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33 第4話01:Skill innovation


 朝早く、ハークはまたも冒険者ギルドの修練場に居た。

 付き添っているのは何時もの如く虎丸だ。本日は山と積まれた木材の横に座している。


 朝10時にギルドの案内所前で今日から共に冒険者仲間となるシアとの待ち合わせ予定であるが、それにはまだまだ時間が余っている。

 それまでにハークは少しでも新しい武器、昨日完成したばかりの『斬魔刀』をモノにするために、こんな朝早く準備万端で修練場を訪れたのである。昨日の試斬りの際にも思ったことであるが、『斬魔刀』は刀身130センチ、柄も合わせると何と180センチまで達するワケであり、その刀身だけでも現在の自分の身長と殆ど変わらないのだ。


 前世でも様々な種の武器を振るった経験を持つハークではあったが、ここまで自分の体躯と比べて長大な武器は初である。取り回しの面も考えて柄を長巻並みに長くするなどの工夫も施しているとはいえ、早くこの長さに慣れねばならない。その為の朝の修練であった。


 3つ以上の枯れ木を咥えた虎丸がハークの頭上に向かってそれらを放つ。

 頭上から落ちてくるそれらをハークは『斬魔刀』を使って一刀のもとに全て両断していく。

 リーチの長い大太刀とはいえ、複数の目標を一太刀で薙ぎ払うのは高等技術の筈であろうに、ハークは事も無げに成功させていた。


 次々と虎丸が横に積まれた木材から木々を咥え投げ上げて、それをハークが一つとして無事に落とさず延々と空中で両断していく。まさに反復練習あるのみといった風情であった。


『ご主人、今日はあの、ちぇすとーーってヤツはやらないんッスか?』


 不意に届いた虎丸からの念話に手を止めた主人に合わせて、虎丸も木々を放るのを停止する。


『ちぇすとー、って…、示現流『断岩(だんがん)』のことか?』


『そうそう、それッス』


『あれはやらん。あれをやっちまうと魔力を使い尽くしちまって眠らんといかんからな。今からじゃあとても間に合わぬ。ふらふらで街の外なんぞ行けん』


『あ、そっか。そりゃそうッスね』


 虎丸は多少残念そうな雰囲気が声に現れている。あの技がお気に入りなのだろうか?


『あれがもう少し消費魔力を抑えた状態で使用できればいいのだが…、多少威力が落ちようとも加減できんのであろうか…?どうなのだ、エルザルド?』


 そう念話を送ると同時に、首に下げた袋の中に入っている魔晶石が微量な魔力を放った。まさに文字通りの知恵袋と化したエルザルドが起動したのである。


『ふむ、武術SKILLのことか。一度、世界に定着した武術SKILLを変更することは出来ん。更にお主の言う『断岩』なるSKILLは膨大なリスクを払うことで無類の攻撃力を発揮するというSKILLであろう。と、なると魔法のように消費魔力を変えることで威力を調節するといったことも出来ん』


『むう、そうなると、あのクソ長いバレバレの口上も必須になってしまうワケか…』


『残念だがそうだ。現在残る魔法も含めた多くのSKILLにはその昔、力ある言葉として習熟を必須とされた古代言語が使われていることが多いが、中には間違った文言や意味のまま名付けられたものも少なからず存在すると聞く』


『前から疑問だったのだが、SKILLというのはどういう条件で生み出すことが出来、世界に定着されるのだ?』


 実はこの質問は大変にハークにとっても、この世界にとっても重要な質問であった。

 ハークの質問したSKILLの発生条件は一部の龍種より上でのみ(・・・・)口伝されていて、人間種には伝聞されていない知識なのだ。

 エルザルド本人であれば、その危険性を考慮して秘匿したり、あるいは大事な部分のみを不明瞭であるかのように伝えるなどの行動をとったかもしれないが、ここに居るのはエルザルド本人ではなく、彼の意識を移した情報体であった。


『威力、条件を決定し、消費する魔力を込めて、技名を口頭で発すると同時に実際に使用する事が第一条件だ』


『態々技名を口で発声せねばならんのか?』


『口で発声することで世界と契約し、SKILLが生み出され確定するのだ。技名が判らねば如何に精妙たるSKILLであろうとも世界が判らぬのだから定着しようがなかろう』


『技名を叫ぶのが嫌ならば、最初の手順をもう一度行え、ということか』


『その通りだ。それだと精度に欠けるであろうし、消費魔力に対して威力が落ちることも多い。技名を発声するならば、前準備は魔力を込めるだけで良い筈だ』


『成る程。確かに、あの長ったらしい口上を唱えれば不発となったことなど無いしな。先程、第一条件と言っていたが、まだ他に条件があるのか?』


『第二条件は第一条件で決定した威力、条件、更には技名で同じ様なSKILLが既に存在していないかが条件だ。結果だけでも既存のSKILLと類似すれば同様となり条件に抵触する。産み出せたとしても定着しない。すでに定着したSKILLの技名を変えることが不可能な理由がこの第二条件だ』


『それで条件は全て?』


『うむ』


『有難う、感謝する。ならばどこまで魔力を使うか決めて、条件、威力の面で色々と試した中で、気に入った技を実際に使いながら技名を叫べば良い、ということか』


『確かにその通りだ』


『よし、やってみよう!』


 自らの主人の決意に満ち満ちた声を聴いて、虎丸も念話に加わる。


『ご主人、早速またSKILLを生み出すんッスか?』


『うむ、先程の話を聞いて思いついた技がある。虎丸、儂の周囲にばら撒くように投げられるだけ木片を投げてくれ。頼めるか?』


『勿論ッス!やるッスよ!』


『よし、早速頼む。技名は――』


 そしてハークの周りに、大量の木材が投げ込まれた。




   ◇ ◇ ◇




「騒がしいと思ったら、エルフの坊主じゃねえか」


 斬り裂かれた木材の山に埋もれながら、汗だくで修練場の中心に立つ少年に、初老の男性の野太い声が掛けられる。

 その声にエルフの少年、ハークと、彼に付き従う従魔、虎丸が声のした方向へ同時に振り向く。そこには先日出会ったばかりだとはいえ、インパクトがある故に記憶に残る、見知った人物がいた。


