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483 第28話22:天に在す風の魔さえも震撼せしめる一撃




「うおっ!?」


『危ないッス、ご主人!』


 虎丸は瞬時に前に出て、ハークに向かい高速で迫っていた人間大の岩を前足の一撃で打ち払った。


『恩に着る、虎丸!』


『なんのなんのッス!』


 主から礼を受けて、虎丸は上機嫌に返す。


 ハークならば斬って逸らすも身を翻して躱すも自在だった筈だが、後ろに守るべき人々を抱えた状態ではどちらも難しい。虎丸の好判断であった。


 ただ、その後も次々と土砂と共に礫が飛来する。

 全くと見境なく暴れ放題の6碗と強靭な足が、力任せに大地をえぐり、周囲に向かって四方八方跳ね飛ばしているのだ。


 続々と飛来するそれらを、峰の方を向けたハークの大太刀と、虎丸の足、そして日毬の『空気槌(エアハンマー)』が防ぐ。とはいえ、規則性もなく読みにくい。のべつ幕無しで数も多過ぎた。

 当たってもハーク達ならば問題は無い。万が一急所に喰らったとしても大した傷にはならないだろう。しかし、後ろの非戦闘民、特に小さな子供が1つでも受ければ大事に発展しかねない可能性があった。


『ご主人、こんなのいつまでも防ぎ切れないッスよ! アイツの様子もおかしいッス! もう倒してしまう方が良いと思うッス!』


『そうだな、虎丸の言う通りだ。情報は惜しいが致し方あるまい。虎丸、日毬、一気に決めるぞ! 手伝ってくれ!』


『了解ッス!』


「キューーン!」


 了承の意と共に魔法発動のための言葉の羅列がハークと虎丸の意識下に届く。同時に、ハークはすぐ隣にまで移動してきた虎丸の背に跨った。


 ドゴン!!


 一方で巨大な岩塊が敵の足下より突然突き上がった。巨大過ぎて小山程度の断崖が急に出現したかのようである。

 日毬の『岩塊隆起(ロックビート)』であった。


 下から大地のハンマーに打ち据えられた敵キカイヘイは、防御の意思など欠片も持っていなかったがためもあり、上空高くへと弾き飛ばされる。


「ガウア!」


 気合一発、虎丸は主を背に負いながら全力で地を蹴り、打ち上げられた敵機を目指し跳躍した。

 目標に達する寸前の空中で、主従は上下に分離する。


ガウッ(ランッ)ウガウァアアアア(ペイジイイイ)アア・ゴッッアガァア(タイッッガァアア)ァアアアアアアアアアーーーー!!!」


 背中に感じていたごく小さな体重の感覚が失われたことを確認し、虎丸はSKILLを発動、自身最強の攻撃状態へと移行する。


 かつては通常のキカイヘイの胴体部装甲でさえ破壊困難であった虎丸も、ハークと共に幾多の激戦をくぐり抜け、最早彼の相棒どころか半身ともなりつつあるそのレベルは今や47。

 本気の全力全開であれば、未だ実践こそしていないにしても通常キカイヘイの最も分厚い腹部の装甲でさえ貫通可能と、敬愛する主に太鼓判を押されている本SKILLであった。


 ただし、今回の敵新型はレベルも数値上の防御力も通常のものよりも上。確実に穿ち貫ける確証があるとは言い難い。


 が、先程ハークが散々っぱら実践してきた通り、可動部分である関節部は他の箇所に比べてどうしても脆い。

 今回の敵新型は、純粋なヒト型に極めて近いことから、関節の数が多く、丸っこい胴体にデカく太い腕と逆に小さく短い足という異形がゆえに四肢にのみにしか可動部が存在しない通常型とは違い、弱点でもある関節部は多く、更に躰の中心部にもその構造上複数設けられていた。


 この上記の部分だけに焦点を絞って考えると、今回の新型とやらは旧型よりむしろ劣化しているのである。

 戦いの際に相手の欠点や弱点を突くのは常套手段。

 この考えは、前世を含めると数え切れぬほどの実戦を通過してきたハークにとっては当然のもので、彼の半身となりつつある虎丸も、とっくにこの考えを自身のものとしていた。


 そんな虎丸が主からの指示も意思表示すらも無く狙うは腰部、敵新型キカイヘイの腰関節部である。

 鋭利すぎる刃を複数その先端に備えた竜巻が、容易く敵機のその躯を、はらわたを貫き、分断していた。


 そして、残りは分離した虎丸の主、ハークの仕事である。


「秘剣・『火炎車』ぁ!」


 蒼き刃より噴出した炎が茜色から刃と同じ色へと変化し、超高速で振るわれることで蒼炎の円陣が形成される。その威力は既に円熟の極みに達していたハークの刀技を、更に昇華させることに成功していた。


