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異世界嫁ごはん ~最強の専業主夫に転職しました~  作者: 九重七六八
第14話 嫁ごはん レシピ14 メガ盛り、ウェステリア風お好み焼き
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メガ盛りの条件

「ということで、先日はひどい目にあった」


 実際にひどい目にあったのはボブ上等兵だが、カロンが食べた分とバーナードが食べた代金はニコールが支払う羽目になった。オズボーン中尉のせいでとんだとばっちりを受けてしまったとニコールは思っている。


「それでカロン曹長は今日もお休みなんですね。兵舎で布団を被ってシュークリーム(ベジクレム)怖い、シュークリーム(ベジクレム)が攻めてくると唸っているという話でした」


 ニコールはAZK連隊司令部の執務室で、副官のシャルロット少尉に3日前の顛末を話していた。シャルロット少尉は、連隊本部に先に行った時にレオンハルト少将から別の任務を与えられて、この3日間ニコールの元を離れていたからだ。


 結局、あの大食い勝負は、カロンが20個。バーナードが50個食べたから、1個銅貨50ディトラムのシュークリーム70個分。金額にして3500ディトラム。金貨3ディトラムに銀貨5ディトラムをニコールが支払った。

 

 それはよいのだが、結局、オズボーンが負け、カロンが負けてウェステリア軍がフランドル軍に2連敗という結果となった。戦争ではなく、大食いという平和な対決であったが、負けっぱなしでは、ニコールは悔しいと思っている。


(なんとか、あのフランドル兵の奴らをギャフンと言わせたいのだが……)


 とは言っても、ニコールが挑戦する訳にはいかない。とてもではないが、あんなにいっぱいは食べられない。


(誰か、あの大食い3人組に対抗できる大食いの得意な人物はいないものか?)



「あそこのシュークリーム(ベジクレム)すごく美味しいと思います。1個の大きさが通常の2倍はあって、クリームもたっぷりで……」

「シャルロット、まさかと思うが、お前ならあれを50個食べられるとか?」


「嫌ですよ、隊長。いくら何でもわたしが50個も食べられる訳ないじゃないですか。さすがに無理というものですよ」


 そうシャルロットは否定した。確かにシャルロットは昼ご飯に定食を2つ食べることもあるが、彼女の小さな体ではとても食べられる量とは思えない。


「そうだな。いくらお前が食いしん坊でも、限度というものがある。あのフランドルの3人組は異常だが、我が国にもあれくらい大食漢の人間はいるはずだ」

「そうですよ。きっと誰かが倒してくれると思いますよ。その3人組、町でかなり有名になっているそうですから。噂を聞きつけたウェステリア中の大食い自慢がやってくると思います」


「それもそうだが、今のところ、大盛りメニューは攻略され続け、大食い自慢はことごとく倒されているそうだ」

「意気地がないですね……」


 そうシャルロット少尉は人ごとのように話した。実はシャルロットは今から早退する予定なのだ。机の上を整理して帰る準備をしている。


「そういえばシャルロット。君の父上が都にやってくるのであったな」

「はい。今日の昼頃、到着予定だと聞いています」


 シャルロットの父親は、クアプールに駐屯する陸軍第23師団の大隊長を務めるアドニス・オードラン大佐である。休暇を取ったアドニス大佐は半年ぶりに娘のシャルロットに会いにこのファルスの町にやって来るらしい。


 シャルロットは早退をして、父親を迎えに行く予定だ。そして3日間の有給休暇を使って、ファルスの都を案内するらしい。


「私もアドニス大佐に会いたい。君の父上は勇敢な武人だと聞いている。滞在中に面会をしたいのだが、時間は取れるか?」

 

 そうニコールはシャルロットに尋ねた。上官として、部下の親には挨拶をしておきたいと考えたのだ。


「はい。父は3日間滞在する予定です。最終日に大尉に挨拶したいと手紙に書いてありました」

「そうか。それでは3日間、父君とよい休暇を過ごせ」

「ありがとうございます。ニコール大尉。失礼します」


 そう言ってシャルロットは敬礼をした。副官が去った執務室で、ニコールは再び、あのフランドル3人組を倒す方法を考えたが、良い方法は浮かばない。


 ニコールが知っている軍人の中でも、彼らよりも大食漢の人間は見当たらないのである。


(う~ん。なんだか悔しい。ウェステリア人はフランドル人よりも劣っていることは絶対にないはずだ)


 彼らは正確には犬族だが、犬族が大食漢というわけではない。それに民族的な違いはウェステリア人とフランドル人では大差はない。


人族と犬族、猫族といった違いで国で民族が違うわけではない。遠い南や東の国では明らかに人種の違いというのはあるが、近隣国では差はないというのが実情だ。


「食べものに関することといっても、こればかりは二徹に相談してもどうしようもないだろうし……」


 そんなことを考えながら、執務室で悶々とするニコールであった。


 愛妻が悩んでいる同じ時刻。二徹は屋敷にやってきた団体の相手をしていた。


 訪ねてきたのはファルスのレストラン、屋台、食堂経営者などで作るファルス飲食組合の役員たちである。現在の会長は二徹のお気に入りの酒場「夜の熊亭」という店の店主である。


 酒場ではあるが、料理も出すバルみたいな店だ。ここのアサリ(ミル)のチャウダーが絶品なのだ。


「それでそのフランドル兵3人組のおかげで皆さん困っていると?」


 テーブルに座った面々を見渡しながら、二徹は聞いてみた。役員は全部で5人。会長に副会長、情宣部長に青年部代表、女性部代表である。女性部の代表はこれも二徹の行きつけのパン(ブレド)屋のベッカさんだ。