「ジョゼフ殿か」


 古都ソーディアン冒険者組合本部ギルド長、ジョゼフ=オルデルステインである。

 2日前に合った際にはどうも厄介事を抱えてやや憔悴していたかのように視えたが、本日は幾分解消されたのか、その厄介事が解決に至ったのかは判らないが溌剌(はつらつ)とした笑顔を浮かべている。


「おう、邪魔して悪いな」


 ジョゼフのその言葉にハークは軽く手を振って否定する。

 既に、虎丸の横にはあれだけこんもりと積まれていた木材の山が綺麗サッパリ消え去っている。相当な量を用意しておいた筈であるが、興が乗ってしまったハーク達が2時間弱で使い尽くしてしまったのである。

 まだシアとの待ち合わせ時間には1時間ほど間があるのだが、汗だくになってしまったので休憩しようと考えていたところであり、ジョゼフもそれを見計らってから声を掛けたに違いなかった。


「ジョゼフ殿、先日は助かった。貴殿に紹介して頂いた職人のお蔭で、元の物と遜色の無い程の鞘を造って貰う事が出来た。改めて礼を言わせて頂く」


「おお、そいつは良かったぜ。紹介した甲斐があるってモンだ。シアは元気にやっていたか?」


「ああ、勿論だよ」


「そいつは重畳だ。アイツ最近、ギルドに顔も出しやがらねえからな。どうなってたか少し心配だったんだよ。今度会ったらこっちに顔出すよう伝えてくれねえか?」


「それなら好都合だ。シアはあと1時間程でここに来る筈だ。ここで待ち合わせ予定なのだよ」


「ん?何だお前ら、パーティー組みおったのか?」


 ギルド長の予想は、冒険者ギルドに無関係な第三者からすればえらく飛躍した物言いに聞こえるかもしれないが、冒険者ギルド(こんなところ)を待ち合わせ場所に選ぶなど、共に冒険をする仲間同士の冒険者くらいでしか有り得ないのである。

 ギルド長の質問にハークは首肯することで答えた。


「そうかそうか、それは良い事だ。アイツはちょっと自分…のことを気にしていてな。なかなかパーティーを組もうとせずにソロでばかり狩りをしていたんだ。お前さんなら歳もそれ程離れているワケでもないし良い冒険者仲間に成れるだろう」


 ジョゼフが一瞬言い淀んだのはシアの種族のことだろう。彼女は亜人種である巨人族とのハーフで、一部の人間からオーガキッズと呼ばれ、時に蔑みの対象ともなるらしい。19歳という若さで職人として都市で1、2を争う腕を持ちながらも彼女の武具職人店が流行っていなかったのは、この事実が多分に影響していた。


「ジョゼフ殿は随分とシアのことを気に掛けておるようだな」


「ん?あ~~、まあな。アイツはここの寄宿学校出身なんだ。俺にとっては教え子の一人なんだよ」


 ハークの質問にジョゼフは照れ臭そうに頬を掻きながら答えた。


「愛弟子という訳か」


「そんな仰々しいモンじゃあねえが…、まあ、お前さんと一緒で向上心の強い努力家だったからな。大成して店の経営も楽になって欲しいとも、正直思うぜ」


 優しげなその眼を見てハークは少し感心する。それと同時にここまでシアのことを気にしているのであれば、この後シアと共に受ける討伐依頼も彼に尋ねてみるのも一興かと思いついた。


「ジョゼフ殿。この後儂らはシアと共に魔物討伐依頼を受注するつもりだったのだが、もし何か良さげな依頼をご存知ならばお勧め頂けないだろうか?」


「おお、勿論いいぞ。任せてくれ」


「有り難い、度々恩に着る」


「気にするな、大したことじゃあ…いや、少しだけ気にして貰おう。実はお前さんに聞かねばならんことがあってな。俺の立場としても話を聞かねばならん事柄があるのだ。シアとの待ち合わせまでまだ時間があったよな。その間、少し顔貸してくれねえか?」


 ギルド長のその言葉に、ハークはぴんと脳裏に閃くものがあった。

 恐らく先日のドラゴン襲撃の顛末だろう。

 あの時、ハーク達と共にスラムの住民達の避難を援護していた者達がいた。更には倒れた冒険者風の男の命を救ったりもしている。彼らがハーク達の予想通りに冒険者ギルドに連なる者達だったとすれば、その長から事情聴取を受けるのは充分に予測出来る範囲の話であった。既にその為の対応も虎丸たちと話し合いの末に決めてある。


「構わない。だが、その前にここを片付けねばな」


 ハークが見回すと、彼の周りには新技の実験台にした木片屑が山と囲んでいる。

 だが、ジョゼフは首を横に振った。


「いや、態々話を聞かせてもらう手前こっちで片付けさせてもらう。あとお前さん、汗まみれだな。シャワー室を使ってくると良い。案内させよう。フィーア!彼らをシャワー室まで!」


「しゃわー室?」


 ハークの疑問は届かず、ジョゼフは受付にいる女性の内、一人を呼び寄せた。




(2019/3/1 誤字脱字修正)

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