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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第18話 レシピ18 石焼き芋と各種野菜のポタージュ
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ニコールとの再会

異世界嫁ごはん2巻発売中です。 

WEB版とは違うニコちゃんとエステルさんに会いに来てください。

さて、戦争が終結してニコールと再開する主人公。どうなる?

 二徹たちがエリザベスを救出して2日後。オストリッチ会戦で勝利を収めたウェステリア軍がオーデフの町に到着した。クエール王国軍の守備隊は戦わずして降伏。オーデフ城も開城して武装解除した。


 ここにオーデフ事変と言われた戦争は集結し、町は再び、ウェステリア王国のものとなった。


「二徹様、ウェステリア軍の凱旋パレードが行われるそうですよ」


 そう教えてくれたのは、このオーデフで運送業を営んでいるマトーヤという名の猫族の男。500台以上の馬車を所有してオーデフの流通を支えている商人である。彼は猫族中心のクエール王国には反対で、密かに反対派に経済援助をしていた関係で、ウェステリア軍にも知己がいた。


 先遣隊3千が到着して、本軍の到着準備が整ったところで戦勝パレードが行われるとの情報を得てやってきたのだ。


(ニコちゃんに会える……)


 二徹は久しぶりに会える愛妻に心を躍らせる。既にニコールの大活躍ぶりは、このオーデフの町でも知らされており、常勝の姫将軍、不敗の女神とまで噂されていた。パレードではその姿をひと目見ようと大勢の人間が押しかけるとの噂である。



「ニコールめ、うまくやりやがって……」


 ちょっと悔しそうに呟いたオズボーン中尉。彼はニコールとは同期であるが、既にニコールは少佐で2階級上。ニコールは今回の功績で2階級昇進は間違いないので、ますますその差は開くだろう。

 だが、オズボーンの功績も捨てたものではない。何しろ、クエール王国軍の象徴である猫姫エリザベスを救出したのだ。


「オズボーン中尉。ウェステリア軍の本隊が到着したら、中尉がエリザベスを連れて保護を求めてください。あとは任せます」


 そう二徹は申し出た。意外そうな顔でオズボーンは二徹に問い返す。


「それはどういうことだ。そもそも、猫姫はお前たちが救出したのだ。お前たちが名乗り出るのが筋だろう?」

「いえ、この作戦の主導者はオズボーン中尉。我々は民間人に過ぎません。それに専業主夫が手柄を立てたところで意味はありません。これは彼も同じです」


 そう言って二徹はソファで寝そべっている二千足の死神に視線を送る。彼はこの屋敷に到着後、姿を消すと思ったが未だに行動を共にしている。オズボーン中尉は彼を逮捕したそうだが、まだウェステリア軍が完全に町を占領していないし、逮捕しても連れて行く場所がないので黙認していたのだ。


(たぶん、彼は次の指令を待っているんだろうけど……)


 そう二徹は思っていた。この屋敷に来てから手紙のやり取りを密かに行っていることを知っていたからだ。


「お前がそう言うなら、そうさせてもらう」


 オズボーンもエリザベス救出に尽力した。兵士も少なからず失っている。手柄を上げれば彼らの昇給も保証でき、残された家族に年金を送ることができる。隊長として手柄に対しては貪欲にならざるを得ない。


 二徹はエリザベスを無事に救出できればそれで満足だし、どこかの指令を受けて今回のエリザベス救出に尽力した二千足の死神は、ウェステリア政府から褒美なんてもらう気は少しもないだろう。


「ただ、ウェステリア軍が進駐するのは治安の回復上はよいのですが、別の問題が大きくならねばよいのですが……」

「別の問題?」


 二徹はマトーヤの心配そうな顔を見て、そう尋ねた。


「食料ですよ」

「食料?」

「市中から小麦がなくなっているのです。おかげでパンの値段が倍になっています」


 そうマトーヤは答えた。このオーデフは半島にある町で他の町との交易は、オストリッチ平原を通る街道を通って行われる。いわば生命線だ。ここが戦場になったのだから、当然、物資の調達が難しくなる。


