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487 第28話26:リィンカーネイション




「情報?」


 ヴィラデルが短く訊ねる。


「ええ、そうです。ご当主様率いる実行部隊と連絡も取れぬ中、何もせず、という訳にはいかなかったものですから」


「ナルホドねェ」


「タケ殿、ではよろしく頼む」


「はい、では……」


 タケは少しだけ深呼吸をすると話し始めた。


「我々がまずターゲットとしたのは帝国の宰相イローウエルです。これは皆様もご存知の通り、帝国の中枢に長年存在しているからでございます。……本来、中枢中の中枢を狙うのならば、当然に……皇帝を狙いと定めるのでしょうが、皇帝に近づくには数々の身分調査をくぐり抜けなくてはいけないため、危険と判断しました」


「まァ、いきなり王手とはいかないものね」


「そうだね」


 ヴィラデルとシアが同意を示すと、タケがちらりとハークに視線を送る。次に進んでいいか、という合図だろう。ハークは顎を引くことで答えとする。


「ただ、このイローウエルも中々に難関でございました。あまりにとっかかりが少ないのです。非常に仕事一辺倒と言いましょうか、特定の趣味も持たず、酒や女に深く傾倒することもありません。仕事時を抜かせば交友関係も狭く、広げようともしていないようでした」


〈どうにも、面白みに欠ける人物であるようだな〉


 タケの話を聞き、ハークは心の中でそう評価を下す。

 同時に、相容れないとも。剣の道を己の中心に置きつつも、遊び好きで多方面の趣味に手を出し、特に前世の晩年近くになってからは趣味人とすら呼ばれたハークとは真逆と言えた。


「ですので、その狭い交友関係を洗っていくことにしました。宰相イローウエルは結婚しておらず、公私ともに付き合いのある人物は限られます。弟子のような立場の者も数名いましたが、彼と深い付き合いだと判別できる者はたった4人でした」


「ふむ、4人か」


「多くもなく、少なくもなくってトコロかしらね?」


「どーだろーなァ、国の重要人物としちゃあ少ねえんじゃあねえか?」


 ヴィラデルとフーゲインがそれぞれの感想を語った後で、タケがまた続きを話し始める。


「4人の内の3人はイローウエルの邸宅に住み、文字通り本当に公私ともに生活をしているようです。彼らはイローウエルの手足となって働いているようですが、イローウエル以上に交友関係が狭く、いえ、ほとんど無く、詳細が知れませんでした。それで我らは最後の1人に焦点を絞って身辺を調査することにしたのです。それが、『異質技巧研究所』の所長、テイゾー=サギムラでした」


 聞いていた者たちはそれぞれに驚きを顕わにした。ハークの場合は右眼を見開いている。


「『異質技巧研究所』の……所長!?」


「はい。帝国に多くの有益な研究結果をもたらし、国力を大いに増した要因となった帝都の端に聳え立つ大研究所。キカイヘイを誕生させ、軍団と成した機関でございます。我々よりも同軍団をよくご存知のご様子でしたので、既に既知となされているのかとも思いましたが……」


 ハークは首を横に振る。


「……いや、儂らは単にキカイヘイとの戦闘機会が多く、経験があるだけだ。そのため内部構造などや弱点には熟知しているが、その『異質技巧研究所』が産み出した兵科というところまでしか知らぬ。研究所所長の名というのは、今初めて聞いた。その名をもう一度お願いする」


「は。テイゾー=サギムラでございます」


〈貞三……いや、呈蔵? そして(さぎ)村……といった感じか?〉


 どこか焦燥感を煽る名のような気がした。例えばコーノ、いや甲野、あるいは河野のような。


「彼は宰相イローウエルによる推挙を受けて、今の地位を得たようです。イローウエルにとっては子飼いの部下とも言える立場です。直接的な……ではない、というのがイヤらしいですね。オマケに研究所で生産されたキカイヘイの管理、運用は専門的な知識が求められるという理由でイローウエルが直接握っております」


「権力のバランスが悪いわネェ。イローウエルってのがもし反旗を翻したらマズイって皇帝は考えなかったのかしら? それとも、皇帝のイローウエルに対する信頼はそれほど強かったの?」


