として出席していたのを思い出す。日付は覚えていて当然か。
「そんな、大ごとにしないでいいのよ」
「とんでもない。場を設けず村の者達が皆個別に祝いに押し寄せたらもっと騒ぎになりますよ」
「でも、村の子供達は正確な誕生日が分からない子も多いから、そんな中でわたくしだけ盛大に祝うのはちょっと……」
「誕生日を知らずに祝えなかったと後から知ったらそっちの方が皆残念がりますよ」
わたくしは「エミのレミリア」として会話をする。きっとエミなら、貧しく苦しい生活を送っていて「誕生日プレゼント」なんてもらった事もない子供達に罪悪感を覚える。でも祝いたいと言うスフィアや村人達の気持ちも無下にしない。
数度のやり取りの後、「おおまかな時期くらいは分かるから、毎月はじめに、その月に誕生日を迎える者全員に祝いの品を贈る」「その上でレミリア様の誕生日は盛大な宴を開きましょう、私が取りまとめます」と押し切られた形にしてこの話を着地させた。
この村で調達する品から想像出来る宴や贈り物になど全く興味が無いが、きっとエミなら、退屈でささやかすぎる祝宴や子供が描いた何の価値も無い落書き、その辺で拾ってきた「きれいな石」を贈られても心から喜ぶもの。
それに、「エミのレミリア」を慕って、何か自分達が出来る限りの素敵なお祝いをしたいという村人達の気持ちはわたくしにもよく理解出来る。
わたくしは、エミの記憶の中にあった「誕生日会」を思い出していた。少女だったエミが友達を呼んで、エミのお母様とお姉様が飾り付けてくれた部屋の中でホールのチョコケーキに立てた蝋燭の火を吹き消す様子。
「レミリア」の絢爛華美なだけの誕生日パーティーとは違って、とても幸せで、優しい、「愛」が可視化されたような景色だった。
そうね。大切な、大好きな人が生まれてきた日は盛大にお祝いしたいわよね。
エミもわたくしの誕生日をお祝いしてくれたのを思い出す。子供の頃、エミのお父様がエミの誕生日ケーキを買ったお店で、自分のバイト代で買ってくれたのよ。上に乗せるチョコプレートにわたくしの名前を頼んで、手作りのお祝いボードと、わたくしをイメージしたシュシュも作ってくれた。
実際にこの手に取る事は出来ないものだったけど、わたくしが知っている世界の中で一番素晴らしいプレゼントだったわ。
そこまで考えて思いつく。
……そうだ、わたくしもエミの誕生日会をしましょう。誰よりも優しくて、この世で一番素敵な女の子がこの世に生まれ落ちた日を記念してわたくしに精一杯のお祝いをするの。
とてもいい考えだわ。
幸い、この世界の暦はエミの生きていた世界と共通している。バレンタインデーやホワイトデー、ジューンブライドの花婿を思わせる正装、夏服、クリスマス、年始など各イベントに合わせて人気攻略キャラクター達の「衣装替えVer.」を実装をするためにね。もちろん、エミの世界の史実や実在した人物が元になった「クリスマス」や「バレンタインデー」などは名前を上手く変えていたけど。
ユーザーに課金させるために、現実世界と季節やイベントを連動させるのはソーシャルゲームではよく見る手法だった。そのお陰でエミの誕生日をこの世界でもお祝い出来るので、開発会社を褒めて差し上げたいわ。
エミは「レミリアたんが実装されないから石貯まったな……初回割引だけ回そ」「イベント配布キャラで十分ストーリーは進められるし」と言って、あまり射幸心はそそられていないようだったが。
でも魔族の新キャラが実装された時だけは、「このキャラのパーソナルストーリーにレミリアたんの話が出てこないかな。いや頼む! 元同じ陣営なんだから、レミリアたんの事を一言でいいから聞かせてくれ……! 公式からの推しの供給が途絶えてこちとら飢えてるんだが!」と喘いでいたわ。
いえ、一度だけ。あの時のエミの記憶はとても可哀そうで可愛かったわね。
「星の乙女と救世の騎士」のエイプリルフール企画で、「悪役令嬢レミリア実装!」というお知らせを公式が出したの。
他のユーザーは笑い話として「この日のこの企画のためだけに無駄に気合の入った新規グラ笑う」「敵としては強かったし実装されたら人権になりそう、普通に欲しい」と楽しんでいたけど。エミは4/2に日付が変わるまで「頼みますほんとほんとお願いしますからレミリアたん実装してくれ~~!!」と心から祈ってくれた。
やっぱりエイプリルフール企画で、このお知らせは嘘だと分かってから、「知ってた……知ってたけどさ……」と。記憶を見ていただけのわたくしの胸が痛むほど打ちひしがれてしまって。
とても可哀そうで、今すぐ抱きしめて涙をぬぐってあげたいのに、わたくしを思って「レミリアたん仲間になって欲しかった……」と泣いてくれたエミの事が愛おしくて可愛くてたまらなかったわ。
記念に、と公式が配布したその時の「悪役令嬢レミリア」の画像をずっとスマートフォンの壁紙にしてくれてたのよ。
ちなみに、その次の年は……アンヘル達魔族の攻略対象達が「バンドを組みます」というエイプリルフール企画が打たれたのだけど。
そちらはロックバンドの衣装に身を包んだアンヘル達にユーザーからの大反響があって、後に別衣装ver.として実装されている。「は?! なんで?! 去年のレミリアたんは?!」とエミがとても憤慨していたのは言うまでもない。思い出すとエミが愛おしくてちょっと笑ってしまうわ。
この世界でもエミの誕生日を祝う事は決まったけど、わたくしのエミの事をそのまま伝えるわけにはいかない。
この世を救う、わたくしを導いた女神の生誕祭にするか……いえ、宗教を新たに立ち上げるのは違う。一番敬われ感謝されるのは「エミのレミリア」にしなければならない。
まずはこの村の創立記念祭として、ゆくゆくは国を挙げた祭日にすればいい。
わたくしがこの国を掌握する頃には、エミの誕生日がこの世界の人々にとって「この世で一番幸せで素敵な日」になっている事でしょう。とても楽しみだわ。