 灼熱を伴った高熱の刃には、硬さを身上とする通常キカイヘイのものを更に頑丈に、そして分厚くした新型キカイヘイの装甲部分であっても防ぎ切れるものではない。一撃で、ヒトで言えば胸の部分を真一文字に焼き斬った。

 頭部と両肩部、6腕から上とそれ以外を一刀両断して分断した形である。


 といっても、腰部から下を既に虎丸の『ランペイジ・タイガー』によって失っている状態でもあり、残った下半分は人間で例えるならば胸の下半分と腹部しかない。


 それでも、その切断面上下より先程と同様に無数の管が露出。一方は火を噴きながらもそれぞれの部位を迎えに行こうとする。

 この行動が、新型キカイヘイの動力の中枢たる魔晶石が、胴体部に存在していることを如実に知らしめる結果となった。ハークとしては半ば予測済みではあるが、伸びゆく無数の管の間に紛れてその行き先へと続く魔力の繰り糸が、全てを確信させてくれた。


 終わりである。

 ハークはゆったりとした動作で大太刀を引き絞り、突きの体勢となる。そして、刀身の周囲に噴出した風の魔力を纏わせながら回転の意識を加えていく。

 機が熟したと判断したハークが、正に最後の一撃を繰り出そうとする。


 その瞬間であった。


「俺は……、余はバアル帝国皇帝である」


 小さな呟きだった。ハークの種族がエルフでなければ耳に届きはしなかったほどである。

 この言葉を聞いた彼はSKILL発動の最終段階、繰り出す旋突そのギリギリで魔力を絞った。


「秘奥義・『天魔風震撃』」


 風の上級魔法『来れ天の竜(トルネイド)』を伴った刀身が、うねりの力を引き連れ新型の装甲を易々と突破する。

 直後、斬裂の力を携えた膨大なる渦が発生、範囲内全てのものを一切合切消滅させた。


 『天魔風震撃』は、強力無比でありながらもごく限定的な間合い及び範囲にしか効果を及ぼすことのできないハークの刀技の中にあって、唯一と言っていいほどに広範囲の超攻撃だ。

 もしハークが、先の呟きに気づかずに全力で放っていた場合、恐らく敵新型キカイヘイの躯は斬り離された全てと共に、その6本の手に持つ大剣さえも含めて粉々に破砕され、全て微塵と化していても何らおかしくはなかっただろう。

 ところが、彼が発動の瞬間に魔力を絞ったことで、彼の『天に在す風の魔さえも震撼せしめる一撃』は打ち貫いた胸から下の胴体部のみを斬滅させるだけに留まっていた。


 ホンの少しだけ上に視線を上げると、『火炎車』で斬り裂いた上の部分が自由落下に転じているのが見える。


「『風の断層盾(エア・シールド)』」


 空中軌道にはお決まりの魔法を唱え、足先に出現させたそれを蹴り、ハークは焼き斬った胸から上に迫る。切断面は未だ燃えており、既に両肩部辺りまでは炎に侵食されていた。

 斬り裂いた直後までは再生と炎が拮抗していた筈である。だが、動力源を失った結果、燃焼への抵抗力も奪われたのだろう。6碗も同じく動力源を奪ったせいか、最早ピクリとも動かない。


「ふんっ」


 ハークは真一文字にまたも刃を奔らせ、敵機の首を斬った。

 このままでは顔面までもが炎に包まれてしまうと判断したからである。

 自らが斬り落とした首を空中で捕まえると、後は重力に従って大地に降り立つ。ふんわりとした着地後、短く息を吐いた。


「ふうっ……。さて、お主、本当にバアルの皇帝なのか?」


 首だけと化した者が、基本的に喋れる筈はない。普通ならば自らが仕留めた相手に対する確認の言葉も、むなしく虚空に溶けるのみであったが、ハークのこの台詞は独り言の(たぐい)ではなかった。

 新型のキカイヘイは、首だけとなった後もしばらく呪詛の言葉を吐いていたと、ランバートから聞いていたからだ。


 果たして、帝国の皇帝を名乗ったキカイヘイの首は、ハークの質問に対する答えではなかったものの、本当に言葉を紡ぐ。


「余は……、俺は許さない。余の愛する君を奪った貴様ら(モーデル王国)を。ランバート=ワレンシュタインを。たとえこの身体が砕け……朽ちようとも、必ずや……復讐を遂げてやるのだ。何年、何十、何百とかかろうとも……、彼の仇を必ずや俺が……」


〈彼?〉


 少々脈略の無い台詞ではあった。

 だが、その中に一つ引っかかるものがあり、ハークは心の中で反芻する。決して聞き間違いではなかった。





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― 新着の感想 ―
[一言] >余はバアル帝国皇帝である あっはいw 眠りこけてる間に改造されたのかね?w >余の愛する君 えっ、まさかここでBL的な展開をw
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