 ヴィラデルから疑問がこぼれるのを聞いて、ハークは織田信長と明智光秀の関係性と、歴史的に本能寺の変と呼ばれた事変を思い起こすが、口を挟むことはしない。


「この周辺一帯を治めた国の名を帝国と改め、皇帝を名乗りだす頃にはもう側近として仕えていたという話ですから、少なくとも30年は超えています。そこから考えれば、一定の信頼感は持っていたのでしょう。……ですが、我々が得た情報からの結論は、少し違います。あくまでも予測の範疇ですが、述べさせていただいても構いませんか?」


「無論です、タケ殿。是非、お願いする」


「は。イローウエル含め、彼が親しくしている者たち全ては、レベルがそれほど高くはないのです。20台の後半から30に届いていません」


「あ、ナ~~ルホド。レベルを重視する帝国らしいかも知れないワね。もし、反旗を翻されたとしても頭を抑えれば鎮圧は容易、と考えてたってことでしょう?」


「仰る通りです。ただ、このことによって長年、帝国内には軋轢が生じていました。というのも、大陸の東側は、基本的に自分よりもレベルの高い者からの命令しか受けつけないという文化があります」


 ハークもタケの言葉に何となく納得できてしまう。何度か聞いた極端なレベル偏重主義というヤツだ。


〈元帝国13将のクシャナルの時もそうだったな〉


 思い起こす彼は、ハークを強者だと理解すると同時に態度を改めていた。


「一般の兵士はともかく、彼らを束ねる立場の者たちからしてみれば逆ですからね。屈辱だったのでしょう。彼らと軍部との折り合いは特に悪かったと聞いています」


「ふむ。そのテイゾーとやらもそれくらいのレベルであったのか?」


「はい。26か7と我々は見ています。というのも彼は酒に弱いのです」


「ああ。レベルが高くなると、酔いにくく醒めやすくなるものネ」


「そうなのか、ヴィラデル?」


「ええ。まァ、ハークにはまだ解らないわよネ。レベルが高くなると毒とか効かなくなるんだけど、それと一緒なのよ。30を越えると泥酔して二日酔い、なんてこともできなくなるワ」


「テイゾー=サギムラに関してはランという娘が担当しました。我が村では一番の美女にございます」


「ほう」


 美女と酒。情報を得るには典型的な策だ。


「テイゾー=サギムラは流れるように情報を吐き出してくれたといいます。過去の実績、現在行っている研究……」


 タケは薄く笑顔を見せる。その姿にハークは、彼女も若い頃は情報探索の任に就いていたのではないかと想像する。が、ハークたちが余裕をもってタケの話に耳を傾けていられるのはここまでであった。


「……そして、彼が『ユニークスキル』の持ち主であるということ……」


「何!?」


「ユニークスキルですって!?」


 驚愕し腰を浮かしかけるハーク達に対し、タケは努めて冷静に話を続ける。


「……さすがに詳細までは語ってくれなかったようですが、ハーク様たちもご存知でありますこれまでのことを踏まえると、知恵や知識への深い恩恵を受けることのできるスキルであると推測できます」


 リンたちの開祖はその昔に西側から東側へと逃亡したユニークスキル所持者かも知れない、という情報がある。そうなれば、こういった考察には一日の長を持つだろう。


「次に、今行っている研究についてです。こちらは実に機嫌よく、詳細に語ってくれたといいます。彼は獣の兵士を生み出す、と語っていたそうです」


「獣の兵士……」


 レトのことだ。

 ハークはヴィラデル、モログ、シア、一段後ろに控えているスケリーと順番に視線を交わす。皆も気づいているようだ。


「開発を依頼された経緯としては、キカイヘイが全くレベルの上がらない存在であることが最大の要因としてあるようです。ただ、まだ制御が効かぬ存在である、というようなことも愚痴っていたそうです」


 思わぬ形で裏が取れた。


「大変有益な情報を感謝する。他にもまだ?」


 タケはこくりと肯く。


「はい。実はこの研究も、もう1つ重要な研究からの副産物に過ぎないそうです」


「副産物、ですと?」


「ええ。その研究とは、不老不死にございます」






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