「いえ、困っているというか、なんというか……」


 会長は少数民族の熊族出身で、大きな身体に小さなクマ耳がお茶目なおっさんである。気が優しくて料理が上手な人で、二徹とは気の合う人間である。


「売上はみんな上がっているのです。平均120%増し。大食い勝負が行われた店は150%~200%と客入りはいいのです」


 そう報告する副会長。ファルスの町でバーを経営する人族の男だ。食事を提供する店だけでなく、彼のような酒を提供する店も売上が伸びているらしい。


「3人のフランドル人を一目見たいと見物客が押しかけているのですよ」

「近隣の町からも噂を聞いてやってくるので、宿屋も宿泊客がいっぱいだそうで」

「大盛りメニューが攻略された店では、自分もできるのではないかと挑戦する人間が後を絶たず、その売上も上がっているのもあります」


 どうやら、3人の大食い男たちのおかげで景気は向上しているらしい。それなら、大歓迎するべきで、なぜ、飲食組合の役員がやってくるのかが分からない。


「売上が上がっているのはよいのですが……やはり、同じウェステリアの人間としては、フランドル人に大食い勝負で負けるのは悔しいのですよ」


 そう会長が本題に切り込んできた。大食い勝負で負け続けるウェステリアを何とかしたい。それに店の大盛りメニューが次々と攻略されていく屈辱。


「私の店は昨日、『殲滅食い』の対象になりまして、朝から3人で全商品を食べられてしまって、午後からの営業ができなくなってしまいました。ちゃんとお金を払ってくれるのですが、他のお客さんに売ることができなくなってしまいました」


 ベッカ・ベーカーリーは町でも有名なパン屋である。遠くの町から1日かけてパンを買いに来る客もいる。この時は村の期待を集めて2日かけてやって来た客に、売ることができなくなってしまったのだという。


「なるほど。微妙に迷惑ですね……」


 妻のニコールからもその3人組の話は聞いていた。オズボーン中尉が壮烈な戦死(?)をとげ、カロン曹長までもがシュークリーム(ベジクレム)の海の中に沈んだという。面白い人たちが来たと軽く考えていたが、まさか自分が巻き込まれるとは思っていなかった。


「二徹様、お茶の準備ができました」


 メイが人数分のティーカップをワゴンに乗せて運んできた。今朝焼いたクッキーやスコーンがアフタヌーンティースタンドに綺麗に並べられている。朝早くにメイと一緒に作ったものだ。


 そして手際よくメイが紅茶を入れる。昨日、南の国ドインから輸入された最高級の茶葉である。なんとも言えない清々しい良い香りで体がリラックスできる。


「はい、どうぞ」


 手際よく役員にお茶を出すメイ。それを一口飲んで一息つく役員たち。ホッとする時間は話し合いでは必要だ。落ち着くことでいいアイデアが出るものである。


「それで二徹さんにお願いがあるのです」


 お茶の味を深々と味わい、ゆっくりと息を吐いた夜の熊亭の会長が、本日の目的の言葉を発した。


「なんですか?」

「是非、メガ盛りメニューを考えていただきたいのです」


 役員全員がうんうんと頷く。


「ぼ、僕がですか?」

「そうです。これは二徹さんしかできないと思います」


 今、都中のメガ盛りメニューが次々と攻略され、危機に喘いでいる。このままでいけば、全店が攻略されてしまうだろう。大食い勝負で勝てる人材がいないのはどうしようもないが、『メガ盛り殺し』の完全制覇だけはなんとしても避けたいのだ。


「それにあの3人組、憎らしいことを言うのですよ」


 青年部代表の若者は悔しそうだ。彼はソーセージを焼いて食べさせる屋台を経営しているが、通常の3倍の長さのロングソーセージを売りにしていたが、それを10本食べられてメガ盛り殺しされていたが、その時に言われた言葉があるのだ。


「ウェステリアの料理は特徴がない」

「みんなどこかで食べた料理ばかりだ」

「こんなの食べたことがないという料理はないのか」


 これはウェステリアで食事を提供することを生業としている人間にとっては屈辱である。もちろん、ウェステリア王国独自の料理だってあるのだが、各国を食べ歩いているこの青い3連星には、どれも同じに見えるらしい。


 そうなると新発想の料理を叩きつけて、ギャフンと言わせたくなる。それがメガ盛りメニューならなおさらだ。


「う~ん。メガ盛りですか……」


 二徹は悩んだ。珍しい料理を作るのならそんなに難しくはない。転生者の二徹には、昔の日本の記憶があるからだ。日本食の中から選べばよいのである。


(問題は量だな……)


 量については、人間にはさすがに限界というのがあるから、とても食べられない量を出せばいいというものではない。挑戦者に食べられそうと思わせ、見ているものがこれは無理だと思わせる量が大切なのだ。


 そして美味しさも必要だ。いくらたくさん食べられても、まずい料理では食欲も失せる。見ている人間も思わず食べてみたくなる美味しそうな料理であることも必要なのだ。

 

つまり、(1)クリアできそうでできない量(2)めちゃくちゃ美味しいという2つのことを解決しないといけないのだ。


「頼みます」

「お願いします」


 頭を下げる役員たち。二徹は考える。


(確かに実害はないけれど、これ以上、フランドル人に負け続けるとウェステリア人としても面白くないと思う人も出てくるだろうし……ニコちゃんも気にしていたからなあ。さすがに大食い勝負は自分からやろうなんていわないけれど……)


 二徹は決心し、すくっと立ち上がると、右手を差し出した。


「分かりました。やってみましょう。彼らが食べたことのない美味しい料理のメガ盛りで勝負します」

「ありがとうございます!」


 役員たちは感謝をして帰っていた。勝負は2日後である。3人を迎え入れてのメガ盛り勝負である。


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