 さらにここ数日、海が荒れていて商船が入港できない日が続いたため、海路からの物資も滞っていた。


「う~ん。確かに戦争が理由だけど、それだけじゃないような気がする。なんか、意図的な匂いはしません?」


 二徹がそう聞いたのは、マトーヤが流通を担っている商人であるから、何か知っているのではないかと感じたからだ。


「実は……これは噂なのですが、この戦争で大儲けしようと画策している人間がいるとのことです」

「小麦を買い占めている商人がいるってこと?」

「さすが、ニテツさん」


 戦争で一儲けしようとする人間はどこの世界でもいる。今回も密かに小麦を買い占めて値段を吊り上げて大儲けしようとする商人の存在を疑ったのだ。


「しかし、オーデフは大きな町です。人口は10万人を下らない。そんな町の小麦を買い占めるなんてかなりの資産家じゃないと無理ですよね」


「それができる人間がいるのです。もちろん、確証はありません。ただ、彼の財力ならば、この事態を自分で起こせるだけのものを持っています」


 その男の名は、『ダリオ・バルフォア』。オーデフで穀物を商う大商人である。50歳の犬族の男であり、商人として100年の歴史をもつバルフォア家の当主である。


「食糧不足のところに、1万を超えるウェステリア軍が町に入ってきたら、食料が一気にピンチになる……」

「もし、彼が買い占めているとしたら、非常にまずいです。彼のことです。徹底して町から穀物を買い占めて不足状態にするでしょう。我慢の限界になったところで、10倍、20倍で売る……」


「食糧不足になったら、町の治安も悪くなるし、ウェステリア軍の評判も悪くなる」


 二徹は困ったことになると思ったが、この町には妻のニコールがやってくるはずだ。ニコールならこの問題を解決してくれるだろう。


 まずはニコールに会いに行こうと二徹は思った。



 二徹がニコールに面会できたのは、ウェステリア軍の本軍が町に入り、凱旋パレードをした2日後。

 凱旋パレードにニコールの姿がなく、見物客の落胆は大きかったが、それは二徹も同じこと。どうしてニコールがいないのか考えると不安がよぎる。さらに、ニコールに会おうとした二徹が2日間たらい回しにされるくらい、ウェステリア軍は混乱していた。


 オーデフの町の治安維持、オーデフ城の接収。残った兵士の武装解除。抵抗する一部兵士の鎮圧等、やることが満載だったからだ。


 そんな中、オズボーン中尉はエリザベスを伴って出頭し、その功績を讃えられた。彼は大尉に昇進することは決まっていたが、この功績とオズボーン小隊のオストリッチでの奮戦も加わって、少佐に任じられることになる。


 エリザベスは保護されて、オーデフ城で身の振り先を検討することになるが、身元引受人としてニコールが手を挙げることになる。


 2日間たらい回しにされた二徹が、やっと妻のニコールに会えることになった。オーデフ城の一角にあるニコールの執務室である。


ドアを開けると愛しの愛妻が二徹のことを待っていた。二徹は両手いっぱいに花束を抱えている。部屋に入ると護衛の兵士は気を利かせてニコールと二人きりにしてくれた。


「ニコちゃん!」

「ニテツ!」


 一ヶ月ぶりに会う夫婦である。ニコールはまだ戦場で受けた傷が癒えていなく、右腕の骨折は固定して三角巾で吊るしていたし、左目も包帯をしたままであった。そんな姿に二徹は驚いたが、まずは持ってきた花束を手渡した。


「あ、ありがとう……」

「戦勝のお祝いだよ。ニコちゃんは大活躍だったって町ではすごい噂だよ」


 ニコールはそう言われて少しはにかんだ。愛する夫に褒められると、いつもは表情を変えない勇敢な戦乙女バルキリーも気恥ずかしいらしい。


「いや、全て従ってくれた兵士たちのおかげだ……。だが、このケガだ。この姿ではパレードには出られぬ」

「そうだよね……」


 この美しい嫁に首ったけで、包帯を巻いた痛々しい姿でも(萌え~っ)と思っている二徹にとっては、パレードに出ても問題ないと思うのだが、こんな姿を晒すのは軍としては好ましくないのであろう。戦争の悲惨さを際立たせるし、ウェステリア軍の士気にも関わる。


 ニコールはともかく、オストリッチ会戦で負傷した兵士たちは夜に密かに移動し、病院へ運ばれている。町の占領で混乱しているウェステリア軍であるから、負傷しているとはいえ、有能なニコールが執務を執らざるを得ない。


