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361 第22話28:Beat the living arms②




「うおっシャアー! 『瞬撃』!!」


 左の通路ではランバートが虎丸とハークに次ぐ速度で、同じく中央のキカイヘイのどてっ腹に法器合成武器を深々と突き立てた。

 既に点火のタイミングを熟知していたランバートは、撃鉄の代わりとなる柄先を膝蹴りで押し込み、衝突と同時に内部より対象を焼き尽くす。


「『瞬撃』、おりゃああっ!」


 ランバートに遅れること数瞬、同じSKILLを発動したシアの攻撃も、右端のキカイヘイに突き刺さった。


「通った!? 点火っ!!」


 脆い放熱板ではなく腹部の装甲を、前回は習得していなかった『瞬撃』で打ち貫けるか不安だったシアも、突起部分の貫通を確認してから内部爆破に無事成功する。

 その頃には残る最前列左端のキカイヘイの至近距離、拳が届く密着にまでフーゲインも間合いを詰め切っていた。


(この一カ月、鍛え直した成果を見せてやるぜぇっ!)


 そう自らの意気を上げ、彼は両拳(・・)を伸ばす。

 先端が触れると同時に、この日のためにと生み出した新SKILLを発動させる。


「『龍覇撃(ドラゴン・インパクト)』ォおあぁッチャアアアーーー!!」


 ズゴォオン! という、一際巨大な打撃音が響く。衝撃は直接叩いた拳よりも両肩により重く圧し掛かるが、その分手応えはあった。


(どうだっ!?)


 手応え充分でも不安なのはシアと同様であった。

 自身の結果を自ら見極めるフーゲインの目前で、赤き一ツ眼の光を失ったそれがゆったりと倒れゆく。


(や、やった! いけるぞ!)


 シアとフーゲインのレベルは同じく三十八である。ただし、ステータス能力値においてはフーゲインが上位クラス専用SKILL持ちであることも手伝って、シアが法器合成武器を装備するようになってからも未だフーゲインに軍配が上がる。

 しかし、彼の武器は自身の肉体、その四肢であり代えがきかないものだ。

 根本的に打撃攻撃なので、ハークやランバート、更には最近になって武器を新調したシアのような貫通力が無かった。


 どちらかというと外殻、外側を破壊する攻撃なのである。今回の敵であるキカイヘイに対しては、残念ながら外殻の破壊はほぼ意味を持たない。内部構造を傷つけ破壊せねば、時間の経過でじきに元通りとなってしまう能力を持っているからだ。

 そこで偶然にも新たな師を得てフーゲインが目指したのは、一つ一つの技の性能を徹底的にまた一から磨き直すことで、基礎の基礎、強さの根源からの引き上げであった。


 ただ、この考えに至る元々のキッカケを与えてくれたのは、実はハークである。

 彼はどんな状況、いかなる体勢であっても、常に最適最高(ベスト)の一撃を放つことができる。最初、彼とぶつかり合った際に、最早敗北寸前とまでに追い込まれて、フーゲインはこれを悟った。

 そして、これこそがハークとフーゲイン両者の間に横たわる明確な差である、とも確信をする。


 自分よりレベルの低い相手に負けたのは初めての経験であった。戦績上は引き分け、一応の痛み分けであるが、実際の戦闘であれば、あれは見逃されたに等しい、とフーゲインは認識していた。

 何しろフーゲイン側はHP、MP、SP、その全てがほぼ尽きかけていたからだ。対してハークは、MPこそカラになったものの、SPはまだ半分ほど残っていた筈で、HPに至っては減ってすらもいなかった。

 しかも、大技同士のぶつかり合いで、最後には片足も負傷してしまった。ハークは後に、あの時は無我夢中で気がつかなかったと語っていたが、あれほどの達人が手応えから相手の状態を把握していないのは少し考え難く、フーゲインは今でも半分以上疑っている。


 何はともあれ、フーゲインはその後、彼を見習ってどんな不利な状態からでも最適な位置に最高の力で攻撃を放てるようにと、エリオットにも隠れて特訓を行うようになる。

 結論から言うと、元々からフーゲインは八割方これを行うことが可能であった。しかし、意識して修練を重ねることは、フーゲインに思った以上の成果をもたらす結果となる。


 そこに現れたのが新しき師匠であった。彼女は通常の技術どころか、SKILLを含めた動きでさえ完璧であった。

 ここまでできるようになれば充分。そう考えていたフーゲインにとって、彼女の姿は一種の意識革命をもたらした。


 それから一カ月、フーゲインは彼女の指導の下に技全ての挙動を見直すことに専念する。

 まずはフーゲインの中で最も得意なSKILLである『零距離打(ワン・インチ)』からだった。

 互いに持久力には絶対の自信を持つ者同士の特訓は、枕に猛の文字を加えるだけでは表現として成り立たぬほどのものであり、たまにエヴァンジェリンが止めねば寝食も摂らぬほどであった。