「ニコちゃん……会いたかったよ」

「私もだ……」


 そうニコールは答えた。あとは言葉はいらない。

 


 しばらく体を寄せ合った夫婦であるが、二徹は先程から気になっていたことを尋ねる。ニコールのケガの状態だ。


「ああ、心配させてすまぬ……」


 ニコールは二徹を部屋のソファに座らせ、自分も隣に座って戦場で起こったことを話した。オストリッチ丘陵地帯に陣を敷いたこと。2倍の敵を撃破したこと。1万もの兵に攻撃され、それを跳ね返しただけでなく、最後は少数の兵の先頭に立って突撃したこと。


「たった300人で敵の本陣に突撃した?」

「うむ」

「それで撃たれたと?」

「あれは不覚だった。カロンが身代わりになってくれなかったら、戦死していたかもしれない。ああ、カロンは無事だぞ。今頃、野戦病院で看護兵にちょっかいをかけているに違いない」


「……」


 話をじっと聞いた二徹は、無言でニコールの頬を両手で挟んだ。


「な、何をするのだ?」

「ニコちゃん、これは罰だよ」

「罰?」


 二徹はギュッとニコールの頬をギュッと抑える。


「うっううううう……」

「もう、ニコちゃんはいつも危ないことばかりして!」


 ニコールの話を聞いて、二徹の心は張り裂けんばかりに鼓動を強めた。正直、銃で撃たれて右腕が折れた話や左目のケガの話は、聞くだけで背筋に冷たいものが走っていく。


「ご、ごへんなしゅあい……」

「もう本当に心配かけて」


 手を離した二徹。ニコールはもうふにゃふにゃになって、二徹の胸に顔を埋める。その頭を撫でる。


「心配させたお前に償いをしたい」

「償い?」

「わ、わ、私は……」

「ニ、ニコちゃん?」


 顔を上げるニコール。右目は包帯で覆われていて、無傷の左目がもう上目遣い。何だか庇護欲が掻き立てられてたまらなく可愛い。


「今からいっぱいキスをするから許して!」


 そんなニコールが顔を赤く染めてそう宣言し、左手でのグッと二徹をソファに押し倒す。もう可愛すぎて二徹の全身の力が抜けてしまう。なすがままである。


「ニコちゃん」

「これで許して!」


 二徹はニコールをしばらくギュッと抱きしめた。数分ほどで興奮を収め、ニコールはいつもの軍人モードに戻る。体を離して座り直したニコールは、改めて二徹に頭を下げた。


「す、すまぬ……。お前を心配させて……。でも、私は運が良かった。腕の骨折は1ヶ月もすれば治るし、目のケガは様子見だ。明日にでも包帯は取れる……」


「それは本当に良かったけれど、僕としては美しいニコちゃんの体に傷をつけて欲しくないなあ……」


 これは夫として正直な感想だ。ニコールの白い美しい腕に銃創なんて似合わない。だが、ニコールは軍人だ。兵士の先頭に立って戦うのが仕事。激しい戦いになれば、このようなことは普通に起こることだ。


「ニコちゃん、右腕が使えないと色々と困るよね。仕事はともかく、生活のサポート役の人間は必要だよね」

「ああ……。ここまではシャルロットがやってくれたが、彼女は今、別のところへ派遣していてな。ちょっと、困っていたところだ」

「じゃあ、ここにいる間だけ、僕を臨時の従僕にして身の回りの世話をさせて」


 高級軍人が自分専用の従僕を雇い、身の回りの世話をしてもらうことは、ウェステリア軍に限らずこの世界では普通である。ニコールも少佐ではあるが、1軍を率いて重要な地位を任されている。二徹を伴うことはおかしくはないし、気心知れた夫なら、リラックスもできる。


「それはいいアイデアだ。一応、宿舎は場外の屋敷を確保してある」

「しばらく、そこで暮らすんだよね」

「ああ。戦後処理があるからな。少なくとも1ヶ月は滞在するだろう」

「じゃあ、決まりだよね。僕がその屋敷の管理とニコちゃんの世話をするよ」

「すまぬ……いろいろと不便で困っていたのだ。ニテツがいてくれると助かる……」


 コンコンコン……。ドアの音。


 ニコールが許可をすると青冷めた表情の兵士が報告書らしき書類をもって部屋に入ってきた。

 それは事態の深刻さを伝える報告であった。




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