 しかし、その甲斐あってか、約一カ月でフーゲインはついに両手で『零距離打(ワン・インチ)』を打ち放つことが可能となっていた。


 当然、一撃一撃の威力は片手で打った時よりも当初はかなり落ちていたが、インパクトの瞬間に頭部を後ろから前に勢い良く倒すことでこれを解消する。

 これによって、驚くべき効果が生まれた。バーンと外を壊すよりも、衝撃を深部にまで届かすことが可能となったのだ。今も、キカイヘイ内部の重要機関のどちらか、もしくは両方を破壊したのだろう。


 フーゲインと彼の師は、この技を『龍覇撃(ドラゴン・インパクト)』と名づけた。

 あくまでも外部を攻撃するが故に、対キカイヘイ戦では活躍できぬかもと思っていたフーゲインの悩みを、完全に解消する新SKILLとなったのである。


「よぉし! よくやったぜ、二人共! いったん下がるぞ!」


「はい!」


「おう大将、了解だ!」


 ランバートの指示を受けて、シアとフーゲインも一旦後退する。ランバートとシアの法器合成部位を取り換えるためだ。さすがのランバートでもキカイヘイと戦いながら武器の換装はできない。フーゲインには関係無いが、二人を守りながら戦うのは分が悪く、何より彼自身のMPやSPを防御面で消費させるワケにはいかなかった。

 その代わり、文字通りに彼らの盾となってくれる者達がいる。


「大将たちを守るんだ!!」


「「「おお~!!」」」


 再び位置を入れ替わるように、背後の部隊員たちが三人の前へと出た。

 彼らに、倒れ伏した同種を踏み壊し蹴散らしつつ、ランバートらに追い縋ろうとしていたキカイヘイ達が迫る。


「ドケ、邪魔ダ!」


「ぐおっ!!」


 ワレンシュタイン軍兵らがその手に持つ大盾を連ねて壁を形成するそこへ、キカイヘイの重く巨大な拳が振り下ろされたが、受けた大盾の一つが大きくへこむだけで壁の機能は維持されたままであった。


「ムウッ!? 弱者ガ出シャバルナ! ロケットブースト・パンチ!」


「うがあっ!?」


 しかし続く噴射拳によって半壊した大盾は上空に弾き飛ばされてしまう。それを保持していた人物の左肩より先と共に。

 壁の綻びを打ち砕いた飛拳がそのまま彼の左肩も粉砕させていたのだ。


「レイモンド!」


 片腕を失った同僚を助けようとフーゲインが向かいかけるが、それをランバートが制する。


「止めろ! 行くんじゃあねえ、フーゲイン!」


「大将!? でもよう!?」


「大将の言う通りだ、フーゲイン!」


 血が混じった唾を飛ばしながらフーゲインに二度目の制止をしたのは、何と重傷を負ったレイモンド自身だった。隻腕になった状態でも根性で上半身を起こし、フーゲインに向かって叫ぶ。


「お前の拳、そしてMPとSPは全て敵を倒すために使いやがれ! お前だって分かってるだろ!? その方が俺みてえな犠牲は少なくなるんだ! 大人しく呼吸を整えとけ!」


「うぐっ!?」


 歯を食いしばって己を制するフーゲインの前で、一人また一人とレイモンドと同じように弾き飛ばされていく。同時に、後ろで控えていた兵士達がすぐに弾き飛ばされた人員の穴埋めを行い、壁は維持され続ける。


 やがて駆けつけた聖騎士団の団員達が負傷者を担ぎ、レイモンドもその一人に後方へと運び去られるのと時を全く同じくして、再突撃の準備が整った三人が立ち上がった。


「おっしゃあ、行くぜ! お前ら、道を開けてくれ!」


 またも左右へと綺麗に別れた防御部隊の横を駆け抜けたランバート、シア、フーゲインの一撃が決まり、新たに三体のキカイヘイが破壊された。





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― 新着の感想 ―
[一言] 攻守交替式ですか、盾持ちは大変ですね…… 聖騎士団は……後方救助か、そうですね、大事な役目ですよ、ええw
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